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ピュリツァー賞とジャーナリズム大賞

ピュリツァー賞と早稲田ジャーナリズム大賞

Columbia University School of Journalism, 拠出: shutterstock

文:政治経済学術院教授 瀬川至朗

ジャーナリズムの分野で国際的に最も有名な賞は何だろうか。
<journalism> <prize> <award>という3語でグーグル検索をしてみると 「Pulitzer Prize for Public Service(ピュリツァー賞公共奉仕部門)」が画面トップにあらわれた。やはりピュリツァー賞*1である。同賞は、アメリカでの優れた報道などに贈られる著名な賞であり、コロンビア大学が運営にあたっている。私はといえば、石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞*2の選考委員を務めている。この賞は早稲田大学が運営している。2020年に創設20周年という節目をむかえ、コロナ禍の関係で1年遅れて「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞―20年の歩み*3という企画展を開催している。二つの賞は、大学が運営するジャーナリズムの賞という点で共通する。この機会に、ピュリツァー賞と早稲田ジャーナリズム大賞、この2つの賞の設立経緯に遡って原点を考察し、比較してみたいと思う。

「アメリカのジャーナリズムで最も権威のある賞」

Columbia University School of Journalism, 拠出: shutterstock

ピュリツァー賞委員会は、6月11日に2021年の受賞者を発表した*4。2020年5月、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に首の部分を膝で圧迫されて死亡する事件があった。フロイドさん殺害事件を目撃し、その様子をスマホで撮影した10代の女性、ダーネラ・フレイジャーさんが、今回、特別賞を受賞した。ジャーナリズムの賞を一般市民が受賞したことで注目を集めている。彼女が撮影した映像は、事件の記録として、メディアやSNSなどで繰り返し再生され、警察の暴力に対する抗議運動を巻き起こした。

ピュリツァー賞は、ジャーナリズム15部門(オーディオ報道部門を2020年に新設)と書籍・ドラマ・音楽7部門の計22部門に贈られている。ジャーナリズムの各部門は「公共奉仕」「調査報道」「地域報道」「国際報道」「フィーチャー記事」などで、対象は新聞、雑誌、ニュースサイトであり、放送メディアは対象外である。それでも、CNNは「アメリカのジャーナリズムで最も権威のある賞」*5という格付けをして受賞ニュースを流している。多くの人が認める、ジャーナリズムの最高の賞なのであろう。

「ジャーナリズムは知的なプロフェッション」新聞競争を経験したピュリツァーの熱い思い

賞の名称には、19世紀後半に活躍した新聞経営者、ジョゼフ・ピュリツァー(1847-1911)の名前を冠している。ピュリツァーはハンガリーからの移民で1872年、ミズーリ州セントルイスにあった、倒産寸前の新聞を買収し、新聞経営に乗り出した。1883年にはニューヨークの新聞「ワールド」を買収し、センセーショナルな特集などで大幅な部数増に成功した。新聞経営で富を築いたのである。19世紀末のスペイン戦争の報道では、「新聞王」と言われるウィリアム・ランドルフ・ハーストとの新聞競争が激烈をきわめ、「イエロージャーナリズム」という批判を浴びることになった。ピュリツァーはその後、イエロージャーナリズムから撤退し、政府や企業などの腐敗行為を追求する報道などに力を入れるようになったという*6

実は、私は2010年にコロンビア大学ジャーナリズム大学院を訪問する機会があり、「ピュリツァーとザ・ワールド」という展示を見ることができた。展示記録によれば、ピュリツァーは1890年代初めの頃から、ジャーナリズムの学校を作るために財産を役立てたいと思っていた。ジャーナリストは弁護士や医師と同じように尊重されるべき職業(プロフェッション)だと考えたのである。後年、1902年のピュリツァーの文章を紹介しよう*7

Columbia University School of Journalism, 拠出: shutterstock

「ジャーナリズムが重要かつ知的な職業であること(あるいは、そうあるべきこと)を認識し、法律家や医師とまったく同じように、現在の、そしてさらに将来のジャーナリストを、実践的な方法で励まし、高め、教育するというのが、私の考えです」

プロフェッションだからこそ、その専門教育が必要だと提案したのである。ピュリツァーは、ジャーナリズムの学校設立などのため、コロンビア大学に寄付(200万ドル)を申し出た。しかし、その夢の実現は彼の死(1911年)後になった。ジャーナリズムスクールは1912年に創設された。また、彼の遺志に基づく委員会が設置され、ピュリツァー賞の第1回の授与が1917年におこなわれた。

「ジャーナリズムの劣化を懸念」早稲田は2001年に賞を創設

jaward_medal

ジャーナリズム大賞メダル

それでは2001年に創設された石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞の場合はどうだろうか。20世紀が終わりを迎えた1998年頃、奥島孝康総長のもとで創設の動きが本格化したようである。当時すでに、ジャーナリズムの劣化を懸念する声が強まっており、顕彰活動を通じてジャーナリズムを元気にしようという狙いがあったという。こうした経緯は、元広報室長で早稲田大学名誉教授の八巻和彦氏の文章*8や早稲田ジャーナリズム大賞事務局長の湯原法史氏の寄稿文*9が詳しいので、お読みいただきたい。

授賞対象は、公共奉仕部門、草の根民主主義部門、文化貢献部門の3部門である。新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、映画、書籍、ウェブなどすべてのメディアが対象になる。組織ではなく個々のジャーナリストを顕彰することも特徴である。学内選考を経て10作品前後をファイナリストとして公表し、学内外の選考委員で構成される最終選考委員会で授賞作品を選定する。2021年度(第21回)は6月1日に申請を締め切り、応募・推薦164作品が集まった。

「時代におもねらない」ジャーナリスト石橋湛山の姿勢を賞の理念に反映

提供:共同通信社

本賞で特筆すべきは、石橋湛山(1884-1973)の名前が冠せられていることだろう。

湛山は本学の卒業生で、卓越したジャーナリスト活動で知られる。東洋経済新報社に入社し、戦前、「大日本主義の幻想」などの社説を執筆、軍部の植民地政策を批判した。満州に固執する軍部に対し、経済学を援用しつつ「小日本主義」を主張し、国際協調に基づく貿易を推進した方が日本にとって有益だと合理的に説いたのである。

提供: 共同通信社

戦後は政治家として活動し、1956年には、短命内閣ではあったが、内閣総理大臣に就任した*10。湛山は「時代の流れにおもねることなく」「独立不羈の精神」で言論活動を展開したジャーナリストである。早稲田大学には「進取の精神」「学の独立」という建学の理念がある。そうした建学の理念を具現化したジャーナリストが石橋湛山であり、彼の実践が早稲田ジャーナリズム大賞の理念を支えてくれている。

 

紹介が遅くなったが、ジャーナリズム大学院についても触れておきたい。

2008年4月、本学の大学院政治学研究科にジャーナリズムコースが開設された。高度専門職業人としてのジャーナリスト養成を目標とする、日本初のジャーナリズム大学院である*11。専門知を習得し、複雑化した課題に対し、科学的にアプローチする方法を学ぶ。データジャーナリズムを習得する認定プログラムも用意している。強調しているのは、「『個』として強いジャーナリスト」の重要性である。組織や時代におもねらない姿勢。それは、石橋湛山の独立不羈の精神とつながっている。

以上、ピュリツァー賞と石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞について見てきた。前者にはピュリツァーが思い描いたジャーナリズムの理念が、後者には石橋湛山のジャーナリスト活動の核心が、それぞれ投影されているように感じる。

「遠くない日に、この『石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞』が、アメリカの「ピュリッツァー賞」に比肩することを密かに念願している」

記念展示「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞―20年の歩み」の開催の挨拶文に八巻氏はこう書いている。私もその思いを共有している。

6月19日に日経・米コロンビア大・早稲田大主催のジャーナリズムシンポを開催

今回、ピュリツァー賞と早稲田ジャーナリズム大賞を取り上げたのは、それぞれの母体であるコロンビア大学と早稲田大学が日本経済新聞社と一緒に、6月19日(土)にジャーナリズム・シンポジウムを開催することがきっかけとなっている。シンポジウムについての詳しい情報は以下のサイトをご覧いただきたい。

https://www.waseda.jp/top/_import/72983

<注>

*1) The Pulitzer Prizes HP ; https://www.pulitzer.org/

*2) 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 HP; https://www.waseda.jp/top/about/activities/j-award

*3) 【早稲田大学歴史館】企画展「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞―20年の歩み」;https://www.waseda.jp/culture/news/2021/05/14/12419/

*4) 2021 Pulitzer Prizes; https://www.pulitzer.org/prize-winners-by-year

*5) CNN Business ’Pulitzers give special award to Darnella Frazier, who filmed George Floyd’s murder’, June 11, 2021; https://edition.cnn.com/2021/06/11/media/pulitzer-prize-winners-2021/index.html

*6) Biography of Joseph Pulitzer; https://www.pulitzer.org/page/biography-joseph-pulitzer

*7) Harris, Roy J. “Pulitzer’s Gold: A Century of Public Service Journalism”, Revised, Columbia University Press, 2015, p.30.

*8) 八巻和彦、 企画展『石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞―20年の歩み』, 2021.

*9) 湯原法史「『石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞』の<これまで>と<これから>」、 『自由思想』2021年4月号.

*10) https://www.waseda.jp/top/about/activities/j-award

*11) 早稲田大学政治学研究科ジャーナリズムコース; https://www.waseda.jp/fpse/gsps/about/journalismcourse/

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