『ニュースは「真実」なのか』 刊行の言葉(「あとがき」より)

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2019 講義録 『ニュースは「真実」なのか』

あとがき  早稲田大学政治経済学術院教授(本賞選考委員) 瀬川至朗

世の中には、実に、数多くの優れたジャーナリズムの作品が存在するものだ。大賞作選考のために候補作品を読んだり、視聴したりするたびに、作品が有する迫力に圧倒される。

新聞記事やネット記事、ドキュメンタリー、写真集、ノンフィクション……。石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞は、新聞協会賞や民放連賞、ギャラクシー賞、各ノンフィクション賞などとは一線を画し、異なる媒体の各作品をジャーナリズムという一つの物差し(ジャーナリズムとは何かということ自体が毎年、議論の俎上に載せられるのだが)で評価し、選考を進める。ジャンルを横断した総合性を備えた賞である。

応募作品は、問題意識の鋭さや明確さ、調査・取材の多角性や綿密さといった点でいずれも質が高く、毎年の選考では、優劣を付けることの難しさを感じる。とりわけ、二〇一八年度の選考(本書に講義録が収録された年の選考)は「力作ぞろい」との高評価が相次ぎ、最終選考会は長引いた。その結果、授賞作は大賞四件、奨励賞二件の計六件となった。ここ数年は計四件の授賞がつづいており、計六件の授賞は一八回の歴史のなかで初めてのことである。

市民の信頼に応える良質のジャーナリズム活動は、全国各地で着実に取り組まれ、もしかすると増えているのではないか。受賞作を含む一八四件の応募作品群は、そのような期待を抱かせてくれる。選考委員の吉岡忍さん(作家、日本ペンクラブ会長)は、贈呈式の講評において以下のように指摘している。

いったいジャーナリズムにおける力作とは何でしょうか。

今回の大賞、奨励賞の作品に共通していることは、記者や制作者自身が「知りたい」「理解したい」「わかりたい」と切実に思ったことをテーマにしている、ということです。そのテーマをしっかり保持しながら取材し、考え、また調べて、作品にしています。(中略)あくまで自分の関心に忠実に、脇目も振らず、まっすぐにテーマに突き進んでいく。これが力作を生む最初の条件です。

もうひとつ、ジャーナリズムではしばしば「公正・公平・中立」が大事だ、と言われますが、少し乱暴な言い方をすれば、そんなことを言っているうちは取材や思考が足りない、ということです。記者や制作者がほんとうに知りたいと思ったことを取材し、調べ、そこで手にした事実に基づいて考えに考えていけば、だんだんにわかってくるのは究極の事実、これしかないという真実です。そこまでたどり着いたとき、力作が生まれる。

優れたジャーナリズム作品の特質が、吉岡さんの言葉で端的に語られている。

二〇一九年度の授業に講師としてお越しいただいたのは、二〇一八年度石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞受賞者五名(このうち自衛隊日報問題は受賞者二名)▽同奨励賞受賞者二名▽ファイナリスト三名(最終選考会の候補作代表者)▽科学ジャーナリスト大賞受賞者一名▽山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞者一名▽#MeToo、ファクトチェック、情報公開、日産ゴーン事件に関わるジャーナリスト、専門家たち四名――である。

本書は講義内容を元にしながら、学生の質問への応答も加えて再構成し、新たに「講義を終えて」というコラムも執筆していただいた。お忙しいなか、ご協力いただいた講師の方々に厚くお礼を申し上げたい。

(本書「あとがき」より)

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2019 『ニュースは「真実」なのか』 (早稲田大学出版部)

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