早稲田大学大学院アジア太平洋研究科
研究科長・教授 加藤 篤史
21世紀半ばまでにアジアの人口は世界の半分以上となり、世界のGDPの半分以上を生み出すようになるという予測があります*。この予測が実現するかどうかは不確実ですが、少なくとも世界の中でアジア地域の影響力はこれまでよりもはるかに大きくなることは間違いないでしょう。地球規模の環境破壊をくい止めるためにアジアが果たすべき責任もますます大きくなってきています。しかし、アジアは国家、民族、宗教、階級、ジェンダーなど数多くの面で格差と対立をかかえ、世界を平和と繁栄に導いていく安定した基盤を形成しつつあるとは言えないと考えられます。アジアが世界の一員として、世界の平和と繁栄に貢献するために、アジアをより深く理解し、アジアが直面する問題に向き合い、解決に向かって取り組むべき方策を探究することは、歴史上かつてないほど重要になっています。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科は、「アジア太平洋を中心とする地域の歴史・政治・経済・産業・経営・社会・文化・国際間の諸問題を、グローバルかつ地域的観点から学際的に研究」すること、さらにそれら研究成果を様々な社会課題に応用し解決することを基本理念として、1998年4月に創設されました。早稲田大学教旨に明記されている「学理を学理として研究すると共に、之を実際に応用する道を講じ、以て時世の進運に資せん事を期す」という理念を、アジア太平洋地域の研究を通して体現する研究科であると言えます。
上記理念のもと、アジア太平洋研究科は、国際関係学専攻修士課程・博士課程において、「地域研究」、「国際関係」、「国際協力・政策研究」の三つの領域を設け、それら三領域を横断する学際的カリキュラムを提供しています。さらに、1)日本語・英語によるバイリンガル教育、2)世界50カ国・地域からの学生と学ぶ国際的環境、3)大学院に特化した充実した研究環境、4)多彩な経歴を持つ講師陣、5)海外での活動を積極的に支援、6)世界各国で活躍する卒業生、という六つの特色を有し、日本国内はもとよりアジア太平洋地域、さらには世界的にも、大変ユニークな教育・研究環境を提供しています。また、アジア太平洋研究科は、附置研究所として、アジア太平洋研究センターを擁し、アジア太平洋研究科での教育・研究活動と連携するかたちで、定例セミナーのほか、各種国際会議、各教員が主導する研究部会での活動、出版活動、さらには世界各国・地域からの訪問学者・訪問研究員の受け入れなどを行っています。
アジア太平洋研究科は、数多くの海外提携校を有し、国際的な共同教育に積極的に取り組んでいます。ジョージワシントン大学エリオットスクール(米国)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス国際関係学科(英国)、ジュネーヴ国際関係・国際開発研究大学院(スイス)、ハーティ行政大学院(ドイツ)、ソウル国立大学校国際研究大学院(韓国)、チュラロンコン大学政治学研究科(タイ)等、多くの国際関係分野の大学院と箇所間協定を締結し、活発な学生交換や研究交流を行っています。さらに、北京大学国際関係学院(中国)とブリュッセル自由大学ヨーロッパ研究所(ベルギー)とダブル・ディグリー・プログラムを運営しています。加えて、「東アジア共同大学院(EAUI)」構想のもと、北京大学、高麗大学、ナンヤン理工大学、タマサート大学と共同サマースクールや国際シンポジウムを行ってきました。
こうした国際的な教育活動を進めるために、文部科学省の「グローバルCOE/「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」(2008~2011年)や「大学の世界展開力強化事業/アジア地域統合のための東アジア大学院(EAUI)拠点形成構想」(2011~2016年)などの外部資金を積極的に獲得してきました。現在も、文部科学省国費留学生優先配置制度「SDGs達成のためのグローバルガバナンス構築を担うアジア欧州連携人材育成プログラム」やJICAの「開発大学院連携プログラム」・「日越大学大学院グローバルリーダーシップ専攻」設立プログラムに採択され、実施中です。
以上のような教育・研究活動を通して、1998年の設立以来、約四半世紀の間に、50以上の国々・地域からの学生を受入れ、3,957名の修士と402名の博士を輩出してきました(2024年9月時点)。卒業生の進路は多様で、大学や研究機関はもとより、各国・地域の政府、経済界、市民社会・国際機関などで、幅広く活躍しています。
世界には貧困、環境問題、感染症、移民難民問題など国民国家の枠組みでは解決できない地球的規模課題が数多く存在し、その解決のための国際協力の必要性が強く認識されています。一部の地域で分断と対立が先鋭化して暴力が勃発し、多くの人々は暴力を決して望んでいないのに、政治の暴走に巻き込まれて生命と幸福を奪われています。アジア太平洋研究科で研究する中で世界中から集まった学生たちの間で友情と信頼を築き国境を越えて結びついて、将来危機が忍び寄ってきた時にそれを乗り越えていくリーダーとして活躍してくれることを心から願っています。
*Asian Development Bank (2011) Asia 2050: Realizing the Asian Century. Available at the following: Asia 2050: Realizing the Asian Century | Asian Development Bank (adb.org)