研究キーワード
不動産金融工学、不動産情報工学、不動産モニタリング、時空間統計解析、ESG、
研究概要
プロジェクト研究所において過去15年で蓄積した研究成果をベースにし、かつ、地球規模での人口の増加と高齢化、および人・モノ・金・情報がグローバルにこれまで以上に連結性を高める、新興国市場の発展、およびフィンテック―ブロックチェーン、人工知能、およびロボット―などの新しい技術の広範囲にわたる影響、といった新しい変化をにらみながら、さらに今後、不動産を軸とした研究活動を行います。主に次の研究を柱とした研究活動を行います。
不動産金融工学・不動産情報工学の分野において着実に成果を積み上げてきましたが、「不動産の早稲田学派ここにあり」といったような広く社会にアピールするという最終目標を達成できていません。この最終目標を達成すべく、プロパーの研究所員を増員します。この増員を通じて、本研究所に不足していたIT人材の確保を行います。また、不特定多数を対象とした社会実験の実施のためには一定の研究資金が必要となること、また、これを外部からの調達のみに依存することは大きなリスクであることは言うまでもありません。これについて、同じ轍を踏まないように、以下のことを行います。
「不動産研究プラットフォーム」(全国約6000万の建物データを核とした情報システム)をベースにして、不動産に関する時空間現象をモニタリングする新たなシステムの開発を試みます。具体的には、ウィキペディアのような不特定多数のボランタリーな共同作業の方法により、不動産研究プラットフォームの不動産の価格や賃料のデータが日々更新されるような仕組みを考案します。
そこでは、今までに実施した研究成果を活用します。つまり、2018年2月にブロックチェーン×不動産クラウドファンディング研究会(プロパティーエージェントント株式会社:現東証1部と共同)を設置し、不動産クラウドファンディングにおけるブロックチェーン活用の技術的、法的課題の調査・分析やグローバルな視点での不動産におけるクラウドファンディングの発展可能性について、研究・検証していくことといたしました。この研究においては、インドの不動産会社から提供されるインドの投資用物件をグローバル投資家に販売するための方法として、ブロックチェーン×不動産クラウドファンディングの有効性を実証することを試みました。そこでは「早稲田不動産コイン」(仮称)という暗号通貨を実際に発行する予定でしたが、2018年10月にインドおよび中国の政府は民間が暗号通貨を発行することを禁止したため、本研究所の不動産コインの発行を断念しました。しかし、暗号通貨を取り巻く世界の環境はその後大きく変化しています。この経験を活かして、不特定多数の人がボランタリーな共同作業により積極的に参加するインセンティブの仕組みを考案してこれを実現する予定です。
以上の2つの社会実験の仕組みを作りこれを実施することが研究事業の一つの柱です。その目標は不動産に関する時空間現象をモニタリングの拠点づくりを早稲田で行うこと、また、これを通じて社会に貢献することにあります。
そうしたモニタリングシステムにより整備される時空間データを用いて時空間統計モデルの作成およびその実証研究を推進することが研究事業のもう一つの柱です。そこでは、時空間統計学および統計的学習を不動産市場の分析および予測に応用する研究を行います。合わせて、応用統計学の一つの分野を新たに創設することを試みます。現代では、高度な統計解析であってもその計算手順を知らない学部生であってもPCの統計パッケージソフトを用いて正しい計算を行うことができます。つまり、研究者はパッケージの出力結果を解釈し、モデルを改良することにより多くの時間を割くことができる環境下にあります。上記の時空間データ更新システムとこうした技術を組みわせることで不動産研究にイノベーションがもたらされることが期待されます。
ところで、脱炭素社会の実現、持続可能な社会・経済システムの実現(SDGs)、および環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)への取り組み、が年々活発化しています。「不動産研究プラットフォーム」にESGに関連した情報を付加することも試みます。筆者らは、過去に環境不動産、不動産投資信託のガバナンス指数の開発研究の実績があります。また、現時点では企画・申請の段階ですが、企業の社会(S)貢献の一環として不動産企業の社員研修のオンデマンド化に関する受託研究の相談を受けています。こうしたESGに関連した情報の整備は上記の社会実験の一環として行う予定です。
最後に、研究事業のために、年2回(6月および12月)の『不動産投資短観調査』を実施しています。この調査は一般社団法人不動産証券化協会の協力を得て実施しているものであり、不動産投資市場の現状と半年先の予想について約300社に対するアンケート調査です。直近3回分の調査結果はhttps://waseda-ires.jp/にて一般公開しています。本調査により日本の不動産投資市場の動向を把握することができます。例えば、どの地域のどのタイプの不動産がミスプライシングされる可能性があるかを事前に知ることができます。これを定期的に継続します。