ノーベル平和賞と『ヤズディの祈り』

ナディア・ムラド氏と『ヤズディの祈り』

去る10月5日、2018年ノーベル平和賞が発表されました。受賞者の一人、イラク北部出身の人権活動家ナディア・ムラド(Nadia Murad)氏がいます。
平和賞受賞報道の直後に取材を受けた彼女の顔には笑顔はありませんでした。

10月8日、米首都ワシントンで、ノーベル平和賞受賞決定について記者会見するナディア・ムラド氏 KYODO NEWS IMAGELINK 提供

イラクのシンガル山に住むヤズディと呼ばれる少数民族は、異教徒としてイスラム国(IS)による凄まじい殺戮と暴行にさらされました。ナディアはヤズディ教徒としてその被害にあった女性です。彼女は2015年12月の国連安全保障理事会において、過激派のISが少数民族ヤズディに対して行った集団虐殺と性暴力を調査し、公正な裁きを求め、現在もISISに拘束されたままのヤズディの救済を訴えるスピーチを行いました。

戦争や武力紛争の戦争兵器としての性暴力撲滅を目指す取り組みとその貢献が評価され、ナディアは25歳という若さで、誰もが知るこの世界的な賞を受賞することとなりました。

・・・大勢のヤズディが避難先を求め、国境を越えトルコに逃れてきた。

本学が主催する「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」において、2017年度文化貢献部門大賞を受賞した林典子氏の『ヤズディの祈り』(赤々舎出版)は、迫害を受けるヤズディとその現実に向き合って取材した著者の息遣いが感じられる作品です。

「・・・大勢のヤズディが避難先を求め、国境を越えトルコに逃れてきた。少数派の住人をわずか数日で数千人も殺害し、女性たちを連れ去り売買する……この時代にどうしたらこのようなことが起きるのか。なぜヤズディが攻撃の対象になったのか、いま何を思い暮らしているのか、彼らから語られる言葉を聞きたいと思った。」 『ヤズディの祈り』pp.219より抜粋

林氏の数回のイラク訪問によって作成された『ヤズディの祈り』では、故郷を奪われたヤズディたちの姿、破壊された村の風景、避難先での暮らしなどを語る数々の写真と、丹念に聴き取られた彼らの声が紡がれています。

ナディアが訴えてきたことに対して今後社会がどのように継続的に向き合っていくか

大賞を受賞したフォトジャーナリスト・林典子氏本人よりコメントをいただきました。

「先日発表されました、今年のノーベル平和賞受賞の一人にヤズディ教徒のナディア・ムラドさんが選ばれました。2014年8月、彼女が暮らすイラク北西部の村をISが攻撃した際に彼女は連行され、その後3ヶ月間に渡り戦闘員によって性的暴力を受けました。昨年、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞文化貢献部門で賞を受賞した写真集「ヤズディの祈り」には、2015年にイラクの難民キャンプで出会い、3回に渡り彼女を訪れて取材をしたナディアの写真と証言を紹介しています。
当時彼女の素顔は公開しないということで撮影をしました。その後ナディアはドイツに渡り、ヤズディ教徒、マイノリティー、そして各地で今も行われている性暴力被害者の代弁者として各国を訪れ自身の経験を語る活動を始めることになりました。
今回ナディアがノーベル平和賞を受賞したということで、一時的にナディア、ヤズディそして性暴力に対するメディアの関心も高くなっていますが、彼女が今回の受賞を冷静に受け止めているように、ナディアが訴えてきたことに対して今後社会がどのように継続的に向き合っていくか、それが結果に現れて初めて今回のノーベル賞の受賞に意味があったと言えるのだと思っています。私自身はただただ今後もじっくりと取材を続けていきたいと思っております。」

『ヤズディの祈り』林典子(赤々舎出版)

・・・静かな眼差しからは彼女の怒りと悲しみと決意の強さが伝わってきます

瀬川至朗選考委員から寄せられたコメント(早稲田大学政治経済学術院教授)

「林典子さんの写真集『ヤズディの祈り』は、ISに攻撃されて、多くの村人が殺され、性暴力の被害を受けた悲劇を『敬意といたわりの心を込めて記録し続けた作品』(広河隆一氏)として、選考会で高く評価されました。写真集のナディアさんはヒジャブで顔を隠していますが、カメラを見つめる静かな眼差しからは彼女の怒りと悲しみと決意の強さが伝わってきます。今回のノーベル平和賞受賞は大変喜ばしいことです。ただ、会見をするナディアさんに笑顔はなく、その眼差しは写真集の眼差しとつながっているようにみえました。性暴力根絶を訴え続けるナディアさん、そして取材をして記録し続ける林さんの二人の活動に今後も注目していきたいと思います。」

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞の意義とこれから

早稲田大学は、建学以来多くの優れた人材を言論、ジャーナリズムの世界に送り出してきました。先人たちの伝統を受け継ぎ、この時代の大きな転換期に自由な言論の環境を作り出すこと、言論の場で高い理想を掲げて公正な論戦を展開する人材を輩出することは、時代を超えた本学の使命であり、責務でもあります。

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」は、このような背景のもと、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた環境の形成への寄与を目的として2000年に創設され、翌2001年より毎年、広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘、顕彰してきました。公共奉仕部門・草の根民主主義部門・文化貢献部門の3部門に分け、各分野で大賞・奨励賞を設けています。

また、本賞の記念講座として、前年の受賞者、選考委員、活動が注目されたジャーナリストの方々を講師として迎えて、全学部の学生が受講できるオープン科目「ジャーナリズムの現在(石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞記念講座)」を設置しています。ジャーナリストを志す学生にとって、現在活躍しているジャーナリストの方々の鋭い視点や現場の生の声を伺い、直接質問に答えていただく貴重な機会となっており、毎回熱気あふれる授業となっています。

2018年4月、『ヤズディの祈り』著者である林典子氏に講師として登壇いただきました。

2018年度記念講座「ジャーナリズムの現在」 第2回講義における林氏

第18回(2018年度)早稲田ジャーナリズム大賞受賞者の発表は11月上旬を予定しています。

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「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」授賞記念メダル

参考:林典子(2016)『ヤズディの祈り』、赤々舎出版

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