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【わせとしょ探検隊!】第13回 本と言葉と春の空-季節を彩る天気の言葉-

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こんにちは!LIVSスタッフの市村です。空気も少しずつ暖かくなり、日に日に春めいてきました。春はいろいろな花が咲くこともあり、歩きながら辺りを見回すのも楽しくなる季節です。また、目線を上にして空を見上げ、雲を眺めたり、風を感じたりすると、季節の移り変わりを一層感じられます。そこでふと気になったのが、この雲や風、時に降る雨の「名前」。「春一番」など、有名な名称は気象予報などで耳にするものの、それ以外の場合は「今日は暖かい風が吹いているな」、「雲がもこもこしている」といった感想を抱く程度に終わっている自分に気がつきました。こうした風や雲、ときに降る雨や雪にも、何か名前がついているのではないでしょうか。こうした季節と共に移ろいゆく天気を、調べてみましょう。

「天気」に関する資料を検索してみる

まずは早速WINEで検索してみましょう。ひとまず、キーワード検索欄に「天気」と入れて検索してみます。すると、たくさんの書籍がヒットしました。


天気予報から株価まで!? 「天気」関連書籍の山

ずらりと並んだ「天気」関連の資料を見ていくと、『半井小絵のお天気彩時記』という書籍を上位に発見することができました。ここで請求記号の番号にも注目してみましょう。


こちらの請求記号には451という数字が含まれています。

この数字は日本十進分類法に基づく分類番号になっていて、451は気象学を意味します。私が調べているテーマにちょうど合致しそうです。分類451の書架を広く見つつ、季節と気象に関係する本をピックアップしていきましょう。

今回私が調べたいのは、水蒸気や気圧配置といったような科学的な「天気」に限定しない、より広い意味での天気です。しかし、先ほどの検索結果を見ていただいても分かるように、WINEではそうした細かなニュアンスまで含めて検索をするのは難しいため、「天気」に関連した書籍が大量に表示されてしまいます。

このように、システム上の検索では目的の資料を探しづらい場合、分類などにも注目しながら、実際に書架に出向いてみることが大切です。周辺の書架や、なんとなく手に取った本から思いがけない情報を得ることができる体験は、図書館に出向いたからこそのものです。皆さんもぜひ、中央図書館を利用してみてください。

3階の「気象学」の棚(451)を見に行く

さて、すっかり改装された中央図書館へ足を運びます。エリアによってPC利用の可否など、ルールが異なりますので、しっかり確認してから利用したいですね。
お目当ての書架にたどり着き、『半井小絵のお天気彩時記』を開いてみます。イラストを用い、季節ごとに様々な言葉が紹介されています。カラー印刷で、目で見て楽しさを感じられる点から、本来の「歳時記」から「彩時記」へ表記を変更した意図が読み取れます。

書架に並ぶ『半井小絵のお天気彩時記』

まず、冒頭で思い浮かんだ「春一番」という言葉について、記載がありました。関東地方では、

立春から春分の間で、東京で南寄りの風が平均風速8m以上吹き、気温が前日より上昇した最初の日

という定義が存在しているそうです。
そしてこの「春一番」の名前がつけられた由来は、悲しいものでした。

1859年に壱岐の漁師53人が強い突風で遭難したことにより、漁師の間で春の初めの強い南風を「春一」とか「春一番」と呼んで警戒するようになったのが始まり

なのだそうです。
「春一番」が吹くと、いよいよ春も間近に迫ってきたと感じられ、浮き足立つような気分を抱いていましたが、その言葉の始まりは、自然の驚異に対する警戒意識だったのですね。

また、春になると明るい日差しを感じ、暖かな陽気に包まれて「さわやか」な気分になりますが、実は「さわやか」は秋の季語であり、「すがすがしい」が春の季語であるそうです。

続いて、同じ451に分類されている、『楽しい気象観察図鑑』を手に取ってみました。美しい雲の写真がたくさん掲載されていて、とてもわかりやすく雲や風、雨についての科学的解説が加えられています。この本の中でも、特に春に関する記述を見てみます。美しい花や、春の雲、美しい青空や黄砂に曇った空など、色鮮やかな写真とともに、解説を見てみましょう。


地球温暖化に関する書籍も豊富

春には、冷たい空気が上空に入ってくることがあり、地表で暖められた空気が冷たい上空の空気の中をどんどん上昇し、激しい雷雨になることを「春雷」というそうです。

次のページには、もくもくとした入道雲の写真が掲載されていています。ここで、夏の天候にも注目してみましょう。
春が終わると、梅雨、そして夏がやってきます。この梅雨にも、激しい雨と好天が交互に現れるはっきりした梅雨を陽性、雨が弱く降り続いたり、曇天の日が多かったりする梅雨を陰性というのだそうです。今年の梅雨はどちらの梅雨になるのでしょうか。

地下書庫の「気象学」の棚(ニ8)を見に行く

さて、ここまで中央図書館3階にある451「気象学」の書架を見てきましたが、ここで「気象学」に関する書架を見終わったと思ってはいけません。この中央図書館にはまだ見ていない「気象学」の書架があるのです。

それは、地下書庫(研究書庫)!
地下書庫の、特にB1の資料は「早稲田分類」による分類になっているため、気象学は451ではなく、「ニ 8」の書架になります。
地下書庫には古い資料も多く、3階とはまた違った資料との出会いが待っているかもしれません。早速書架へと向かい、「天気」についてさらに理解を深めていきましょう。

地下書庫B1の左奥へと進んでいった先に、「ニ 8」の書架があります。こちらも気象学関連の書籍が多く配架されているのですが、書架を眺めてみると、なかなか印象的な題名の本が並んでいました。特に『大正四年滿洲氣象報告』『大東亞の氣候』といったものは、戦前の空気を色濃く感じます。


歴史ある資料がずらり

その中の一冊に、『お天気歳時記』という1964年刊行の本が並んでいました。最初に取り上げた『半井小絵のお天気彩時記』と同じく、こちらも歳時記のようです。この『お天気歳時記』は、昭和38年に東京新聞夕刊に連載された記事をまとめたものらしく、天気についてのコラムが1年分紹介されています。


「お天気」という言葉ににじむ親しみやすさ

3月21日のテーマは「春分」。日本では春分を春の「真ん中」としましたが、西洋では、春分を春の「はじまり」とするしきたりがあるのだといいます。国や地域によって、気候や季節の感じ方も違うことがうかがえます。

また、4月10日のテーマは「電車の窓」。車内は暑いので窓をあけようといったような内容で、満員電車が東京駅から新宿駅に行くまでの間、窓を開けていても車内温度が3度以上上がるのだということが指摘されています。

現在の電車は、空調も完備されていますし、窓を開けることは少ないのではないでしょうか。50年前の人々に「春の訪れ」を感じさせていた電車内の暑さは、今では便利になったぶんだけ、すっかり遠のいてしまったものかもしれません。人々が、その時代、いったいどのようなところに「季節」を感じていたのかということも、大変興味深いものです。

「歳時記」に着目して調べ直す

ここまで3冊の本で、天気に関する言葉などを勉強してきました。特に、1冊目と3冊目の「歳時記」という観点は、新たな気づきを与えてくれそうです。歳時記とは、年中行事などを四季ごとにまとめたもので、俳諧や俳句の季語を季節ごとにまとめたものでもあります。季節を詠む俳句、その要の季語が掲載されているからには、たくさんの季節に関する言葉、季節の天気に関する言葉も載っているのではないでしょうか。さっそくWINEを開き、「歳時記」で改めて検索してみます。


「歳時記」いろいろ

ヒットした『にほんご歳時記』。こちらは気象学の書架ではなく、814の書架、日本語の語彙という分類になります。WINEの件名も「日本語 — 語彙」となっています。天気について調べているつもりが、日本語に関する資料の調査になってきました。様々な観点から資料を収集することも、物事を深く調べるのに重要な点といえるでしょう。
まずはこの情報を元に、早速資料を見に行きます。

2階の「日本語の語彙」の棚(814)を見に行く

こうしてたどり着いた『にほんご歳時記』。様々な題材が季節ごとにまとめられていますが、この本からも、いくつか春を感じる言葉、そして特に気候や天候に関する言葉をご紹介いたします。

東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ

有名な菅原道真の歌です。こちらに詠まれている「東風(こち)」。こちらの語源ですが、東風の「こ」は「氷」の「こ」、「ち」は「疾風」を「はやち」と読むことから風は和語では古く「ち」と言ったのではないかという説を挙げ、「東風」は「氷を溶かす春の突風」=「春一番」を指すと指摘しています。
この説を正しいとするならば、人々は1000年以上前から、強い風と共に春の訪れを感じてきたことになります。強い風に吹かれて「あぁ、春だなぁ」と感じるとき、1000年前にも同じような思いを抱いた人が生きていたかもしれないと思うと、歴史の長さを感じられますね。

また、先ほど「梅雨」にも触れましたが、こちらの「梅雨」に関する記述も大変興味深いものでした。「梅雨」の語源は、「ものが腐り潰(つ)いゆ」から「つゆ」となった説と、「(梅が)熟す」の「熟(つい)ゆ」から「つゆ」となった説があるそうです。普段から何気なく「梅雨」という言葉を使い、耳にしているようですが、このような語源があるのですね。今の時代では冷蔵庫が普及しているので、なかなか「腐り潰いゆ」ことは少ないかと思いますが、昔は大きな、そして身近な問題だったのだということを想像させられる説です。

同じ「日本語の語彙」の書架の、他の本たちにも目を向けてみましょう。そこには、『四季のことば辞典』という辞典も配架されていました。こちらも豊富な語彙が掲載されていましたので、いくつか言葉をご紹介いたします。


広がる「ことば」の世界

まずは「淡雪(あわゆき)」。春先に思いがけなく降り、うっすらと積もった雪のことを言うそうで、春の雪は気温が高く湿っていて雪と雪がくっつきやすく、雪片が大きくなることから、牡丹の花に見立てて「牡丹雪」とも呼ぶといいます。

続いて、「朧(おぼろ)」です。地表と上空の温度差から霧のようなものができ、物がぼうっとかすんで見える状態のことを指すそうで、朝から夕方にかけては霞、夜は朧と呼んで区別するのだそうです。朧月夜、などといいますが、こうした朧によって月がかすむ夜のことを指すのですね。これもまた、春を感じられる空模様のひとつでしょう。月を見上げるときは、そのかすみにも注目してみるとよいかもしれません。

「春雨」は有名ですが、春に音もなくしとしと降る雨のことを指します。

少し季節を先取りして、「五月雨(さみだれ)」の紹介です。「五月雨」は、「五月(さつき)」の「さ」に「水垂れ(みだれ)」が語源となっており、旧暦五月に降る長雨のことを指します。先ほど紹介した「梅雨」は時期のことも含みますが、五月雨は雨そのものを指す言葉だそうです。また、五月は早苗月でもあり、「五月雨」の「さ」は「早苗」の「さ」であるとも言われているそうです。

こうして見てみると、「雨」に関する言葉が多いように思います。「春雨」や「梅雨」などがありましたが、もう少し詳しく見てみたいと考えました。雨にも様々な名称があることがうかがえるので、今度は雨の名称を調べてみましょう。

「雨の名前」に関する資料を探してみる

WINEで「雨 名前」の2つのキーワードで検索すると、『雨の名前』というぴったりな本が見つかりました。分類は451で先ほどの気象学と同じですが、こちらの件名は「雨」になっています。

『雨の名前』という題名のとおり、たくさんの雨の名前が季節ごとにまとめられ、紹介されています。また、色鮮やかな写真も掲載されており、目で見て楽しむことができます。

「育花雨(いくかう)」は花の生育をうながす春の雨で、「養花雨(ようかう)」とも同意語なのだそうです。花咲く季節である春には欠かせない雨でしょう。

また、先ほどの梅雨にもたくさんの種類があるようで、「青梅雨(あおつゆ)」、「暴れ梅雨」、「荒梅雨(あらづゆ)」、「蝦夷梅雨」、「送り梅雨」、「返り梅雨」、「空梅雨(からつゆ)」などが紹介されていました。
これから春が終わるとやってくる梅雨。湿度も高くなかなか過ごしがたい天気ですが、これらの言葉を知り、「これは○○梅雨だな」と思い浮かべてみると、雨にも楽しさを見出すきっかけになるかもしれません。

ここからさらに検索を広げたいのですが、451の棚は先ほども眺めましたし、さらに雨に関するものを深堀りするのは難しそうです。ここでは、『雨の名前』の件名について改めて振り返りましょう。『雨の名前』の件名は「雨」。WINEでは資料ごとに「件名」が設定されていますが、この「件名」も資料検索に活用すると、より様々な資料に出会えます。

件名検索で「雨」を入力すると、関連して雨に関する件名がヒットします。「雨(効果音)」「雨 — 文学上」などもありますね。


「雨」の文字が入るたくさんの件名

今回は「雨 — 文学上」の件名が振られている唯一の資料、『雨降りの心理学 : 雨が心を動かすとき』を手に取るため、請求記号の910.2の書架に向かいました。


「雨」に託される人の心模様

910.2は日本文学史の分類です。天気から日本語、そして雨を調べるうちに、ついに日本文学に辿り着きました。探していた『雨降りの心理学』を手に取ってみると、様々な文学作品などにおいて、雨がどのように扱われ、心の動きを効果的に描写しているのかということが解説されています。

芥川龍之介の『羅生門』で描かれる下人の葛藤、その内面を表わす「雨」、『野ぶた。をプロデュース』における主人公の心理の揺れを描く「雨」など、心を動かし表わす「雨」が多く紹介されていました。

少し季節や実際の天気とは離れましたが、物語における登場人物たちの心を想像するとき、雨や風といった天気の描写にも注目してみると、さらに物語に対する理解が深まるかもしれませんね。

終わりに

このように、春、そして梅雨も先取りして、様々な天気にまつわる言葉をご紹介しました。これから空を見上げるとき、風に吹かれるとき、雨に打たれるとき、それぞれに名前があること、それぞれが昔から生活の中に根付いていたことに思いをはせると、慣れ親しんだ雨風も、また新鮮なものに感じられるかもしれません。より深く調べてみたい方は、是非図書館で本を手に取り、そして外に繰り出してみてはいかがでしょうか。

2019年2月からお送りしてきた今季の「わせとしょ探検隊!」、お楽しみいただけたでしょうか?定期連載は今回で一区切りとなりますが、これからは読者の皆様が探検隊の一員となり、わせとしょを探検してくださることを心よりお待ちしております!

今回の発掘成果

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* この記事の図書館書庫内の画像、資料の写真、データベースの画像は、早稲田大学図書館・各データベース提供元の許可を得て撮影・掲載したものです。図書館内あるいは 図書館資料・データベースを許可なく撮影すること、インターネット掲載は厳禁です。またこれらの画像の無断転用を禁止します。

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