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『ニュースは「真実」なのか』 刊行の言葉(「はじめに」より)

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2019 講義録 『ニュースは「真実」なのか』

はじめに  早稲田大学政治経済学術院教授(本賞選考委員) 瀬川至朗

早稲田大学は、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞の受賞者を中心に講師として招聘する記念講座「ジャーナリズムの現在」を開講している。本書は2019年春学期に開講した記念講座の講義録である。授業は90分で、講義の後の20~30分は学生との質疑応答にあてられている。学生は挙手をして積極的に質問をする。質問が途絶えることはまずない。
授業後には、講義で学んだことや感想、意見、質問などを感想票(レビューシート)という形で、毎回、学生に提出してもらい、講師の方々にお送りする。講師からは学生たちにコメントが返ってくる。この双方向のやりとりは授業を実り多いものにしてくれている。今年度の感想票のなかから、それぞれ別の大賞受賞者の講義を聞いた学生の感想を二つ紹介してみよう。

「記事を作るにあたって、吟味・討議・取材を繰り返し、取材班全員が自信も持てるまでとことん事実を突き詰め、どこか他を探しても出てこないような情報を掲載することが醍醐味なのだと感じました。(中略)やはりジャーナリズムの姿として、よりファクトを追求し続けることを最優先に機能維持を目指していくべきなのではないかと思いました」(森友学園・加計学園問題の報道の講義を受けて、社会科学部二年)。

「一時間の番組を作成するのにもその裏には膨大な取材時間や、多くのファクトが存在しているのだと思いました。その中でも特に重要なファクトは隠されているというのもまた事実なんだなと思いました。視聴者が自分で選択的に情報を得ようとしている現代の中で、多面的にファクトを調べ発信するメディアや、番組が存在することに非常に意義があると私は考える」(テレビドキュメンタリーの講義を受けて、先進理工学部二年)。

二つの感想票に共通するのは「隠されたファクトを追求する重要性」である。別の学生は、「事実をつきつめ事実を伝えることの大切さ」が多くの講義で強調されたと感想票に書いている。ここで使われる「ファクト」「事実」という言葉が、「誰かが発言したことをその通りに伝える」とか「記者が見たままを報告する」といった類いではないことはお分かりいただけるだろう。表面的なものではなく、深く追求し、掘り起こした末に得られた、揺るぎないファクトといった意味合いである。たしかに講師の方々は、そのようなファクトの重要性を、繰り返し、学生に伝えてくれたように思う。ジャーナリストが考えるファクトとは、資料や当事者の発言、現場などを、多面的かつ深く丁寧に調査・取材し、その結果得られる「揺るぎない事実」のことである。
たとえば、米国のジャーナリスト、W・リップマン(1889―1974)は『世論』(上・下、掛川トミ子訳、岩波書店、1987年)の第24章「ニュース、真実、そして一つの結論」で、以下のように指摘している。

「ニュースと真実とは同一物ではなく、はっきりと区別されなければならない。これが私にとってもっとも実り多いと思われる仮説である。ニュースのはたらきは一つの事件の存在を合図することである。真実のはたらきはそこに隠されている諸事実に光をあて、相互に関連づけ、人びとがそれを拠りどころとして行動できるような現実の姿を描き出すことである」(『世論(下)』214頁)。

ニュースと真実とは、はっきりと区別されなければならないのである。
ジャーナリズムにおける「真実」とは何だろうか。多くの先人を悩ませてきたこの問題について、リップマンは「隠された諸事実に光をあて、相互に関連づけ」て見えてくるものと説明する。また、B・コバッチらは名著『The Elements of Journalism(ジャーナリズムの原則)』のなかで、複諸の目撃者や多くの情報源、多方面の意見取材などに基づく「検証(Verification)」により、対象とする問題の真実に可能な限り近づくことが、ジャーナリズムの本質だと強調している。

これらを私なりに解釈すれば、真実に近づくには、何よりも揺るぎないファクトを掘り起こすことが重要である。ただし、一つのファクトだけでは不十分である。徹底した調査取材により、そうしたファクト群を多面的、重層的に明らかにすることで、真実(現実の真相)に迫ることができる(ただし、地球温暖化のように科学の不確実性が問われる問題も少なくない。その場合は、不確実な側面を誠実に伝えることが真実に近づく道になることも指摘しておきたい)。
本書では、ジャーナリストの方々が多面的かつ徹底した調査・取材で得たファクト群について、それらにどのようにたどり着いたか、生々しい経験や手法が語られる。それぞれが「隠されている諸事実に光をあて、相互に関連づけ」る営みであり、リップマンの言う「真実のはたらき」といえるものだろう。ジャーナリストのそうした地道な営みに思いを馳せながらお読みいただけるとしたら、望外の幸せというほかない。

(本書「はじめに」より)

 

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2019 『ニュースは「真実」なのか』 (早稲田大学出版部)

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