Notice大切なお知らせ

「書き言葉」を取り戻す

第19回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式

2019年12月3日、第19回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の贈呈式が開催されました。3部門3作品での大賞と2部門2作品での奨励賞受賞となり、受賞者には賞状、副賞のメダル及び目録が授与されました。本賞及び授賞作等については特集記事をご覧ください。

第19回を迎えた今年の贈呈式には、受賞者と共に取材・報道に尽力した取材チーム等の方々をはじめ、報道・メディア関係者、ジャーナリストを志す本学学生など約130名の方々が列席しました。

贈呈式では、田中愛治総長から冒頭で式辞がありました。

「ジャーナリストから政界に転じ、本学出身者では初めて内閣総理大臣になった石橋湛山は、政治家としては小アジア主義を掲げ、保守系の政党人ではございますが非常にリベラルな姿勢を貫かれました。また、多様性に非常に敏感であり、早稲田大学の建学の精神そのものを体現化された方です。

田中愛治総長

現在の早稲田大学との関係で少しお話しさせていただきます。本学では2032年に150周年を迎えるにあたっての中長期計画Waseda Vision 150を鎌田前総長が2012年に掲げました。そのビジョンの策定に私も理事として関わりましたが、私が総長になり、その基本的な考え方を継承しつつ、目指すべき方向をさらに明確化しております。『世界で輝くWASEDA』をスローガンとし、学生には『たくましい知性』と『しなやかな感性』を兼ね備えてほしい。『たくましい知性』とは、人類が直面している答えのない問題に自分なりの考えで自分なりの解決策を提示できるようなたくましさ、『しなやかな感性』とは、異なる性別、国籍、宗教、文化、民族、価値観、信条を受け入れるような理解力を意味しています。これは石橋湛山の考えに近いと考えており、かつ多様性を尊重する早稲田大学において、学生に最も必要なことだと思います。ですので、『たくましい知性』と『しなやかな感性』を持った学生を育てるべく日々努めております。

今回の授賞作はいずれも、この石橋湛山の信念に非常に近く結びついている作品ばかりでした。各作品は、多様性を尊び、また、表面的なイメージやステレオタイプのイメージとは別の事実を丹念に拾い上げ、権力による隠蔽や捏造あるいは恣意的な操作を排除し、決して忘れてはならない事件や問題の再考を訴えた調査報道であると言えるでしょう。各作品の手法は様々ですが、根底に流れる精神は共通しているように思われ、ジャーナリズムの新たな可能性を示唆していると感じています。」

と述べ、本賞の受賞が各受賞者の更なる飛躍の契機となることを願いました。

続いて選考委員を代表して山根基世氏から講評が述べられました。

講評 山根基世委員 “言葉が劣化している”

山根委員

受賞者の皆様、おめでとうございます。

今回、162点の応募があり、ファイナリスト作品として12点が残りました。その中から、10人の選考委員が受賞作品を選んだわけですが、例年にも増して力の拮抗した作品が多く、皆大いに悩みました。2回のやり直しの投票の結果、3つの大賞と2つの奨励賞が選ばれ、全員が納得できる結果になりました。今年の授賞作品には、例年にない特徴があります。まず、テレビ番組や映画など、映像メディアが入っていないことです。代わりに、ラジオの番組が初めて入選しています。それから、残る4つの受賞作品は、すべて活字メディアです。結果論であり、私の私見でありますが、ここには時代が反映されているのではないかと思います。

芥川賞受賞作家の藤原智美さんが「今は500年に一度の言葉の大転換期だ」とおっしゃっています。15世紀のグーテンベルク以来、活字を基に「書き言葉」で私たちは知識を得たり、物を考えたり、感性を養ったり、いろいろ文化を築いてきました。そこに、「ネット言葉」が躍りでて蔓延し、これまでの「書き言葉」を駆逐しようとしています。「ネット言葉」の最大の特徴というのはスピード最優先ということですね。来たメールには即返信。ということは、推敲したり、検証したりすることが疎かになってしまいます。そうすると、どうしても、短い言葉、月並な言葉、そこにある、ありあわせの言葉で間に合わせてしまう…。私たちは、知らず知らずのうちに、ものの見方、考え方、感じ方、あらゆる面で影響を受けているのではないでしょうか。言葉が劣化している。非常に浅薄で短慮な言葉が溢れています。今の世の中を見渡してどなたも感じていらっしゃると思いますが、言葉の劣化というのは、人間の劣化をも招いています。

「書き言葉」でじっくり考えていたように、私たちは今、「書き言葉」を取り戻して、もっと「ものを考える人」にならなければならない。思考を深めて人間を取り戻さねば怖ろしいことになる、という無意識の選択が、選考結果に現れたのではないかという気がしています。今回、選出されたのはどれも、立ち止まってもう一度考えましょう、という、内省を促す作品であるように思っております。

【公共奉仕部門 大賞】
公文書クライシス
「公文書クライシス」取材班代表 大場弘行(毎日新聞東京本社編集編成局特別報道部)

民主主義の崩壊をここで食い止めなければ、という危機感溢れる、今、書かなければならない記事だったと思います。「国民共有の知的財産」であるはずの公文書が、今の政権でどう扱われているのかは、森友・加計問題などで、ある程度知られていましたが、この記事はもう一つの抜け穴があることに気づかせてくれました。今の時代、重要な決定が電子メールでなされることも多いというのです。電子メールが公文書として扱われていない、そのうえ、どう保存し記録していくのかというルールが全くできていない。そうした中で、個人の恣意的な判断で消去されてしまっている現状を伝えています。これでは、国民の知る権利を支える「情報公開請求」の制度も意味をなさなくなります。そもそも記録が残されないのですから。読み進めていくうちに、これは、「公文書クライシス」というよりも、「日本クライシス」だ、と感じました。言葉や思考の劣化が政治家や官僚にまで及んでいるのではないでしょうか。今後も、是非、息長くこうした報道を続けていただきたいと思います。

【草の根民主主義部門 大賞】
調査報道「呼吸器事件」 司法の実態を告発し続ける連載「西山美香さんの手紙」
呼吸器事件取材班 取材班代表 秦 融(中日新聞社名古屋本社編集局編集委員)

この記事は、当時大津支局にいた一人の若い記者の胸に生じた疑問からスタートしたといいます。呼吸器事件で有罪判決を受けた西山美香さんが、服役していた12年間に両親に宛てて書いた無実を訴える350通の手紙を読んだとき、「これは真実の声」ではないかと、冤罪を直感したというのです。実に素朴な動機ですが、一人の心が動かされ、その思いが普遍的な社会問題としてきちんと提示され、人の心に届く記事に昇華されていくということこそ、ジャーナリズムの原点といえるものだと思います。ネット空間で「いいね」でつながったつもりになっているような、空疎な人間関係が広がる中、生身の記者たちの憤りなど、人間の息づかいが伝わる記事は貴重です。この記事が、再審開始に大きく貢献し、冤罪を暴き、西山さんの名誉を回復することにつながったという点でも、新聞の底力を見せた記事だといえると思います。

【文化貢献部門 大賞】
『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』
佐々木 実

恥ずかしながら、世界的名声を得たという経済学者・宇沢弘文の名前を、私は、この本を読むまで存じ上げませんでした。しかし、私のように経済学には門外漢の人間が読んでも、一人の志高い経済学者の人物像が実に魅力的に描かれていて、彼が経済学者としてどんな社会を目指したのかが、きちんと伝わってきました。力のあるノンフィクションとしても読める作品だと思います。ある選考委員はこれを、「アカデミック・ジャーナリズム」というふうに講評しておりましたが、理論経済学の専門知識を踏まえた、学問とノンフィクションのあわいを行く新しい分野を切り拓いた作品といえるのかもしれません。本来、経済学者は、世の中でどういう役割を果たすべきかについて考えさせられましたし、こんな時代にこそ、理論経済学者・宇沢弘文の素晴らしさを、なんとしても伝えたいという、佐々木実さんの情熱が伝わって来ました。

【公共奉仕部門 奨励賞】
県知事選などを巡るファクトチェック報道とフェイク発信源を追う一連の企画
琉球新報ファクトチェック取材班 取材班代表 滝本 匠(琉球新報社)

ネット時代の今、真偽が定かでない膨大な情報が飛び交う中で、何が信頼できる事実なのかをきっちり伝えていくということは新聞の大きな役割だと思います。とりわけ、沖縄の地元紙がファクトチェックに取り組んだこと、しかも辺野古の基地問題が焦点となって、注目された県知事選の最中から連載を始めたということは、とても大きな意味を持っています。勇気の要る決断だったのではないでしょうか。選挙後も、フェイクニュースの発信源を追い、拡散される仕組みを明らかにしています。これは読者が思考を深める上での貴重な判断材料になるものです。いい加減な情報に惑わされず、「自分の頭で考える」ための情報を提供し続けることは、遠回りでも、民主主義を護る礎になると思います。

【文化貢献部門 奨励賞】
報道ドキュメンタリー「SCRATCH 差別と平成」
鳥山 穣(TBSラジオ)、神戸 金史(RKB毎日放送)

46人もの障がい者に手をかけた相模原事件の植松被告と、障がい児を持つ父親である記者が接見した時の様子が再現されていましたが、息を吞むような思いで聞きました。「息子さんは2歳のころ、安楽死させるべきだった」などと、ギョッとするような植松の言葉に、これは取材者も相当傷つくだろうな、と。時折、取材者の立場を逸脱して反論する場面もありましたが、傷だらけになりながらも、伝えずにはおかないという覚悟を感じました。「植松は時代の子」という言葉が最後にありましたが、相模原事件は、経済性や効率性を最優先して、「生産性」をキーワードに突っ走ってきた平成という時代の私たち自身を映す鏡でもあったのかもしれません。わが身を振り返らせる力のある番組でした。

各受賞者の方々の挨拶

各受賞者の方々の挨拶につきましては、準備整い次第、以下からご覧いただけます。

【公共奉仕部門 大賞】
公文書クライシス

【草の根民主主義部門 大賞】
調査報道「呼吸器事件」 司法の実態を告発し続ける連載「西山美香さんの手紙」

【文化貢献部門 大賞】
『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』

【公共奉仕部門 奨励賞】
県知事選などを巡るファクトチェック報道とフェイク発信源を追う一連の企画

【文化貢献部門 奨励賞】
報道ドキュメンタリー「SCRATCH 差別と平成」

レセプション

須賀副総長

贈呈式の後に催されたレセプションでは、須賀副総長の挨拶に続き、石橋湛山のご令孫である石橋省三・一般財団法人石橋湛山記念財団 代表理事より、乾杯のご発声を頂きました。その後、受章者を囲み、終始和やかに催されました。

石橋省三・一般財団法人石橋湛山記念財団 代表理事

本賞は広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘し、顕彰することにより、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた言論環境の形成への寄与を目的としています。
第20回(2020年度)「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」応募詳細につきましては来春に発表いたします。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる