開催日時
2013年12月9日(月)16:00 – 18:00
場所
早稲田大学19号館(西早稲田ビル)7階710教室
参加資格
WIAPS専任教員・助手, WIAPS受入の交換研究員・訪問学者・外国人研究員, GSAPS修士課程・博士後期課程在学生
報告1
報告者
市川 紘子 氏 (早大アジア太平洋研究センター助手)
報告テーマ
米国政府による対外放送政策の理念:「パブリック・ディプロマシー」の理論的系譜に関する考察
要旨
本報告は、コミュニケーション研究との関連から、「パブリック・ディプロマシー」の研究領域の位置づけについて議論を行う。はじめに第一次世界大戦期から現在に至るまでの米国の対外文化政策の歴史に関与した、コミュニケーション研究で議論された諸概念の系譜を検討する。そして、これらの諸概念が米国の対外文化政策に適用されることで、何が問題視されたのかについて考察する。その上で、これらの系譜と「パブリック・ディプロマシー」の概念の関連性や、冷戦期以降の「パブリック・ディプロマシー」の具体的な役割についても考察していきたい。
報告2
報告者
周 倩 氏 (早大アジア太平洋研究センター助手)
報告テーマ
日中両国における<ミドルクラス>のメディア・イメージの比較社会学的研究
要旨
従来の階層階級研究では、客観的な属性(職業や学歴など)と、主観的な特徴(階層帰属意識など)が扱われているが、個人を媒介とするメディア、特にそこで形成されているイメージが考察の対象とされることはなかった。他方、従来のメディア研究では<ミドルクラス>が扱われることは稀である。この両者に架橋する必要があるというのが、本研究の基本認識である。本報告は独自の「ミドルクラスの理解模型」を提示し、メディアの視点を真正面におき、「高度経済成長期」における日中両国の新聞に焦点を当てる。そこで構築されている<ミドルクラス>のイメージに関する実証研究の結果を発表する。また、日中の比較分析を行い、その研究成果と意義を検討する。最後に、今後の研究方向を展望する。
報告3
報告者
福岡 侑希 氏 (早大アジア太平洋研究センター助手)
報告テーマ
家産制権威主義から寡頭支配の民主主義へ:東南アジアの経験
要旨
2011年にチュニジアで発生したジャスミン革命を契機に始まった、いわゆる「アラブの春」は、かつて他の地域(ラテンアメリカ、東南アジア及び中東欧)で見られた民衆蜂起を想起させると共に、同地域の民主化への期待を高めた。しかし、当初の期待は短期間のうちに落胆へと変わった。特に、エジプトでは旧体制下の一翼を担った軍部が権力を握り移行政治を主導する中、新しい制度構築に手間取り国民の政府に対する不満が増大、民主化の失敗を嘆く声が強まった。しかし、民主化研究者にとってこれは聞き覚えのある話である。例えば東南アジアでは、民衆または市民社会の勝利と謳われた政治変動を経ても、エリートによる政治支配は変わらず、市民社会勢力は依然として政治プロセスで周縁化されている。また、アフリカでも「国民会議」を通じた市民社会動員の帰結と見られた民主化の後、限られた有力者による政治支配が続いている。
このように、旧体制の崩壊を市民社会勢力の勝利と描写する一方、その後の政治プロセスでは同勢力の周縁化を嘆く分析が多い。当初は革命的な政治変動と見られた民主化を経ても、その後生まれた「民主的」な政治体制において旧体制を支えた諸制度が温存される傾向も見られる。こうした当初の期待とその後の現実の間での乖離が顕著に見られるが、家産制権威主義体制からの移行である。同体制からの移行過程では、旧体制下で一部エリートによる政治支配を支えた家産主義制度の淘汰が期待される。しかし多くの事例において家産主義制度は温存され、市民の周縁化は続いた。こうした期待と現実の乖離を生み出しているのは民主化理論の貧困である。民主化理論の多くは西欧やラテンアメリカでの経験から構築されたものであり、東南アジアやアフリカのように家産主義が蔓延する文脈での政治変動を捉える視座として必ずしも適切ではない。そこで本稿では東南アジアの経験を基に、家産制権威主義体制からの政治移行を捉える分析視座を提示する。これを通じて、民主化研究の「民主化」に貢献したい。分析対象としては、家産制権威主義の中でも個人支配に分類されるフィリピンのマルコス体制とインドネシアのスハルト体制を取り上げる。