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早稲田アリーナの現在地

竣工から2年

早稲田アリーナの現在地

2018年11月に竣工した、早稲田大学戸山キャンパスの「早稲田アリーナ」。2年の月日が経ち、社会環境が大きく変わる中で、どのように機能してきたのでしょうか。設計を手掛けた山下設計の水越英一郎さん、本学理事(キャンパス企画)の後藤春彦・理工学術院教授が、早稲田アリーナの建築的役割について対談。前半では、完成後の歩みを振り返ります。

後編(変化に適応する早稲田アリーナ)に続く
早稲田アリーナ…早稲田大学戸山キャンパスに建設された新施設。2018年12月に竣工式を行い、2019年3月より利用が開始された。建物の大半が地下にあることが特徴で、多機能型メインアリーナ、ラーニングコモンズ、交流テラス、早稲田スポーツミュージアムなどが設置されている。アリーナ屋上部分は「戸山の丘」と呼ばれるマウンド状の広場になっており、誰でも利用することができる。
これまで、「第29回aaca賞 優秀賞」「第18回環境・設備デザイン賞 建築・設備統合デザイン部門 最優秀賞」「第19回屋上緑化・壁面緑化技術コンクール 国土交通大臣賞」「第46回東京建築賞 東京都知事賞および一般二類部門最優秀賞」等を受賞している。

地球社会のニーズに応える形で
記念会堂のシンボル性を継承

在りし日の記念会堂

後藤 早稲田アリーナが建設されたのは、かつて記念会堂があった地です。記念会堂は、早稲田大学創立75周年を記念して1957年に建設され、約60年もの間、体育の授業や体育各部の活動場、卒業式・入学式や早稲田祭などの会場として利用されつづけ、1964年の東京オリンピックではフェンシングの競技会場になっています。老朽化したことをきっかけに、早稲田アリーナの建設計画が始動したわけです。

参照1:「さようなら記念会堂。 リニューアルのためしばらくのお別れ
参照2:「記念会堂 最後の卒業式 on Vimeo(動画)

水越 当時、早稲田大学から課せられた主な設計条件は三つでした。一つ目は、時代とともに建物が増え、学生の日常空間が減った戸山キャンパスの環境を改善すること。二つ目は、多目的アリーナ、ラーニングコモンズなど、新たな教育研究環境を設置した複合施設にすること。三つ目は、シンボル性の継承です。三つ目の条件は、永きにわたり学生や教職員に親しまれ、大隈講堂に次ぐ存在の一つでもあった記念会堂のシンボル性を、どのように受け継いでいくかという課題があり、一番悩まされました。

竣工直後の早稲田アリーナ:草木がまだ若々しい

後藤 そこで、水越さんは“シンボル性”を、特徴的な外観といった造形的な意味ではなく、早稲田大学が世界に向けて発信する、次世代へのビジョンを具現化することだと捉えたわけですね。

水越 現在、国際社会では、SDGsで訴求される「社会」「経済」「環境」の両立のように、持続可能な未来の創造が求められています。私も、20年ほど早稲田大学の建設プロジェクトに携わるなかで、地球レベルで求められていることが、キャンパスにも必要になってきたことを感じていました。同時に、早稲田大学は世界への貢献をビジョンで掲げています。そのビジョンを建築物として表出し、利用する学生や教職員の方々が、価値観を共有しながら思考をさらにアップデートさせられる空間にすることが、早稲田アリーナの使命だと考えたんです。

参照:「次世代のシンボル早稲田アリーナ竣工 多くの交流機会創出の新拠点に

早稲田アリーナの
建築的先進性

地下に埋設されたアリーナ、外光を取り入れ、年間を通じて室温も安定

後藤 早稲田アリーナは、建築・デザインにおける権威ある賞を数多く受賞してきました。私は、このような賞の審査に関わることが多いのですが、早稲田アリーナは、環境的側面を重視した賞を多く受賞しています。「戸山の丘」に代表される周辺地域と調和した自然と、地下に設置されたアリーナにおける優れたエネルギー効率。この二つの特徴が評価されたのではないでしょうか。SDGsがまだ普及していない頃でしたから、持続可能な開発目標を具現化していることが先進的だったわけです。未来の建築が担うべきベンチマークの一つにもなったとも言えるでしょう。

水越 環境問題そのものは、以前から活発に議論されており、建築界でも大きなコンセプトになっていました。近年の大きな変化は、多様性や経済格差なども含む、多角的な視点で地球上の問題を捉えるようになったことでしょう。あらゆる属性の人が行き来する大学という空間は、「だれでもトイレ」に代表されるように、社会ニーズにいち早く対応することが重視されます。

自然の地形に合わせた傾斜とスロープ

水越 早稲田アリーナでは、例えば、自然の地形に合わせた傾斜に、車椅子で移動できるスロープを取り入れたり、緑豊かな戸山の丘を地域社会の交流の場としても活用できるようにしたりと、「環境」と「社会」の統合的な価値向上を目指しました。また、地下施設は、年間平均18℃と安定した地中熱を熱源として利用していますが、過剰な空調設備は除外するなど、「経済」とのバランスも考慮しています。

設計コンセプトと
ユーザーの施設利用

2月の昼下がり:交流テラス

水越 建築家は、設計時にいろいろな思いを込めるものですが、いざオープンすると、コンセプトの通りに利用されるとは限りません。しかしそれは悪いことではないと思います。早稲田アリーナについては、できるだけ幅広いユーザーの方々が、思い思いの方法で施設を利用して頂けることを目指しました。私も「完成したから終わり」ではなく、なるべく施設を訪れ、運用や改善にも携わるようにしています。その際、想定外の使われ方を見つけるとうれしくなりますね。

写真はイメージ

後藤 開館後は、ラーニングコモンズも交流テラスも満席がつづき、戸山の丘では芝生に座って会話を楽しんだり、木陰でノートパソコンに向かい学習に励んだりする学生がたくさんいました。また、地域の方々が訪れる光景も見られます。近隣の保育園や乳母車を引いた住民の方が、戸山の丘を散歩コースとして活用する例もあるようです。

水越 戸山の丘は、都会の真ん中で生物多様性に富んだ緑に触れられるよう、武蔵野の雑木林をモチーフにして整備しました。自然光や緑を感じられる環境において、知的創造性が向上するという研究がありますが、学生さんたちは賢くそのメカニズムを活用していただいているようですね。

ラーニングコモンズで戸山の丘に向かって座る学生たち

樹木の蒸散効果は、自然が生み出す“天然の冷房”ですが、木陰にいる学生さんは無意識のうちに最適な場所を選んでいるのでしょう。ラーニングコモンズにいる学生さんも、自然と戸山の丘側を向いて座っています。最近は鳥や昆虫も増えてきているようで、居心地の良い場所を求めるのは人間だけではないことも実感しました。

後藤 戸山キャンパスは、戸山公園から神田川流域に至る、緑のネットワークをつなぐ場所。地形はなだらかな傾斜になっており、地下には水源もあります。加えて、穴八幡宮のような歴史的遺産とも隣り合わせです。早稲田アリーナは、もともとあった自然や文化を再びつなぐ機能も果たすことで、生態系や地域にも貢献しているのでしょう。

戸山の丘で談笑する学生たち

水越 建築家は、第一に施主やその施設の利用者を幸せにしなければなりませんが、同時に、地域社会、そして地球社会も幸せになる仕組みを空間が環境に落とし込んでいくようなことも求められているのだと思います。誰もが平等に利用でき、地球環境の保全にもつながっていく。あらゆる課題を解消する施設として、今後も利用されていってほしいです。

後藤 複雑に絡み合った要素を、デザインの力でつなげていくのが建築の役割の一つです。早稲田アリーナの設計意図は、しっかりとユーザーに伝わっているのだと思いますよ。

後編(変化に適応する早稲田アリーナ)に続く

水越英一郎 山下設計ジェネラルアーキテクト、早稲田大学本庄高等学院卒、同大理工学部卒業、同大大学院理工学研究科修士課程修了。2004年竣工の93号館 早稲田リサーチパーク・コミュニケーションセンターを皮切りに、2009年 早稲田大学11号館、2011年同 40号館などを設計。

後藤春彦 早稲田大学理事(キャンパス企画担当)、理工学術院教授。これまでに、創造理工学部長、大学院創造理工学研究科長等歴任。日本都市計画学会・元会長。日本建築学会・副会長。工学博士(早稲田大学)

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