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第21回 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 贈呈式

3部門3作品での大賞、2部門2作品での奨励賞を授賞

2021年12月9日、第21回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の贈呈式が開催されました。
3部門3作品での大賞と2部門2作品での奨励賞授賞となり、受賞者には賞状、副賞のメダル及び目録が授与されました。本賞及び授賞作等については、以下のWEBページをご覧ください。

⇒第21回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」発表

第21回となる本年度の贈呈式は、受賞者および共に尽力された関係者の方々、田中愛治総長、選考委員、石橋湛山記念財団代表理事 石橋省三様をお招きし、執り行われました。

贈呈式では、田中愛治総長から冒頭で式辞がありました。

挨拶 田中愛治総長 “共通しているのは権力におもねない姿勢”

『本賞にその名前を冠する石橋湛山は、ジャーナリストとして長く活躍した後、本学出身者として初の内閣総理大臣になった人物です。本学出身者の総理大臣は、今年総理となられた岸田総理で8名となっております。その最初が石橋湛山で、「小アジア主義」という理念に表されるように、自由でリベラルな信念を持っていた政治家でした。石橋湛山は、政治家として理想を見失わず、多様で複雑な現実から目をそらさず、時勢に右顧左眄することもなく、自らの主義主張を貫きました。大隈重信も石橋湛山も保守の政治家ではありましたが、「権力におもねない」という意味で在野精神を貫いてきました。その根底にあるのは、権力欲や名誉欲から独立した精神として謳った「学問の独立」に繋がる精神だと思われます。』

『私は総長に就任して以来、学生に対して、今人類が直面している問題には正解が無く、その答えのない問題に自分なりの頭脳を使って解決策を考え、もしそれが間違ったと思えば、一からやり直せる「たくましい知性」を育んでもらいたい言っています。「たくましい」という肉体に使われる形容詞をあえて知性に掛け、「たくましい知性」を養ってもらいたいと。その時にもう一つ申し上げているのは、日本で育ち、学んだだけでは、きっと視野が狭くなる。早稲田には日本中、今や世界中から学生が学びに来ている。この環境の中で、自分と異なる立場の人々のことも理解する「しなやかな感性」が必要で、「しなやかな感性」が無ければ、答えのない問題に対する解決策も独りよがりになってしまうと考えられるのです。この「たくましい知性」と 「しなやかな感性」を唱えていたのが大隈重信であり、石橋湛山はまさにその二つを兼ね備えた模範とすべき人物であったと思います。』

『今回の授賞作は、いずれも日々生起する膨大な出来事の中から発掘した事実を丹念に拾い上げられ、権力による隠ぺいや捏造、あるいは恣意的な操作を排除して、決して忘れてはならない事件や問題の再考を訴えたことに特徴があると思います。個々の作品については、後程選考委員の方から、ご講評をいただきますが、全ての受賞作が大変な労力が割かれたもので、現代から昭和史、戦争中の事まで幅広いですが、共通しているのは権力におもねない姿勢であろうと思いました。膨大な作業を通して、このような石橋湛山の精神を表す優れた作品を選ばれた選考委員の先生方のご尽力に、感謝いたします。最後に、受賞者の皆様のご研鑽とご苦労に、最大限の敬意を払いたいと思います。また同時にこの賞を受賞されたことでさらに飛躍されることを心から願っております。本日は本当におめでとうございます。』

続いて、石橋湛山記念財団代表理事 石橋省三様より、ご挨拶をいただきました。

挨拶 石橋省三様 “ジャーナリストを応援する”

『十日ぐらい前に石橋湛山記念財団が主催しています石橋湛山賞の授賞式があったのですが、そこで授賞作品が今年は2つございました。一つは東大の宇野重規先生、学術会議問題で話題になった先生がお書きになった「民主主義とは何か」です。こちらは、石橋湛山賞的な授賞作なのですが、と同時にジャーナリストの西野智彦先生のドキュメント「日銀漂流」を授賞作品に選びました。なぜ、今年ジャーナリストの書いた作品を選んだのか・・・が大事でして、今の世の中、ジャーナリストの役割が非常に高まっていると思っております。ジャーナリストによる緻密な調査、柔軟な思考、事実の検証などを基に発信発言をしていくということが、今まさに求められています。それを後押ししたいということで、選考委員全員が珍しいことにジャーナリストのドキュメンタリー作品を石橋湛山賞に選びました。』

『ジャーナリストの役割というものが、こういう世の中ですので、一段と増していると考えています。ほぼ十年前でしょうか。ジャーナリズム大賞記念講座で「危機に向かうジャーナリズム」があったと思いますが、今、本当の意味で危機に向き合っているのではないかと考えています。権利や権力におもねらず、大衆に迎合しないジャーナリズムがまさに今求められております。それを力不足ではありますが応援したいというのが今回の石橋湛山賞の授賞理由でございます。』

『ジャーナリストを応援するという意味では、この石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞が非常に重要な役割を担っています。ジャーナリストを応援する非常に偉大なる賞だと思っております。我々の石橋湛山賞は小さい賞ですが、早稲田ジャーナリズム大賞と共にジャーナリストの皆様方を応援していきたいと願っています。受賞者の方々の一層のご活躍をお祈りするともに、早稲田ジャーナリズム大賞のますますの発展を祈念いたします。』

各受賞者への賞状と副賞の贈呈後、選考委員を代表してアンドリュー・ホルバート委員から講評が述べられました。

講評 アンドリュー・ホルバート委員
“日本のジャーナリズムは、極めて積極的に立ち向かっていた”

『受賞者の皆さんおめでとうございます。お集りの皆さん、パンデミックの中お越しいただき、私のつたない日本語に耳を傾けるのを恐れず、ありがとうございます。』

■大賞3作品の講評

『ルポ入管ー絶望の外国人収容施設』 書籍(筑摩書房)

『外国人である私にとっては「ルポ入管」と題したこの本が「大賞」として選ばれたのは何よりもうれしいです。少子高齢化に悩む国が人種差別的な移民政策を容認する余裕はないはずです。作品は政府に政策転換を促し、国会の論議からもわかるように、政策改革に好影響を与えているということが目に見えています。』

「ムクウェゲ 女性にとって世界最悪の場所で闘う医師 」(TBSドキュメンタリー映画祭 上映作品)

『もう一つの大賞授賞作品「ムクウェゲ 女性にとって世界最悪の場所で闘う医師」は、一見遠く遥かなる別の大陸の話題のように見えるが、女性の品格が傷つけられている国はコンゴやルワンダだけではありません。この作品が投げかけている問題をもっと普遍的に考えても良いのではないでしょうか。』

『ロッキード疑獄 ―角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』 書籍(KADOKAWA)

『ロッキード事件を深く掘り下げた「ロッキード疑獄 ―角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス」も国の負の遺産に焦点を絞り、今まで日本国内に知られていない事実を暴露し、読者に向かって、healthy skepticism (健康的な懐疑的な姿勢)を促しています。』

■奨励賞2作品の講評

「2020 熊本豪雨 川と共に (熊本日日新聞)」

『公共奉仕部門の奨励賞授賞作品になると、熊本の洪水被害を追求した一連の連載記事は日本のメディアの強みを象徴しています。このような何か月も続く連載は日本の民主主義を支えています。海外はこのような大掛かりな取材プロジェクトはあまり例がありません。地方の有権者に普段得られない事実を提供し、権力へ物申すという意味で、野党勢力が弱い日本ではメディアの貴重な役割を果たしています。』

ドキュメンタリー 「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」 (RKB毎日放送(テレビ版)・RKBラジオ(ラジオ版)・YouTube)

『最後の作品ですが、ドキュメンタリー「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」は私にとって最も意義深いものでした。戦争中の憎むべき行為、捕虜殺害、に手を下した人を戦争犯罪者として、その6年後に処刑するのは誰が見ても道徳的な矛盾にあたります。平時に人を殺すはずがないが、戦時中はそうせざるを得ない人から命を奪うことによって、世の中は良くなったとは到底考えられません。戦争記憶が薄れつつあるこの時期に国の指導者たちに是非見てもらいたい作品です。』

『ファイナリストの作品に触れる時間がありませんが、どれも立派なものでした。授賞選定に数時間がかかり、活発な議論を交わした末、以上の結果にたどり着きました。私にとって、この10年間選考委員を務める貴重な機会が与えられ、日本のジャーナリズムをより深く知ることができました。心から感謝しています。ご清聴いただきありがとうございました。』

各受賞者の方々の挨拶

各受賞者の方々の挨拶につきましては、準備整い次第、随時公開いたします。

【公共奉仕部門 大賞】
 受賞スピーチ:『ルポ入管ー絶望の外国人収容施設』 平野 雄吾 様

【草の根民主主義部門 大賞】
 受賞スピーチ:「ムクウェゲ 女性にとって世界最悪の場所で闘う医師」 立山 芽以子 様

【文化貢献部門大賞】
 受賞スピーチ:『ロッキード疑獄 ―角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』 春名 幹男 様

【公共奉仕部門 奨励賞】 
 受賞スピーチ:「2020 熊本豪雨 川と共に」 2020熊本豪雨取材班 代表 亀井 宏二 様

【草の根民主主義部門 奨励賞】
 受賞スピーチ:ドキュメンタリー「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」 大村 由紀子 様

第22回(2022年度)に向けて

第22回(2022年度)「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の応募詳細につきましては、今春に発表いたします。たくさんの作品の応募・推薦をお待ちしております。

本賞は広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘し、顕彰することにより、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた言論環境の形成への寄与を目的としています。

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