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【公共奉仕部門 大賞】
森友学園や加計学園の問題をめぐる政府の情報開示姿勢を問う一連の報道 朝日新聞・朝日新聞デジタル
森友学園・加計学園問題取材班代表 長谷川玲氏の挨拶
このたびは、私どもの応募作を公共奉仕部門の大賞という大変栄誉ある賞にお選びいただき、誠にありがとうございます。取材班が、森友学園の国有地売却問題に絡んで、財務省が公文書を改ざんしていたことを特報したのは今年3月2日でした。何か月もかけて、地道に情報を集め、事実かどうかの確認を進めた成果です。もともと、国有地売却問題は、近畿財務局が売却にあたって大幅に値引きをしていた事実を伏せ、価格を非公表にしていたことを疑問視する記事を朝日新聞が昨年2月に報じたことで社会問題化しました。財務省は「適正に処理した」と説明していましたが、実際には、その裏で首相の妻の名前や、政治家の関わり等の記載を削るような不正をしていました。
加計学園の獣医学部新設問題を巡っては、今年4月、2015年に愛媛県職員や学園幹部らが首相秘書官と面会し、秘書官が「本件は首相案件」と発言したと記録した県の文書の存在を特報しました。秘書官は昨年来、国会の場でも面会自体を「記憶にない」と繰り返していましたが、報道後、一転して面会を認めました。二つの問題の取材を2年近く続けてきた私たちの前にはっきりと見えてきたのは、不都合な情報は隠してしまおうとする政治や行政の姿勢でした。官庁の中の官庁と言われる財務省が決裁文書を書き換える、あるいは、首相秘書官を務めたトップクラスの官僚が国会の場で平然と証言を翻す。そんなことが起こると私たち国民は予想していたでしょうか。
権力監視という使命を帯びたジャーナリズムを担う者として、隠されたファクトを掘り起こして世に問いかけられたことは、自分たちの役割を果たせた安堵と同時に、この役割を必死で続けなければならないという焦りを感じさせるものでありました。幸い、私たちだけでなく、多くの新聞社、テレビ局、そして個人のジャーナリストたちもこの二つの問題に取り組みました。それは、思想信条や、政権への支持などに関係なく、民主社会に不正義がはびこることへの危機感を共有できたからでしょう。今回、選考委員会の皆様が授賞くださった意味をジャーナリズムに携わる仲間たちと共に噛みしめたいと思っています。
取材班で応募いたしましたが、メンバーが固定されているわけではありません。二つの問題の取材に関わった記者たちの所属部署は、中心となった大阪社会部、東京社会部に加え、政治部、経済部、国際報道部、文化くらし報道部など、数多くにまたがっています。人数も多いので一堂に会したことはありません。ただ、私は、それぞれの持ち場で、この問題を取材する記者たちの心の中には、共通して、「不正義は見逃さない」というはっきりした旗印があったと確信しています。同じ旗印のもと、一人一人の記者が問題意識を持って取材を進め、集まった情報を複数のデスクや記者が多角的な視点でしっかりと精査し、ファクトに徹した発信をしていく。それが、私たちが目指す組織ジャーナリズムの在りようです。記者たちは今日も、「おかしいことはおかしいと指摘しよう」と、粘り強く事実を追い続けています。今回の受賞は、知る権利に奉仕する報道機関の役割とその存在価値を改めて認めていただいたものと受け止め、今後の励みにいたします。