第20回ジャーナリズム大賞作品決定

2020年第20回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」発表

授賞作品が決定 2部門3作品の大賞および3部門3作品の奨励賞

2020年度第20回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の授賞作品を、受付期間内に応募・推薦された147作品の中から、次のとおり2部門にて「大賞」3作品、および3部門にて「奨励賞」3作品を決定致しました。

大賞

公共奉仕部門 大賞

かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道 (西日本新聞)

 公共奉仕部門 大賞

「桜を見る会」追及報道と『汚れた桜「桜を見る会」疑惑に迫った49日』の出版 ネットを主舞台に多様な手法で読者とつながる新時代の試み (毎日新聞ニュースサイト、毎日新聞出版)

 草の根民主主義部門 大賞

『証言 沖縄スパイ戦史』 書籍(集英社新書)

奨励賞

公共奉仕部門 奨励賞

『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』 書籍(朝日新聞出版)

 草の根民主主義部門 奨励賞

NHK BS1スペシャル「封鎖都市・武漢〜76日間 市民の記録〜」 (NHK BS1スペシャル)

文化貢献部門 奨励賞

サクラエビ異変 (静岡新聞、静岡新聞ホームページ「アットエス」)

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早稲田大学は、建学以来多くの優れた人材を言論、ジャーナリズムの世界に送り出してきました。先人たちの伝統を受け継ぎ、この時代の大きな転換期に自由な言論の環境を作り出すこと、言論の場で高い理想を掲げて公正な論戦を展開する人材を輩出することは、時代を超えた本学の使命であり、責務でもあります。

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」は、このような背景のもと、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた環境の形成への寄与を目的として2000年に創設され、翌2001年より毎年、広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘、顕彰してきたものです。

大賞受賞者には正賞(賞状)と副賞(記念メダル)および賞金50万円が、奨励賞受賞者には正賞(賞状)と副賞(記念メダル)および賞金10万円が贈られます。また受賞者には、ジャーナリストを志す本学学生のための記念講座に出講いただく予定です。

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」についてはこちら⇒

※以下、各部門・各賞ごとに応募受付順で掲載しています。

第20回(2020年度) 大賞

公共奉仕部門 大賞: かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道

受賞者氏名

西日本新聞社 かんぽ生命不正販売問題取材班代表 宮崎 拓朗(西日本新聞社 社会部)

発表媒体名

西日本新聞

授賞理由

-かんぽ生命の不正販売問題ほど、にわかに信じがたい事件はなかった。日本の郵便局は国民生活に密着したインフラであり、多くの人が信頼を寄せている。それが何と、保険料の二重払いや払い込み済みの保険を解約させるなど、詐欺まがいの方法で高齢者などを騙していたのだ。この実態を明らかにしたのは、内部告発に基づいた西日本新聞の記事だった。放置されれば被害がさらに広がっていた可能性もあり、報道の意義は大きい。その後、約22万件にも及ぶ契約の追加調査、金融庁の業務停止命令、およびグループ3社の社長辞任という大きな不祥事に発展した。新聞報道はさらに、不正の背景にも切り込んだ。現実離れした重い営業ノルマ、歪んだ企業統治、そして政党や選挙との関係だ。民営化後の郵政事業が内包する構造的問題は根深い。政治が果たす役割をも示唆した一連の報道は、まさに本賞に相応しいものである。(中林美恵子)

受賞者コメント

-原動力になったのは、郵便局に寄せられる信頼を逆手に取ってだますという悪質な営業行為への怒りでした。1千件に及ぶ情報提供があり、証言を一つ一つ積み上げていったことが、巨大組織に立ち向かう力になりました。地道な取材を評価して頂き光栄です。現状を変えたいと願い取材に協力して頂いた局員の皆さんに敬意を表します。

公共奉仕部門 大賞: 「桜を見る会」追及報道と『汚れた桜「桜を見る会」疑惑に迫った49日』の出版 ネットを主舞台に多様な手法で読者とつながる新時代の試み

受賞者氏名

毎日新聞統合デジタル取材センター「桜を見る会」取材班代表 日下部 聡(毎日新聞 東京本社)

発表媒体名

毎日新聞ニュースサイト、毎日新聞出版

授賞理由

-政権を根底から揺るがしかねないスクープ報道が続報に恵まれず、不発に終わってしまうことがある。原因のひとつは、報道側が「世論(Popular Sentiments=大衆感情)」を気にするあまりに、時間経過とともに話題の新鮮さが薄れて飽きられることを恐れ、続報を自粛してしまうことだろう。その点、「桜を見る会」報道は違った。野党議員の国会質問から約一年後に安倍晋三前首相の公設秘書の政治資金規正法違反を認めさせるうえで、毎日新聞統合デジタル取材センター「桜を見る会取材班」の寄与は大きい。ネット報道らしいソーシャルメディアの活用や、書籍『汚れた桜』の刊行イベントの記事化など、常に市民社会を巻き込んで世論の「輿論(Public Opinion)」化に努め、95本もの記事を発信して告発を続けた。権力側の世論操作技術が巧みになるほど、それに抗う技術がジャーナリズムには求められる。継続的な報道の力を示した例として公共奉仕部門の大賞に値すると考えた。(武田徹)

受賞者コメント

-私たちが心がけたのは、読者の疑問にできるだけ早く、分かりやすく応えることでした。ネット上の意見や情報に常に目を配り、取材過程や記者の肉声も織り交ぜ、書籍、イベントなど多様な発信を試みました。読者とのコミュニケーションを重視する新しい形の権力監視報道を高く評価いただき、大変光栄です。今後も試行錯誤を続けたいと思います。

草の根民主主義部門 大賞: 『証言 沖縄スパイ戦史』

受賞者氏名

三上 智恵

発表媒体名

書籍(集英社新書)

授賞理由

-高い評価を得たドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』を踏まえ、それでは描ききれなかった部分をさらに取材を重ねてまとめた労作である。護郷隊と呼ばれた秘密戦の部隊に配された元少年ゲリラ兵たち21人の証言、その護郷隊を率いた陸軍中野学校卒の二人の隊長の実像、また密告によりスパイと目された住民の虐殺、それに関わった人々の肖像や証言などに加えて、さらに沖縄本島で見つかった秘密戦に関する書類から、中野学校出身者42名が投入された沖縄における国内遊撃戦の思想を明らかにした本作品は、沖縄戦における住民の多大な犠牲の理由を浮かび上がらせるとともに、加害者と被害者が70年以上重ねてきた戦後の貴重な歴史的記録である。また本作品は正規戦の裏で必ず行われる秘密戦の実像に迫り、それが自衛隊が想定する国土戦と地続きであると指摘している。数々の証言の強烈なインパクトとともに、現在の日本へ警鐘を鳴らし問いかける優れたノンフィクションである。(土屋礼子)

受賞者コメント

-沖縄戦の悲惨さだけをいくら伝えても、沖縄が再び日米の軍事要塞化していくのを止められない。いざ戦争になれば「軍隊は住民を守れない」という沖縄戦の闇から軍隊の本質を掴み取らねばならない。情報機関である陸軍中野学校が何をやったか、少年がどう使われたか。この受賞を契機にこの本の証言が読まれ、強い軍隊に守られたいという大衆の安易な願望を打ち砕く決定打になればこれ以上の喜びはない。

 

第20回(2020年度) 奨励賞

公共奉仕部門 奨励賞: 『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』

受賞者氏名

片山 夏子(東京新聞社会部)

発表媒体名

書籍(朝日新聞出版)

授賞理由

-3.11大震災、原発事故から10年。原発の仕組みや事故の怖さは誰もが知ったが、事故処理と廃炉作業の実情が描かれるのは本書が初めてだ。〝メルトダウン〟という言葉を使うことすら禁止され、厳しい箝口令が敷かれるなか、長年にわたって作業員たちの話を聞き取った努力は並大抵ではない。すさまじい現場である。規定の線量を被曝すると、即座にクビ。1年もいるとベテランになる。全面マスクと防護服姿の炎天下では熱中症が多発する。転落事故で何人も死傷した。対策が講じられるまで作業中止になるが、その間の休業補償もない。人を使い捨てる作業環境で、これから何十年もかかる廃炉作業ができるのか……。

作業員一人ひとりの、また著者のうめくような声が聞こえてくる。遠く離れた家族の支えもあれば、色恋沙汰もなくはなく、ここでも人は生きていると感じさせる筆致に、著者の成熟した目を感じさせる。(吉岡忍)

受賞者コメント

-東京電力福島第一原発事故から十年がたつ。作業の進捗以外に、現場で何が起きているかを知るには、箝口令下にある作業員に聞く他なかった。作業員は常に被ばく線量との闘いで、早い時は二、三週間で入れ替わった。事実確認には何人もの作業員から聞く必要があった。取材先を探し続け、分からないように接触した十年。ジャーナリズムとしての受賞は心からありがたく思う。

草の根民主主義部門 奨励賞: NHK BS1スペシャル「封鎖都市・武漢〜76日間 市民の記録〜」

受賞者氏名

房 満満(株式会社テムジン)

発表媒体名

NHK BS1スペシャル

授賞理由

-2020年2月7日の夜、封鎖都市武漢が無数の笛の音で鳴り響いていた。その数時間前、市内の病院では医師李文亮がコロナヴィールス感染の犠牲となっていた。李医師は、公式には「デマ情報をばらまいて社会秩序を乱した」不純分子となっていたが、武漢の市民の間では「新型ヴィールスの危険性を初めて公にした」英雄だった。「中国で笛を吹く人は警鐘を鳴らす人」とナレーターは説明するが、それ以上を言わず、ドキュメンタリーのメッセージを笛のコーラスにゆだねる。それは中国の言論統制への一般市民の不満である。パンデミックの中、ありのままの感情を言い表す権利が奪われている人々の悲しみを伝えることによって、言論の自由の尊さを力強く主張する。4月8日、封鎖が解除された。検閲との“いたちごっこ”を強いられながら、インターネットに「封鎖都市武漢76日間日記」を掲載していた29歳のソーシャルワーカー郭晶さんはこう締めくくった。「ライト・アップのイベントはロマンを演出しているが、人々の悲しみと困難はかき消されてしまっている」。ドキュメンタリーの模範と言ってよいと思う。もっと作ってほしい。(アンドリュー・ホルバート)

受賞者コメント

-声を上げることが難しい中国。都市封鎖の間、人々はさらに自由を奪われ、情報統制も強化された。それでも様々な表現手段を駆使して不条理に抗おうとする人々がいた。その声が歴史の記録となり受け継がれていく―、なんと尊いことか。新型コロナウイルスに警鐘を鳴らしたことで罪に問われ、自身も感染し亡くなった李文亮医師にこの賞を捧げたい。

文化貢献部門 奨励賞: サクラエビ異変

受賞者氏名

静岡新聞社「サクラエビ異変」取材班代表 坂本 昌信(静岡新聞社編集局社会部)

発表媒体名

静岡新聞、静岡新聞ホームページ「アットエス」

授賞理由

-ワクワクしながら読んだ。サクラエビは駿河湾の名産である。次第に特産物になった地元食材が、壊滅的な不漁を続けている。進行中のこの連載では、その原因を社会環境的に解こうとしている。湾に流れる河川の濁りにまず目をつけた記者は上流に遡り、ダムの影響、採石場からの不法投棄、縦割り行政の不連絡、川をめぐる産業利権を見出す。さらに外国産エビによる偽装、変更を余儀なくされる漁業、のみならず地域漁業に内在する問題にも触れる。誰もが主体であり、責任者だ。ワクワクする理由はまず記者の「自由すぎる」躍動ぶり、そして紹介される解決に向けて手探りで活動する地元の人々の姿である。カントの格言まで登場し、この現象の主役は地域全体なのだと主張する。啓蒙的論調がうまく避けられているのは、取材結果がさらに発見と問題を見出させる予定調和なしのリアルタイムさが読者に伝わってくるからだ。教育的価値も高い。地域の新聞ならではの力を感じた。(中谷礼仁)

受賞者コメント

-静岡が誇るサクラエビはまさにオンリーワンの存在。取材班の記者たちはこの「駿河湾の宝石」に誇りを持っています。不漁が依然続きますが、皆の知恵で復活する日を信じます。「海の問題はすなわち川の問題であり、森の問題であり、そして人の問題」。このたびの大きな賞の受賞を契機に一層自然とヒトの関わりについて考える読者が増えることを確信します。

 ファイナリスト作品

※応募受付順

ファイナリスト作品①  Choose Life Project 「5月12日 各政党 #検察庁法改正案に関する緊急記者会見 検察庁法改正案vs修正案 から続く4作品」

【候補者】佐治 洋
【発表媒体】Choose Life Project (You Tube)

ファイナリスト作品② 「森友自殺〈財務省〉職員遺書全文公開 『すべて佐川局長の指示です』」

【候補者】相澤 冬樹
【発表媒体】週刊文春

ファイナリスト作品③ NHKスペシャル 「全貌 二・二六事件 ~最高機密文書で迫る~」

【候補者】NHKスペシャル「全貌 二・二六事件」制作チーム代表 右田 千代
【発表媒体】NHKスペシャル

ファイナリスト作品④ No. 9: 「19人を殺した君と重い障がいのある私の対話」

【候補者】北日本放送報道制作局 障がい者問題取材班代表 武道 優美子
【発表媒体】北日本放送、日本テレビ系列全国放送

ファイナリスト作品⑤ No. 11: 「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」

【候補者】平良 いずみ
【発表媒体】沖縄「桜坂劇場」東京「ポレポレ東中野」大阪「第七芸術劇場」など順次全国公開

ご参考

選考方法

下記10名の選考委員からなる選考委員会により、本賞の主旨に照らして、商業主義を廃し、中立公平な立場から厳正な審査を行います。

  • 秋山耿太郎:朝日新聞社元社長
  • 瀬川至朗:早稲田大学政治経済学術院教授(ジャーナリズム研究)
  • 高橋恭子:早稲田大学政治経済学術院教授(映像ジャーナリズム論)
  • 武田徹:ジャーナリスト、専修大学文学部教授
  • 土屋礼子:早稲田大学政治経済学術院教授(メディア史、歴史社会学)
  • 中谷礼仁:早稲田大学理工学術院教授(建築史、歴史工学研究)
  • 中林美恵子:早稲田大学社会科学総合学術院教授(政治学、国際公共政策)
  • アンドリュー・ホルバート:城西国際大学招聘教授、元日本外国特派員協会会長
  • 山根基世:アナウンサー
  • 吉岡忍:作家、日本ペンクラブ会長
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