早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了を迎える皆さんへ
アジア太平洋研究科長 三友 仁志
2020年春に学位記を授与された皆さん、修了おめでとうございます。早稲田大学アジア太平洋研究科を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、皆さんをこれまで励まし、支えてくださったご家族の方々にも、心からのお祝いと感謝の気持ちをお伝えいたします。
この春、大学院を修了する方は78名で、その内訳は博士課程が11名、修士課程が67名です。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、修了式を開催できなくなってしまったことは、本当に残念です。本来であるならば、3月26日に修了式を開催し、皆さんひとりひとりに学位記をお渡しするはずでした。
皆さんの修了をともに祝うことはできなくなってしまいましたが、この機会に、学問に取り組んだ日々を振り返り、多くの感動と気づき、研究室の仲間や教員との交流を振り返ってみてください。アジア太平洋研究科が目指す、「多様なバックグラウンドを持ちながらも一つの目的のもとに知を結集する」という理念を皆さんと共有できたならば、教職員一同にとり、とても大きな喜びです。
アジア太平洋研究科は2018年に創立20周年を迎えました。この間に、アジア太平洋地域にフォーカスした教育と研究は国内外で高く評価され、研究科の地位をこの20年で確立することができました。この20年間に輩出した修士課程学生は3000名以上にのぼり、出身の国と地域は50以上に及びます。日本あるいはアジア太平洋地域に限らず、世界のあらゆる地域において、さまざまな形で社会を支え、けん引する役割を担っています。また、博士後期課程修了生は250名を超え、修了後は研究および教育の分野に限らず、幅広く活躍されています。皆さんは、本日、その一員となります。
さて、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、私たちの社会経済がすでにグローバル化し、国境が単に主権の範囲を規定する境界を意味するだけのものであることを思い知らされました。一方で、感染者数や死亡者数は国単位でいまだ集計されており、その数値の高低に、国民は一喜一憂しています。新型コロナウイルス感染の拡大は、ともすれば自国さえ安全ならばよいという内向きな思考を助長し、仏マクロン大統領が「古い悪魔」と呼んだナショナリズムの台頭を容認することになるかもしれません。世界的な脅威にともに立ち向かうか、それとも自国の利益を優先するか、大きな岐路にあると言えます。
すなわち、医学的な意味での感染拡大は、今後、経済や社会構造においてさえ病理的な変化をもたらすおそれがあるのです。さらには、ソーシャルメディア上の誤情報やフェイクニュースは、国民の混乱をいっそう加速する可能性があります。
社会は、皆さんのような客観的な判断と世界的な人的ネットワークをもつ高度人材の力を、今こそ必要としています。様々なリスク、多様な考え方、経済的社会的問題に直面して、単に課題の解決を志向するだけでなく、社会の新たな価値を創造することのできる人が、社会の立て直しをする際に真に必要なのです。
アジア太平洋研究科における学修・研究を通じて得られた分析能力を大いに活用して、皆さんが、アジア太平洋地域のみならず地球規模での課題の解決および価値創造に向けて貢献することを期待しております。
アジア太平洋研究科は、次の20年後を目指し、さらなる教育・研究の充実に取り組んでいます。そのためには、アジアがもつ多様性や潜在性、さらには抱える諸課題に対して、伝統的な学問の領域を超えて、総合的学際的に教育・研究を行う知の集積地となることを目指す必要があります。単に課題の解決を志向するだけでなく、新しい価値の創造に向けた学術的貢献をめざしております。そのためには、皆さんの協力は欠かせません。皆さんがこれから進む道は多様ですが、ひとりひとりの活躍が、この研究科の新たな価値を生み出すのです。
皆さんは早稲田大学アジア太平洋研究科でその課程を修了されました。そしてその日から新たな協働collaborationが始まります。皆さんが歩むその足元から新しい世界が始まるのです。
最後になりますが、本年3月末をもって、浦田秀次郎先生が定年となりご退職されます。先生は著名な国際経済学者であり、研究科の歴史とともに歩み,研究科の発展に多大なご貢献をされました。ここにあらためて感謝の言葉を捧げたいと思います。
研究科では、修了生の集いを定期的に開催しております。新型コロナウイルスの感染が終息しましたら、皆さんの修了を祝う機会を作りたいと思います。
では皆さん、ともに、よりよい未来社会を作っていきましょう。あらためて、修了おめでとうございます。アジア太平洋研究科教職員一同は、皆さんのことをとても誇りに思っています。