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’24 早稲田ジャーナリズム大賞贈呈式
石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞
Fri 13 Dec 24
石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞
Fri 13 Dec 24
2024年12月5日(木)、第24回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の贈呈式が開催されました。3部門3作品での大賞と、3部門3作品での奨励賞授賞となり、受賞者には賞状、副賞のメダルおよび目録が授与されました。

第24回 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 贈呈式


第24回となる本年度の贈呈式は、受賞者および共に尽力された関係者の方々、田中愛治総長、選考委員、石橋湛山記念財団代表理事 石橋省三様をお招きし、執り行われました。
式辞 田中愛治総長
本日は、皆さまご多用のところ、第24回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式にご出席いただき、心から感謝申し上げます。
本賞は2000年に創設され、2001年に第1回の贈呈式を開催しました。回を重ねるにつれて、賞の社会的評価も高まりつつあり、2024年度は146件のご応募・ご推薦をいただくことができました。その中から今年度は、3部門3作品の大賞と3部門3作品の奨励賞 を選出いたしました。あらためて、早稲田大学を代表して、受賞者の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。

また、読みごたえ、見ごたえのある多数の応募・推薦作品を、お忙しいなかご選考、ご評価いただいた選考委員の皆さまにも、心より御礼申し上げます。毎年のことですが、膨大な数の作品を真摯に評価していただきまして誠にありがとうございます。
本賞にその名を冠している石橋湛山氏は、ジャーナリストとして長く活躍されておりました。「東洋経済」で主筆をなさり、そして政界に転じて、戦後、本学の出身者として初めての内閣総理大臣になりました。湛山氏はジャーナリストとして、また政治家として理想を見失わず、多様な、複雑な現実から目を逸らさず、そしてまた時勢に右顧左眄(うこさべん)することもなく、自らの主義・主張を堂々と貫きました。
石橋湛山氏の有名な話として、「小アジア主義」というのを唱え、保守の政治家と言われながらも、非常にリベラルな立場を貫いたということがあります。また、非常に潔い方であり、ご病気をされた後も回復はされたと思いますが、「この身体では総理の仕事は務まらない」ということで、辞任をされます。自らそのように辞任をされる総理大臣はほとんどいらっしゃらないので、いかにも早稲田人らしい潔さをお持ちだと存じております。
この石橋湛山氏の考え方は、本学の創立者、大隈重信とも共通しています。単に政権担当政党に反対することを意味するのではなく、また、必ずしも野党ということではなく、いわゆる時の政権に阿ることなく、自分の信念に沿って判断し行動するという「在野精神」を持っていたと考えられています。本学の歴史館の中に早稲田出身の政治家を飾った部屋があり、私も拙文を書かせていただきましたが、その「在野精神」に意味について、今申し上げたように書かせていただいております。
早稲田大学は2032年に創立150周年をむかえます。また、それを機に、その先の150年を見据えていきたいと思っています。もう2032年までの道はほとんど定まっており、2012年に鎌田総長のリーダーシップのもとでつくった「Waseda Vision 150」がございますが、その数値目標の8割がたはもう達成できていますので、残り8年で残りの目標は十分に達成できると思っております。
本学はその先、2050年の日本の姿、また早稲田のあるべき姿を考えていきたいと思っております。「学問の独立」、「学問の活用」、「模範国民の造就」と3つを建学の精神があり、その3つ目の「模範国民の造就」について大隈が述べている言葉は、「一身一家一国のためのみならず、進んで世界に貢献する抱負がなければならぬ。」でございます。これがまさに利他的な考え方である早稲田精神だと思いますが、本日受賞されるジャーナリストの方たちは、この精神をお持ちというふうに存じております。自分のエネルギー、身を削りながら取材をし、丹念に作品を作り上げたということは皆さま共通していることだと思っております。
「研究教育活動を通じて、進んで世界人類に貢献し続ける大学」を目指すというのが大隈の心だと思っておりますので、2050年までにはアジアで最も学ぶ価値のある大学であることを世界中の方に認識されたいと思っています。すなわち、偏差値が高いとか、ノーベル賞の数が多いということではなく、世界人類に貢献するのであるならば、早稲田が最も効果的な教育環境を提供する大学であること、アジアだったら早稲田だと、世界中の知識人に思ってもらいたいと考えております。
そのためには、やはり、今人類が直面している多くの答えの無い問題に挑戦して、自分なりの解決策を見出すような「たくましい知性」を持った人材を育てる必要があると思っています。また、世界の人類が納得いく解決策を考え出すためには、自分と異なる者の価値観、文化、考え方、感じ方を理解できる「しなやかな感性」を持ってもらいたいと思っております。答えの無い問題に挑戦する「たくましい知性」、他者を尊重する「しなやかな感性」、この2つを早稲田の学生たちにはぜひ培ってもらいたいです。
なお、石橋湛山氏はまさにその2つを兼ねそろえた、私たちが尊敬すべき卒業生であると感じております。その精神を受け継ぐ今回の受賞作はいずれも、日々生起する膨大な出来事の中から発掘した事実を丹念に掘り下げた作品でございます。先ほど申し上げた通りですが、後ほど、三浦 俊章委員から今回の選考全体についてご講評いただきますので、それを拝聴できればと思っております。
さらに本学では、2002年から「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞記念講座」を開講しています。毎年、受賞者の方々をゲスト講師に迎えまして、学生たちに取材や報道現場の生の声を伝えていただいております。この講座は、ジャーナリストを目指す、志す学生たち大変意義深いものであり、ジャーナリズムの本質や役割を深く考えるとともに将来への希望を与えていただく貴重な機会となっております。同時に、私どもはその成果を受講生のみならず、広く世に問いたいと考え、著作としてまとめる作業を続けています。それも、皆さま方のご尽力によるところでございます。
最後に、重ねて受賞者の皆さまのご研鑽とご苦労に最大限の敬意を払いたいと存じております。また、この受賞がさらなる飛躍の契機となることを心から願っております。皆さまの今後のご活躍も期待させていただきます。本日は、誠におめでとうございます。


石橋湛山記念財団代表理事
石橋 省三 様
このような権威のある受賞式にお招きいただきましてまことにありがとうございます。まずは、受賞者の皆様、ご受賞大変おめでとうございます。
我々財団でも石橋湛山賞など褒奨事業を行っていますが、こういう褒賞は、選考委員や事務方の皆様のご尽力があってはじめて成立をいたします。選考委員の先生がた、事務を担った方々に厚く敬意を表したいと思います。

最近の選挙をみて、ジャーナリズムとは何かということを考えさせられています。兵庫県知事選挙、名古屋市長選挙では、選挙にあたっての情報源として、SNSが大きな部分を占めていました。若い人を中心にテレビや新聞離れが言われてきましたが、まさにその現象を表しています。アメリカの選挙では、イーロンマスクが出てきて、「ペンは剣よりも強し」といわれていたのが、金はペンよりも強いのかな、と感じました。
石橋湛山が名を馳せたのは、金解禁とか小日本主義の論陣で、皆様ご案内のことかと思います。しかし、これら石橋湛山が主張したことは叶わず、実際には反対の方向に進み、日本は大不況になり、戦争に突入していきました。結局この意味ではジャーナリスト石橋湛山は無力であったといえます。それにも関わらず石橋湛山が、なぜペンを握ってジャーナリストとして様々なことを書いたのか。思い当たるのが、石橋湛山は、日蓮宗のお寺に生まれ育った人間ということです。日蓮聖人が「我日本の柱とならん、我日本の眼目とならん、我日本の大船とならん」という三大誓願を述べています。これは石橋湛山も時々引用していたのですが、まさにジャーナリストというのは、「日本の眼目とならん」ということだと思い当たった次第です。
結局「眼目とならん」とは、社会・世界を先導していく、目を見開らかせるという役割で、石橋湛山は「眼目とならん」としたことが、ジャーナリストとして活動をした大きな背景だと思います。本日ここにおられるジャーナリストの方々には、「日本の眼目とならん」ことを目指して、世界を導く言論をぜひともお願いしたいと思います。
ジャーナリストの方々に、大いなるエールを送り、私の挨拶とさせていただきます。本日は、有り難うございました。
全体講評

三浦 俊章 委員
各受賞者への賞状と副賞の贈呈後、選考委員を代表して三浦 俊章委員から講評が述べられました。
大賞 3作品の講評
【公共奉仕部門 大賞】NHKスペシャル・ETV特集「”冤罪”の深層」シリーズ(NHK総合テレビ・ Eテレ)
不正な武器輸出の嫌疑をかけられた民間企業の「犯罪」が、実は功をあせった警視庁公安部のでっちあげであり、そこに経済産業省や検察がどうからんでいたか、そういった権力の闇をえぐる力作です。内部通報者の情報に基づき、また権力側の当事者にも肉薄するといった、取材の王道を踏まえた手堅い作品でした。経済安保という今最もホットなトピックだけに、だれもが権力の前に沈黙してしまい、あるいは追認してしまう、そのような問題です。そこに切り込んだ衝撃的なドキュメンタリーと言ってよいと思います。
【草の根民主主義部門 大賞】長期連載「憲法事件を歩く 理念と現実のはざまで」(信濃毎日新聞朝刊、信濃毎日新聞デジタル)
これまでの憲法報道にないユニークな、画期的な企画と言ってよいでしょう。戦後の主な憲法訴訟を、単に法律的な論点から描くのではなく、その現場を歩き、当事者たちの声を、草の根から伝えることで、こうした憲法問題が今の私たちの問題でもある、ということを、わかりやすく一般読者に伝えています。国会の憲法論議が、ともすれば政治家や政党の空疎なアピール合戦となりがちな中で、メディア、特に新聞がやるべき役割を示した意義深い作品だと思います。
【文化貢献部門 大賞】ETV特集 膨張と忘却 ~理の人が見た原子力政策~(NHK Eテレ)
日本の原子力政策の歴史を研究してきた科学史家の吉岡斉さんの残した数万点の膨大な「吉岡文書」を分析した大変な労作です。これをもとに関係者のインタビューを重ね、政府内部の文書を入手し、日本の原子力政策が、政治、官僚、産業界、学界、さらには地方自治体といった強固な利益構造に支えられて、常に「結論ありき」、という形で進められて来たことが完膚なきまでに描かれています。3・11を経て日本はどこまで変わったのかと、改めて問われているのではないでしょうか。
奨励賞 3作品の講評
【公共奉仕部門 奨励賞】「子どもへの性暴力」(朝日新聞、朝日新聞デジタル)
これまで家庭や学校といった閉ざされた空間において行われ、存在しないことにされていた、そういう子供への性暴力を、「あってはいけない」問題として正面から提起したことに大きな意義があります。これはこどもが関わるだけに非常にデリケートな、難しい取材だったと思いますが、関係者との信頼関係を築きながら粘り強く長期連載を続けてきた、そのことが何よりも評価されるべきではないでしょうか。そして最終選考会の席では、大手新聞社というメインラインのメディアがこの問題に取り組んだことを高く評価する声があったことを申し添えておきます。
【草の根民主主義部門 奨励賞】QAB報道特別番組「誰のために島を守る ~自衛隊配備 その先に~」(琉球朝日放送)
台湾危機が叫ばれる中、安全保障の「南西シフト」が進められ、自衛隊の配備が着々と進められています。この作品は、日本のもっとも西の端にある与那国島の変遷を描いた力作です。自衛隊誘致が島民を分断し、島の暮らしが破壊されている様子を地元に密着して伝え、人々の迷いや苦悩がそこに描かれる生身の人間のドラマとして伝わってきます。過疎の問題と国策、という点では、先に述べた原子力政策にも通じる日本の政治に関わる普遍的な課題を取り上げているといっても良いでしょう。
【文化貢献部門 奨励賞】映画「ちゃわんやのはなし ー四百年の旅人ー」(企画・制作スモモ)(劇場公開映画(ポレポレ東中野、第七藝術劇場、他全国公開))
豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に諸大名が連れて帰った朝鮮陶工により日本各地で始まった陶器づくりの歴史を描いています。当時、陶器というのは最先端の技術だったんですね。中でも薩摩藩では、藩主島津家が後ろ盾となり、朝鮮の文化を伝える独自のコミュニティーが維持され、そこでつくられた薩摩焼は幕末から明治にかけて世界的な評価を得るようになりました。その伝統を背負いながらそれを未来につなぐ親子の物語を描いています。同時に、日韓の文化交流やそれから日本国内における差別の問題にも目を配って、奥行きのある作品に仕上がっていると思います。カメラワークも秀逸で、映画としての完成度も高いという評価もありました。
最後に全体を振り返ってですけれども、今年の受賞作には大きく二つの柱、二つの流れがあると思いました。
ひとつは、権力の監視です。権力の不正をモニターし、権力の乱用があれば、それを批判する、そういうジャーナリズムの古典的な役割を果たした作品です。「冤罪の深層シリーズ」「膨張と忘却」「誰のために島を守る」がそれにあたると思いました。
もうひとつは、視線を低くして、社会の底流、底の視点から、我々の文化、あるいは我々の社会が抱える問題をとりあげた作品群です。「憲法事件を歩く」「こどもへの性暴力」「ちゃわんやの話」がそれにあたるでしょう。
現代は、残念ながらジャーナリズムにとってはたいへん厳しい時代だと言わねばありません。これは、SNSの負の側面ですが、世界がますます分断され、フェイクニュースがあふれ、専制主義的な政治家やポピュリズムといったものが先進民主主義国にも広がっています。そのような危険な流れから日本も無縁とは言えません。そういう時代に、権力を監視する、社会の声なき声を拾うという、本来のジャーナリズムの役割を担う作品群が、こうやって次々に生まれているというのは、大変心強いことであります。そしてまた、そうした作品をしっかりと評価することが、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞の役目であると、審査を通して強く確信いたしました。
受賞者のみなさん、あらためて、このたびの受賞、おめでとうございます。
受賞者挨拶
【公共奉仕部門 大賞】
NHKスペシャル・ETV特集「”冤罪”の深層」シリーズ 石原 大史 様
【草の根民主主義部門 大賞】
長期連載「憲法事件を歩く 理念と現実のはざまで」 渡辺 秀樹 様
【文化貢献部門 大賞】
ETV特集 膨張と忘却 ~理の人が見た原子力政策~ 石濱 陵 様
【公共奉仕部門 奨励賞】
「子どもへの性暴力」 大久保 真紀 様
【草の根民主主義部門 奨励賞】
QAB報道特別番組「誰のために島を守る ~自衛隊配備 その先に~」 塚崎 昇平 様
【文化貢献部門 奨励賞】
映画「ちゃわんやのはなし ー四百年の旅人ー」 (企画・製作:スモモ)松倉 大夏 様(本作監督)
関連リンク・第25回 早稲田ジャーナリズム大賞に向けて
第25回(2025年度)「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の応募詳細につきましては、2025年春頃に発表いたします。たくさんの作品の応募・推薦をお待ちしております。
本賞は広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘し、顕彰することにより、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた言論環境の形成への寄与を目的としています。
本賞及びこれまでの授賞作等については、以下のWebページをご覧ください。