第24回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 受賞者挨拶 ― 渡辺 秀樹 氏

【草の根民主主義部門 大賞】
長期連載「憲法事件を歩く 理念と現実のはざまで」

信濃毎日新聞、信濃毎日新聞デジタル

渡辺 秀樹 氏の挨拶

はじめに、母校のシンボルであり、世界各国首脳の講演や、学園紛争などの歴史を刻んできたこの大隈講堂の舞台に立てる栄誉を与えていただいたことを、まことに光栄に思います。そして、たった一人で4年間、全国を歩いて、続けてきた連載「憲法事件を歩く」に高い評価を与えてくださったことを感謝いたします。

私は、新聞の究極的な使命は二度と絶対に戦争を起こさせないことだと思っています。その物差しはなにか、それは戦争の反省が随所に刻まれている日本国憲法です。今、「随所に」と申し上げました。憲法の戦争防止規定というのは、9条を思い浮かべる方が多いかと思いますが、実はそれだけではありません。例えば13条「個人の尊重」。これが侵されて、国家が優先されるような社会になれば、簡単に戦争に向かっていきます。それから、我々にとって最も大事な21条「表現の自由」。これが侵されると戦争に反対することができなくなります。さらに20条「政教分離の原則」。これは一見、戦争防止とどう関係があるかと思う方もいるかと思います。戦前、国家と神道が結びついた国家神道は、「戦死すれば神になって靖国神社にまつられる名誉なことだ」ということで、人々の厭戦観を和らげて、戦争に駆り立てていく装置だったわけです。その結果、多くの若い命が失われていきました。こういう装置を二度と作らせず、政治と宗教を切り離して、戦争が遂行できないようにする。それが政教分離の原則なのです。こういうことを私は4年間に及ぶ取材を通して学びました。

権力の行いについて、常に憲法に照らして問題がないかどうかをチェックするのが新聞の大事な役割です。憲法違反を主張する人々の声に耳を傾け、さらに違憲審査権を持つ司法が、きちんと機能しているかを検証する。そのために、当時の裁判官にもできる限り取材のアプローチをする。こういうことを続けてまいりました。

それは、この連載だけではなく、例えば長野県知事が靖国神社の地方版ともいえる護国神社の支援組織の代表を務め、神社への寄付まで募っている。あるいは、生活保護減額訴訟で、原告の切実な想いをよそに、前の判決文をコピペして判決文を作っている疑いが濃厚である、というスクープを通しても問題提起してまいりました。

6年前の弊社の新年祝賀式で社長の小坂壮太郎が次のようなことを述べました。「憲法改正の発議があるかもしれない。我々が言うべきことを、言うべき時に言えるかどうか。これは決して編集局だけの課題ではなく、全社員に求められる覚悟です」。つまり、トップが社員全員に憲法について考えなさいと言ったわけです。だからこの連載を始めたわけではないですが、このような社内の言論環境も、この連載を続けるうえで後押しになったと考えております。

私自身は、いま難病が悪化して、歩行に支障がある状態になっています。しかし、ジャーナリストとして反戦反軍を唱えた石橋湛山、そして反骨の早稲田精神、これを胸に今後も権力を監視する取材を続けてまいりたいと思います。本日はありがとうございました。

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