【公共奉仕部門 奨励賞】
「子どもへの性暴力」
朝日新聞、朝日新聞デジタル
大久保 真紀 氏の挨拶
このたびは、「子どもへの性暴力」をこのような賞に選んでいただいて、大変ありがとうございます。この賞は私達というよりも、勇気をもって、本当につらいご自分たちの体験を語ってくださった方々に与えられた賞だと思っています。
取材班が発足したのはおよそ7年前、そして掲載が始まったのは5年前、2019年の12月になります。その間およそ2年があって、この連載を世に出すためにはたくさんの壁がありました。それは社内の壁でもあり、社会と表裏一体の壁でもあると感じています。
やはり子どもへの性暴力は、これまで「いたずら」あるいは「暴行」というような捉え方をし、見たくない、ないもの、として扱われてきました。しかし、ものすごく多くの方々が被害を受け、その後の人生にも大きな影響を受けています。
その現実に向き合わなければ、対策も対応も立てられないと思って、見たくない方がいっぱいいらっしゃるかもしれませんし、読みたくないと思う方もいっぱいいらっしゃるかもしれませんけど、あえて私達はこのテーマに挑みました。
新聞社なので頻繁に異動があります。取材班ができて7年ですが、取材班として関わった記者はおよそ10人、あとは地方の警察からの情報をもらったり、少し手伝ってもらったりした記者を合わせると計23人が関わった取材です。
実は応募の段階で間に合えばいいなと思い書籍化も進めていたのですが、日々の仕事がものすごく大変で、書籍化が間に合いませんでした。その本は今月20日に発売になります。10部までをまとめているんですが、それで数えましたら、お話を聞かせてくださった当事者は、加害者も含めて104人に上っています。
でもこれは社会の中のほんの一部です。本当に勇気を持って私達に語ってくださった方々がいたからこそ、私達は連載ができ、皆さんにお届けすることができました。まだまだ社会は変わらなくてはならないと強く感じています。日々の報道でもようやく性暴力のことが出てきていますけれども、昨日も関西の裁判所で2歳児に性交をしようとした男に対して懲役5年の判決が言い渡されており、本当に私達が知らないところでいろんなことが起きています。
子どもを守るということは私達の未来を守ることになります。ぜひこれをきっかけに社会がきちんと受け止めて、私たちの連載がこの問題に社会としてしっかり取り組むきっかけ、ほんの小さなきっかけだと思いますけども、になればいいなと思っています。
あらためて勇気を持って語ってくださった被害者の方々、当事者の方々にお礼を申し上げたいと思います。そしてこの賞をいただいたことをかみしめながら、これからも仲間と取材を続けていきたいと思います。本当に、どうもありがとうございました。