第18回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 式辞・講評

12月4日、第18回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の贈呈式が行われました。今回は過去最多となる2部門4作品での大賞と2部門2作品での奨励賞受賞となり、受賞者には賞状、副賞のメダル及び目録が授与されました。本賞及び授賞作等については特集記事をご覧ください。

第18回を迎えた今年の贈呈式には、受賞者と共に取材・報道に尽力した取材チーム等の方々をはじめ、報道・メディア関係者、ジャーナリストを志す本学学生など約140名の方々が出席しました。

 

左より 遠藤氏、三浦氏、布施氏、本学田中総長、長谷川氏、島袋氏、三村氏、湯本氏

贈呈式では11月5日に新総長として就任した田中愛治総長から式辞があり、続いて選考委員を代表して吉岡忍氏から講評が述べられました。

式辞 田中愛治総長

本日はお忙しいところ、お集まりいただき誠にありがとうございます。

本賞は、2000年に創設され、2001年に第1回の贈呈式を開催しました。また、おかげさまで年々、回を重ねるごとに、賞の社会的評価も高まり、今年度は184件の応募がございました。審査員の先生方には、大変ご尽力いただき、ありがとうございます。その中から、厳選な審査を経て、4件の大賞、また2件の奨励賞を選出し、賞を贈呈させていただくことになりました。本日は、わたくしが早稲田大学を代表して、受賞者のみなさまに心よりお祝い申し上げたいと思います。本当におめでとうございます。

「進取の精神、学問の独立」を体現した精神的支柱 石橋湛山

本賞にその名を冠しております石橋湛山について簡単に申し上げます。ジャーナリストとして長く活躍した後に、政界に転じ、本学出身者として初めて内閣総理大臣に就任しました。東洋経済新報社で活躍したことはよく知られております。また、内閣総理大臣としての在任は、短期間ではありましたが、肺炎を起こして自分の体力では総理大臣の職務を務めるのは無理だということで潔く辞したということでございます。そのあたり、後で申し上げますが、早稲田らしいということかと思います。石橋湛山は、ジャーナリストとして、そして政治家として理想を見失わず、しかし多様で複雑な現実から目を逸らさず、また時勢に右顧左べんすることもなく、自らの主義・主張を堂々と貫きました。まさに校歌に謳われている「進取の精神、学問の独立」を体現した、本学の精神的支柱と言っても過言ではありません。

本学出身の政治家たちの底流にある「在野精神」

本学は、本年の3月に、早稲田大学歴史館をつくりました。正門を入ってすぐ右側の1号館の1階にございます。館内の政治、経済、学術、文化、芸能、スポーツなどの分野の本学の誇る校友を紹介する聳ゆる甍エリアにおいて、歴代の本学校友の政治家を表彰しておりますが、その紹介文を政治学者という立場でわたくしが執筆いたしました。数多くの本学校友の政治家たちの功績を念頭におき、一本の筋を通して何か書こうと思ったときに、まっさきに浮かんだ言葉は「在野精神」でした。「在野精神」というのは、あたかも野党、もしくは左翼思想のように聞こえますが、本学が使う「在野精神」は、そういうことを意味しておりません。2大保守党の党首であり、内閣を二度にわたり結成した大隈は、いわゆる学問の独立と同じ、金力、権力、名誉欲に左右されずに、学問をまっすぐ進めるということを強調したのです。彼が、明治14年の政変で下野したときに日本に民主主義を根付かせるために必要なことが2つあると考えました。一つは政党政治であり、もう一つは高等教育でした。その後、明治15年の4月に立憲改進党を、その年の10月21日に、東京専門学校(現在の早稲田大学)を作ったという歴史があります。一方、石橋は、戦争中は反戦反軍思想を唱え、しかし、戦後は保守党の内閣総理大臣になり、自分の信念に忠実に、ぶれることなく、権力や時代の趨勢に惑わされずに、自分の精神を全ういたしました。これらがまさに早稲田の在野精神だと考えております。石橋湛山以降の本学出身の政治家たちの顔ぶれを眺めますと、保守の政治家もいれば、革新の政治家もおりますが、石橋湛山がそうであったように、右とか左とか狭い世界、狭い視野ではなく、広い視野からみた在野精神が本学出身の政治家たちの底流にあるのです。

そして、今回の授賞作品は、いずれも膨大な資料の中から丹念に事実を拾い上げ、ジャーナリストとしての信条を全うした方たちばかりの労作が選ばれたと思います。この意味では、その調査手法はジャーナリズムの新しい可能性を示唆していると同時に、石橋湛山に通ずる在野精神という本学の原点にも立ち返っていると感じております。

さて、本学では、2002年から「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞記念講座」を開講しております。受賞した方々にゲスト講師として講義いただき、学生への教育に反映しております。この点におきましても、早稲田ジャーナリズム大賞は本学にとって大変意義深いものであり、ジャーナリズムの役割を、もう一度考え、将来に希望を与える機会を提供いただいております。みなさまの報道力を顕彰するばかりだけではなく、教育機関として役立たせていただいており、あらためて感謝させて頂きたいと存じます。

最後になりますが、重ねて、受賞者のみなさまのご研鑽とご苦労に最大限の敬意を払いますとともに、この受賞がさらなる飛躍の契機となることを心から願っております。本日は、誠におめでとうございます。

講評 吉岡忍委員

今回は184件もの作品が集まり、早稲田ジャーナリズム大賞に寄せる期待の大きさを実感しました。当然ながら、最終選考に残った作品はいずれも力作ばかりで、審査員一同、絞り込むのに苦労しました。例年の倍近い時間をかけて審査し、大賞を4作品選ぶという変則的な、というより、私たちとしては大変に誇らしい結果となりました。奨励賞は2作品です。

ジャーナリズムにおける力作とは

いったいジャーナリズムにおける力作とは何でしょうか。
今回の大賞、奨励賞の作品に共通していることは、記者や制作者自身が「知りたい」「理解したい」「わかりたい」と切実に思ったことをテーマにしている、ということです。そのテーマをしっかり保持しながら取材し、考え、また調べて、作品にしています。ここには、これは大切な問題だから読者や視聴者に教えてやろう、というような啓蒙的な姿勢はありません。若者にも考えてもらおう、などと媚びる姿勢もありません。あくまで自分の関心に忠実に、脇目も振らず、まっすぐにテーマに突き進んでいく。これが力作を生む最初の条件です。

もうひとつ、ジャーナリズムではしばしば「公正・公平・中立」が大事だ、と言われますが、少し乱暴な言い方をすれば、そんなことを言っているうちは取材や思考が足りない、ということです。記者や制作者がほんとうに知りたいと思ったことを取材し、調べ、そこで手にした事実に基づいて考えに考えていけば、だんだんにわかってくるのは究極の事実、これしかないという真実です。そこまでたどり着いたとき、力作が生まれる。
今回の受賞作にはそれぞれに、ある見方や主張があります。事実を極め、真実を確信すれば、それをどう見るか、どう考えるかを言表するのは当然のことです。しかし、これはいわゆるオピニオンではありません。いっときオピニオンリーダーだの、オピニオン雑誌だのがもてはやされたことがありますが、たちまちすたれてしまったのは、それらのオピニオンなるものがろくに事実や現実を調べもしない、単なる思いつきや偏見のレベルだったからでしょう。
審査しながら、本格的なジャーナリズムの仕事にいくつも出会えたことを、私は心から嬉しく思います。

【公共奉仕部門 大賞】
森友学園や加計学園の問題をめぐる政府の情報開示姿勢を問う一連の報道
森友学園・加計学園問題取材班 代表 長谷川玲(朝日新聞社ゼネラルマネージャー補佐)

国有地の売却や学部の新設をめぐって、一国の総理大臣とそれを取り巻くエリート官僚たちがどんな便宜を図ったのか。隠された事実を矢継ぎ早に発掘し、公文書の書き換えまで行われていたことを明らかにした報道活動は立派です。ジャーナリズムの第一義の仕事は権力の振る舞いを監視することですが、まさにその役割を果たしています。もちろん政権や官僚の側も弁明し、抗弁もしますが、入手した事実を小出しにし、じわじわ追い詰めていくという、この意地の悪さも、マスメディアには大切な才覚です。

【公共奉仕部門 大賞】
連載「駐留の実像」を核とする関連ニュース報道
「駐留の実像」取材班 代表 島袋良太(琉球新報社)

日米地位協定の問題を、イタリア、韓国など諸外国と米軍との関係の現地取材を通じて比較し、沖縄のみならず日本全国に及ぶ異常さをあぶり出した労作です。浮かび上がってくるのは圧倒的な米軍優位と、そのことを十分に知りながら唯々諾々と従うばかりの日本政府と官僚たちの無力・無能力です。琉球新報は以前、同種テーマで受賞していますが、政治状況に合わせ、あらたな視点で取り組んだ力技にも感服しました。こうした粘り強さがなければ、根元から歪んだ日米関係を正常化することも叶わないでしょう。

【公共奉仕部門 大賞】
NHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」
NHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」取材班 代表 三村忠史(NHK大型企画開発センター チーフ・プロデューサー)

インパール作戦が太平洋戦争中のもっとも愚かな作戦だったことは、戦後世代の私たちも知っています。その詳細を、96歳の元少尉の証言や兵士たちの日記と現地の地形や気候とつき合わせ、再現していく集中力には目を見張りました。兵士3万人が死んでいきますが、その6割は作戦打ち切り後の撤退中の疲労や病気や飢えだったという。しかも陸軍中枢は失敗の責任から逃げまわり、すべてが現地指揮官に押しつけられたという事実に、現代にも通じる権力組織の闇をのぞくような怖さがありました。

【草の根民主主義部門 大賞】
『日報隠蔽』南スーダンで自衛隊は何を見たのか
布施祐仁(ジャーナリスト) 三浦英之(朝日新聞社記者)

激しい内戦さなかの南スーダンに、「戦闘地域ではない」として派遣された自衛隊ですが、現実はどうだったのか。一人は情報公開請求によって政府・防衛省がひた隠しにしてきた日報の存在を白日の下にさらし、もう一人は内戦の現場に飛び込んで、そこがまさに戦闘地域だったことを描いていきます。アームチェア・ノンフィクションと現場ノンフィクション、2つをつないだSNSと出版社。これを異色の組み合わせと言ってはいけないのでしょう。新しいジャーナリズムの可能性を開いた作品です。

【草の根民主主義部門 奨励賞】
キャンペーン報道「旧優生保護法を問う」
「旧優生保護法を問う」取材班 代表 遠藤大志(毎日新聞社 仙台支局)

目立たない裁判事例から、戦後半世紀のあいだに1万6千人もの強制不妊手術が行われ、しかも記録は2割しか残っていないという巨大な人権侵害の事実を発掘する一方、支局の連携によって全国的規模で当事者を捜し当て、手術が行われた経緯を次々に明らかにした報道活動はみごとと言うしかありません。キャンペーンは現在も進行中ですが、国家の非人間性、非科学性を明らかにするだけでなく、生産性や効率を最優先してきた近代思想の源流にまでさかのぼって、さらに追及をつづけていただきたいと思います。

【文化貢献部門 奨励賞】
SBCスペシャル「消えた 村のしんぶん~滋野村青年団と特高警察~」
「消えた 村のしんぶん」取材班 代表 湯本和寛(信越放送情報センター 報道部記者)

昭和の初め、大不況を背景に次々と社会矛盾が吹き出します。各地の青年団などが地域に根ざした新聞や機関紙を発行し、課題に取り組みますが、他方で満州侵略によって矛盾解消を企てた政府や軍部は治安維持法などを使い、草の根の言論をひとつひとつつぶしていきました。本作品は、長野県の小県地区青年団が発行した新聞を手がかりに、当時の若者たちが自由や民主主義に抱いた希望を探り当てるとともに、それらを押し潰した権力の醜悪さを浮かび上がらせた、苦々しくも感動的な作品でした。

以上、各受賞作品について、ひと言申し上げました。ありがとうございました。

各受賞者の方々の挨拶

各受賞者の方々の挨拶につきましてはこちらをご覧ください。

【公共奉仕部門大賞】 森友学園や加計学園の問題をめぐる政府の情報開示姿勢を問う一連の報道
取材班代表 長谷川玲氏

【公共奉仕部門大賞】 連載「駐留の実像」を核とする関連ニュース報道
取材班代表 島袋良太氏

【公共奉仕部門大賞】 NHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」
取材班代表 三村忠史氏

【草の根民主主義部門大賞】 『日報隠蔽』南スーダンで自衛隊は何を見たのか
布施祐仁氏 三浦英之氏

【草の根民主主義部門 奨励賞】 キャンペーン報道「旧優生保護法を問う」
取材班代表 遠藤大志氏

【文化貢献部門 奨励賞】 SBCスペシャル「消えた 村のしんぶん~滋野村青年団と特高警察」
取材班代表 湯本和寛氏

レセプション

贈呈式の後に催されたレセプションでは、笠原博徳副総長の「このような賞を差し上げられるということは、早稲田大学としても大変光栄だと思っております。受章者、関係者のみなさまに心よりお祝い申し上げます。そして早稲田大学はこれから世界のトップ大学になるという決意と覚悟を持って発展していきますので、本日ご臨席のジャーナリストの皆様には、本学が世界のトップ大学になっていく過程をぜひ長期的に追いかけていただきたく存じます」との挨拶に続き、石橋湛山のご令孫である石橋省三・一般財団法人石橋湛山記念財団 代表理事より、「石橋湛山をはじめ多くの政治家はジャーナリストを育ててきたが、現代はジャーナリストが政治家を育てる時代かもしれない。受章者の皆様にお祝い申し上げるとともに、そのような想いを持って今後もご活躍いただきたい。」との挨拶を頂きました。その後、受章者を囲み、終始和やかに催されました。

本賞は広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘し、顕彰することにより、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた言論環境の形成への寄与を目的としています。
第19回(2019年度)「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」応募詳細につきましては来春に発表いたします。

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