みなさん、こんにちは! LIVSの弦間です。
今回は前回に続き、100年前に世界を旅した人たちを追っていきたいと思います。
ところで、前回の探検の内容は覚えていますでしょうか。忘れてしまった方、まだ読んでいない方、上のリンクからぜひ読んでみてください!
全2回の連載でご紹介する本は、合わせて3冊。
左から、①中村萬吉『貧乏留學生の日記』(1923年)、②坪内士行『旅役者の手記』(1918年)、③岡本一平『紙上世界漫畫漫遊』(1924年)です。
そして、今回取り上げる本は③の『紙上世界漫畫漫遊』でしたね。この本は著名な漫画家で、画家・岡本太郎の父としても知られる岡本一平が、世界一周をした際に朝日新聞に連載した画信をまとめたものです。
それでは早速、中身を読んでいきましょう!
出国、世界一周の旅へ
※以下、本文引用部分はすべて新仮名遣いに改めてあります。
さて、岡本はアメリカの大船に乗って世界一周の旅に出かけたようです。本には出発時の詳細が書かれていないのですが、もう少し詳しく知りたいですよね。
この本は朝日新聞に連載されていたものをまとめたものですから、当時の新聞には何か載っているかもしれません!
そこで、図書館のウェブサイトから学術情報検索を利用して、「朝日新聞:聞蔵Ⅱビジュアル」にアクセスしてみます。
「朝日新聞:聞蔵Ⅱビジュアル」では、過去の新聞・雑誌の記事や縮刷版などを読むことができます。試しに「岡本一平」で検索し、世界一周に関連しそうな記事を探していくと…。ありました!1922年3月18日の夕刊に「漫画『世界一周』 岡本一平君出発」という記事が載っています。
それによると、朝日新聞社の社員だった岡本一平は、1922年3月18日正午に横浜港からシルヴァ・ステート号で世界漫遊の途に出たそうです。記事は、今までになかったような面白い海外旅行記を読者に届けられるだろう、という内容で締めくくられていました。
出発時の様子がわかったところで、本の内容に戻りましょう。出港から9日目の
「陸だ!陸だ!コロンブスが亜米利加を発見した時の悦びがどの位なものかこの朝漸く判った」(③ p.11)
という台詞は、船旅ならでは。空の旅ではなかなか感じられないものだといえますね。
各国での生活と交流
海外での生活における大きな違いといえば、まずは食事。シアトルに着いた岡本は、
「この地のビフテキの大きさを御報告に及ぶ」(③ p.15)
として始まる文章を書いています。
「あまりに大きいのでホテルの食堂へ、ソット尺度(ものさし)を持って行き、計って見たら一尺二寸五分あった」(③ p.15; 読点は筆者)
そうです。一尺二寸五分は約38cm。A4クリアファイルの長い辺が約30cmですので、彼が食べたステーキはかなり大きいですね!隣のジャガイモについては
「馬鈴薯の大きさが赤ン坊の頭程」(③ p.15)
とのこと、これは一体本当でしょうか…。
挿絵はステーキの大きさを測る岡本の様子ですが、真剣な顔で測っている姿には思わずくすりとさせられますね。
当時の日本における洋食料理はコース料理が主流だったようで、一皿料理中心のアメリカでも同じように料理を注文したら料理長に大変驚かれたとも記しています。
続いて、フランスを訪れた時のエピソードを読んでみましょう。
イギリスからフランスへ入った岡本は、パリで世界的画家の藤田嗣治と再会を果たしたそうです。実はこの二人、帝劇創立の際に背景部でともに仕事をする仲間だったそうで、パリでの藤田について、
「その画家は細君と芋を揚げて生活に資し、廉い粉絵の具を油で溶き自由な画を描いてる」(③ p.197)
と記しています。また、
「髪をお河童さんに切ってた。併し言葉遣いは『ネーネー』を連発する」(③ p.197)
とのことで、帝劇時代と変わらぬ話し方だったようです。
この時の藤田は30代後半ですが、既にあの有名な髪型ですね。ちなみに、彼がレオナール・フジタに名前を変えるのは、まだ30年以上先のことです。
アメリカ、ヨーロッパを旅してきた岡本は、続いてアフリカを訪れます。イタリアから船でエジプトに渡ったそうで、カイロからは並木の一本道を歩き、砂漠へ向かったと記しています。砂漠についての
「際限なき赭色の浪」(③ p.261)
や
「砂の海」(③ p.261)
といった表現からは、彼の驚きと感動が伝わってきます。写真屋が写真撮影を勧めることに対しては、
「砂漠の神秘もめちゃくちゃだ」(③ p.261)
とし、一歩引いた見方をしているようでした。
さて、今回わせとしょ探検はここまでです。100年前の海外旅行や世界一周はいかがでしたか。本当はもっと多くのエピソードをご紹介したかったのですが……。全2回の連載のエピソードは、3冊の本の中のごく一部、気になる話題を切り口にぜひみなさんも調べてみてください!
100年前の海外旅行と留学生活。彼らが見聞きしたものは時代を感じさせるものばかりですが、内面的な部分では現代の若者と通じるものが多く、身近に感じられますね。グローバル化が進む現代と当時の海外の捉え方を比較してみるのも面白そうです。
これからもわせとしょ探検隊は旅を続けます。次回もどうぞお楽しみに!
今回の発掘成果
- 中村萬吉『貧乏留學生の日記』日東出版社 1923年
- 坪内士行『旅役者の手記』新潮社 1919年
- 岡本一平『紙上世界漫畫漫遊』実業之日本社 1924年
- 朝日新聞:聞蔵Ⅱビジュアル 1922年3月18日夕刊「漫画『世界一周』 岡本一平君出発」
バックナンバー
- 第14回 図書館から出発!100年前の海外旅行と留学をめぐる旅へ!【前編】
- 第13回 本と言葉と春の空-季節を彩る天気の言葉-
- 第12回 早稲田大学学生服にこめられた歴史
- 第11回 あなたの知らない東京オリンピック
- 第10回 改元をどう迎えた?昭和最後の日を覗いてみよう。
- 第9回 大隈重信と自動車
- 第8回 100年前、早大生はどんな学生生活を送っていた!?
- 第7回 図書館で解き明かす、ゴジラと日本・アメリカ
- 第6回 中央図書館に眠る資料(おたから)の山~早稲田大学図書館を調査せよ!~
- 第5回 早稲田生だけど意外と知らない!? 會津八一とは
- 第4回 逍遙文庫を探ってみよう!
- 第3回 バレンタインデーの秘密に迫る
- 第2回 早稲田に眠る秘密のレシピを発掘せよ!
- 第1回 年賀状から広がる図書館の世界