変化に適応する早稲田アリーナ

ウィズコロナ、そして未来へ

変化に適応する早稲田アリーナの存在意義

 

2年が経ち、成長してきた草木が繁る戸山の丘

2018年11月に竣工した、早稲田大学戸山キャンパスの「早稲田アリーナ」。2年の月日が経ち、社会環境が大きく変わる中で、どのように機能してきたのか。設計を手掛けた山下設計の水越英一郎さん、本学理事(キャンパス企画)の後藤春彦・理工学術院教授が、早稲田アリーナの建築的役割について対談。後半では、コロナ禍を超え、早稲田アリーナが今後どのように変わっていくのかを語り合います。

⇒前編(早稲田アリーナの現在地)
早稲田アリーナ…早稲田大学戸山キャンパスに建設された新施設。2018年12月に竣工式を行い、2019年3月より利用が開始された。建物の大半が地下にあることが特徴で、多機能型メインアリーナ、ラーニングコモンズ、交流テラス、早稲田スポーツミュージアムなどが設置されている。アリーナ屋上部分は「戸山の丘」と呼ばれるマウンド状の広場になっており、誰でも利用することができる。
これまで、「第29回aaca賞 優秀賞」「第18回環境・設備デザイン賞 建築・設備統合デザイン部門 最優秀賞」「第19回屋上緑化・壁面緑化技術コンクール 国土交通大臣賞」「第46回東京建築賞 東京都知事賞および一般二類部門最優秀賞」等を受賞している。

コロナ禍で変わるキャンパス
早稲田アリーナのあり方とは

後藤 2020年から猛威をふるっている新型コロナウイルスにより、キャンパスにいる学生は激減。早稲田アリーナは、2年目にして存在意義を問われることになりました。

水越 人々が集まり、交流する場所をつくるのが建築家の役目ですから、集まること自体が御法度になってしまうことは、やはり残念です。自分の学生時代を思い返せば、友人たちと過ごした何気ない時間や、設計課題について議論した時間が、記憶の大半を占めています。こうした学生生活は、リモートではなかなか難しいですよね。

後藤 コロナ禍でデジタル化が推進されたのは貴重な財産になりえますが、同じ空間で人々が交流することはやはり重要です。商業地域、工業地域、住居地域のように、機能を「分ける」ことで各々の活動の最大効率化を目指した近代の都市とは異なり、現代建築はあえてさまざまな要素を「ごちゃ混ぜにする」ことが主流です。例えば、早稲田アリーナのラーニングコモンズは、大部分がガラス張りで、他人の活動が目に入るように設計されています。視線が交錯することで、ある行動が他人にも波及していく。オンライン授業では、こうした「関係のない人との出会い」が減ってしまいます。しかし同時に、キャンパスの重要性が再認識された機会でもありました。

 

ラーニングコモンズ(2019年春頃の様子)

水越 大学で重要になるのは、知的創造性です。そのためには、他の人の考えや活動を知ることが必要になります。人間だけではなく、動植物の変化も同様です。早稲田アリーナは、あらゆる場所から戸山の丘を望むことができます。壁に採用した黒いガラスも戸山の丘の緑を反射して室内に取り込むことを意図したものです。再びキャンパスでの活動が活発化した際に、このような工夫が一層意味を持ってくれると良いですね。

後藤 コロナ禍が収束した、アフターコロナの時代、都市計画や建築の価値やあり方が見つめ直されるのは間違いありません。そもそも日本の都市計画というのは、約100年前に蔓延したスペイン風邪がきっかけとなり、法整備がされていった経緯があるんです。そのため、公衆衛生という観点は最も重視されていました。戦後、新たな都市計画法に変わるわけですが、この時の方向性の中心になったのは、経済をけん引する力でした。いずれにせよ、建築や都市計画というものは、社会の要請を受けながら、「密度」と「移動」を最適化するためのもの。しかし、今回のコロナ禍はどちらの概念も大きく変えてしまったので、再定義が必要になるわけです。都市のあり方が変わる中で、新たな形式を実験できるのが、“都市のミニチュア版”である大学のキャンパス。早稲田アリーナは、その先駆けとなるのではないでしょうか。

立春の交流テラス

災害の時代に
建築が果たすべき役割

水越 社会からの要請という意味では、災害対策という観点も重要になっていくでしょう。戸山キャンパスは新宿区の広域避難所に指定されていますが、例えば早稲田アリーナに帰宅困難者を受け入れることになっても、十分に機能すると思います。耐震強度はもちろんですが、72時間の非常用発電機を備えており、その電源が不足しても地中熱や自然採光によってある程度の室内環境の維持が可能です。地下には水源が通っているので、地中熱が上がってしまうこともありません。そもそも地下は、地震の影響が少ない空間。換気も十分に考慮した設計になっているので、仮にコロナ禍で、猛暑日に、大地震が起こるような非常事態でも、高い対応力を維持できます。

災害発生時には避難所となる早稲田アリーナ

後藤 東日本大震災の発生時、早稲田大学は帰宅困難者の受け入れを行いながら、教育・研究活動を止めない施策を進めました。今回のコロナ禍でも顕著になりましたが、災害時でも社会活動を止めないとことは、非常に重要な考えです。建築にできることも多いはずですね。

参照:10 YEARS SINCE 東日本大震災(震災発生時、早稲田キャンパスで何が起きたか)

早稲田アリーナが目指したのは、
新時代の“ストーリー”が生まれること

戸山キャンパススロープ側から戸山の丘を見上げる

後藤 つまるところ、早稲田アリーナの優れているところは、いろいろな使い方でできるということですね。

水越 100年先まで使っていただきたいのです。あまり細かなところまで作り込んでしまうと、社会のニーズや流行が変わった時に使い物になりません。人と人、人と緑の関係性という、土台になる部分だけを重視し、細部には“余白”を設けるようにしたのですが、ウィズコロナによってその真価が試されるわけです。

後藤 建築家としては、やりがいのある機会だと思いますよ。建築の価値は、「形」から「場所」に置き換わってきたのではないかと考えています。設計者は場所そのものを作ることはできませんが、「実空間」を提供し、そこをユーザーが利用することで、新たな「場所」が生まれていきます。ユーザーの中に新しいライフスタイルが生まれたら、場所も変わっていく。利用のされ方によって、その建築物のあり方が変わっていくのです。

メインアリーナへ続く印象的なアプローチ

水越 そもそも、早稲田アリーナは建物の大半が地下に潜っているので、「形」がほとんどないんですよね(笑)。私が目指したのは、きっかけをつくることでした。早稲田アリーナの周囲にある自然や文化、偶発的な他者との出会いに囲まれながら、学生たちのアクティビティが生まれていく。こうしたユーザーのストーリーこそ重要で、実際にどうなるかは私にも予想できません。例えば、戸山の丘をステージに、周囲を客席にして、演劇をやるような、全く新しい方法が生まれたらうれしいです。

後藤 早稲田アリーナは、コンピューターでいうとOSということですね。それぞれのアプリケーションは、個々のユーザーがつくる。基盤さえしっかりしていれば、多様な発想が具現化されていくでしょう。今後、どのような「場所」に変わっていくかが楽しみです。

戸山の丘のスロープで

⇒前編(早稲田アリーナの現在地)

水越英一郎 山下設計ジェネラルアーキテクト、早稲田大学本庄高等学院卒、同大理工学部卒業、同大大学院理工学研究科修士課程修了。2004年竣工の93号館 早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンターを皮切りに、2009年 早稲田大学11号館、2011年同 40号館などを設計。

後藤春彦 早稲田大学理事(キャンパス企画担当)、理工学術院教授。これまでに、創造理工学部長、大学院創造理工学研究科長等歴任。日本都市計画学会・元会長。日本建築学会・副会長。工学博士(早稲田大学)

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