Graduate School of Asia-Pacific Studies早稲田大学 大学院アジア太平洋研究科

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アジア太平洋研究科修了を迎える皆さんへ:研究科長メッセージ

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了を迎える皆さんへ

アジア太平洋研究科長 三友 仁志

学位記を授与された皆さん、修了おめでとうございます。早稲田大学アジア太平洋研究科を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、皆さんをこれまで励まし、支えてくださったご家族の方々にも、心からのお祝いと感謝の気持ちをお伝えいたします。
この秋、アジア太平洋研究科を修了する方は69名で、その内訳は博士課程が9名、修士課程が60名です。アジア太平洋研究科は2018年に創立20周年を迎えましたが。この20年間に輩出した修士課程学生は3,000名以上にのぼり、出身の国と地域は50以上に及びます。また、博士後期課程修了生は300名近くになり、修了後は研究および教育の分野に限らず、幅広く活躍されています。皆さんは、本日、その一員となります。

本来であるならば、井深大記念ホールにて修了式を開催し、皆さんひとりひとりに学位記をお渡しするはずでした。新型コロナウイルス感染症の拡大が終息せず、一堂に会して修了式を開催できなくなってしまったことは、本当に残念です。

皆さんと手を取って、ともに修了を祝うことはできなくなってしまいましたが、この機会に、学問に取り組んだ日々を振り返り、多くの感動と気づき、研究室の仲間や教員との交流を思い起こしてください。アジア太平洋研究科が目指す、「多様なバックグラウンドを持ちながらも一つの目的のもとに知を結集する」という理念を皆さんと共有できたならば、教職員一同にとり、とても大きな喜びです。

修士課程を修了した皆さんが、2年前アジア太平洋研究科に入学した日、入学オリエンテーションの際に、私は皆さんに、『前日より1%だけ多く努力をしてください。たった1%でよいのです。そうすると皆さんの能力は1年間でおよそ38倍になります』とお話ししました。学問においては、継続的な努力が大切だということを皆さんに伝えたかったのですが、継続は力なりということを改めてこの機会に皆さんに伝えたいと思います。2年前には申し上げませんでしたが、もしその努力を2年間継続したならば、皆さんの能力は、入学時に比べなんと1428倍になっていたのです。

さて、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、私たちの社会経済がすでにグローバル化し、国境が単に主権の範囲を規定する境界を意味するだけのものであることを思い知らされました。新型コロナウイルス感染の拡大は、ともすれば自国さえ安全ならばよいという内向きな思考を助長し、仏マクロン大統領が「古い悪魔」と呼んだナショナリズムの台頭を容認することになるかもしれません。世界的な脅威にともに立ち向かうか、それとも自国の利益を優先するか、大きな岐路にあると言えます。

同時に、世界各国における感染の状況の相違を見ると、政治指導者の考え、リーダーシップが、医師や科学者よりも、人びとの命により大きな影響を与えうると言えるかもしれません。この皮肉な事実から、今年のイグ・ノーベル賞、これはノーベル賞の風刺版ですが、9人の政治指導者に与えられました。

コロナウイルスの感染拡大は、地球が人類に対して、自分たちの将来を考える機会を与えているのかもしれません。英国の科学者James Lovelock博士は、「ガイア」仮説の提唱者として知られていますが、1998年にScience誌に発表したエッセイの中で、21世紀においても繁栄が続き、地球温暖化や環境破壊が起きてもさほど深刻ではなく、多少の不安は抱いたとしても”business as usual”の格言をわれわれは信じ、楽観的にふるまうであろうと語っています。 私たちは、地域的な危険からは自分自身を守ろうとしますが、世界規模の脅威を無視する傾向がありました。人類の歴史を見れば、これまで多くの人びとを感染症で亡くす経験をしてきたにもかかわらず、科学の発展によってそのような経験から人類が解放されたかのような錯覚に陥っていたのかもしれません。

博士は1919年生まれで、まだ存命ですが、2016年97歳のときに世界の名だたる科学者、ノーベル賞受賞者、作家とともに“The Earth and I”(『地球と私』)という絵本を作り上げました。この絵本は、わかりやすい言葉で、地球がどのように現在の状態になり、どのように機能し、そしてわれわれ人類がどれほど地球に影響を与えているのかを説明しています。博士は、いつか訪れるかもしれない地球滅亡の危機を生き延びた人々にとり、かつて世界がどのように機能していたかを解説し、生存者たちに地球の再生に役立つマニュアルを作ることを長年考えていたそうです。実際にそのような壊滅的な危機にこの絵本は役立たないかもしれませんが、日常、狭い常識の中に暮らしている私たちにとって、地球規模で物事を考えることの大切さを教えてくれます。

社会は、皆さんのような客観的な判断と世界的な人的ネットワークをもつ高度人材の力を、今こそ必要としています。様々なリスク、多様な考え方、これまでに経験したことのない困難に直面して、単に課題の解決を志向するだけでなく、社会の新たな方向性を見出し、行動することのできる人が、社会の立て直しをする際に真に必要なのです。
アジア太平洋研究科における学修・研究を通じて得られた分析能力を大いに活用して、皆さんが、アジア太平洋地域のみならず地球規模の課題の解決および新しい社会秩序の形成に向けて貢献することを期待しております。

皆さんは早稲田大学アジア太平洋研究科でその課程を修了されました。そしてこの日から新たな協働collaborationが始まります。皆さんが歩むその足元から新しい世界が始まるのです。

研究科では、修了生の集いを定期的に開催しております。新型コロナウイルスの感染が収束しましたら、皆さんの修了を直接祝う機会を作りたいと思います。
では皆さん、ともに、よりよい未来社会を作っていきましょう。本日は、修了おめでとうございます。 

参考文献:
James Lovelock (1998), “A Book for All Seasons”, Science, Vol. 280, Issue 5365, pp. 832-833.
James Lovelock et al. (2016), The Earth and I, Taschen.

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