『ジャーナリズムは歴史の第一稿である。』 刊行の言葉

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座 2018 『ジャーナリズムは歴史の第一稿である。』

刊行の言葉  早稲田大学政治経済学術院教授(本賞選考委員) 瀬川至朗

一八八二年(明治一五年)に創設された早稲田大学も、この十年近くの間にモダンで綺麗なキャンパスになってきた。一方で、古い建物もその趣を保っている。二〇一八年三月には、現存する教室棟としては最も古い一号館(一九三五年創建)の一階に「早稲田大学歴史館」が開館した。

校歌にうたわれる「久遠の理想」「進取の精神」「聳ゆる甍」という言葉を指標とする三つの常設エリアなどから成り、早稲田大学の過去と現在、そして校友の苦闘と努力の姿を、豊富な資料や多彩なデジタルコンテンツを用いて展示している。

なかでも私が注目したのは、早稲田の源流と建学の精神を記した「久遠の理想」エリアである。早稲田大学の創設者である大隈重信を中心に、時の政府による迫害や弾圧に抗しながら、いかに早稲田が誕生したかがパネル展示によって語られている。

当時、「明治一四年の政変」によって政府から追放された大隈は、立憲改進党の結成と学校の設立(後進の育成)を目指していた。学校の方は、政府の人となることを好まない高田早苗ら東京大学卒業生を教員として迎え、東京専門学校(早稲田大学の前身)を開校した。言論や集会の自由に対する政府の統制には批判的な姿勢を示していた。パネルには「政府から 『謀反人の学校』と警戒され、様々な圧力がかけられた」と記されている。

建学の理念である「学問の独立」に「政府からの独立」が含まれていたことはまぎれもない事実であり、言論の自由を唱える精神と在野の姿勢は早稲田設立の当初から意図されていたことが窺える。ここにジャーナリズムの理念との親和性をみることができる。

実際に当初から、卒業生には新聞記者になる人が多かったようである。早稲田の発展に寄与した田原栄(一八五八─一九一四)は東京専門学校創立十周年祝典で、「千百九十名の卒業生のうち、新聞記者が八十七名、官吏公吏が五十七名、教員が三十九名、会社銀行員が五十八名、府県会議員が十六名……」と述べている(島善高『早稲田大学小史[第三版]』〔早稲田大学出版部、二〇〇八年〕四九頁)。

早稲田大学はその後も、「早稲田といえばジャーナリズム」と形容されるほどに多くの人材を輩出してきた。石橋湛山はその一人である。本書の終章で、アメリカのピュリツアー賞創設の経緯に触れたが、早稲田大学が二〇〇〇年に石橋湛山の名を冠する早稲田ジャーナリズム大賞を創設したのは、歴史の必然だったとも言えるのではないだろうか。

現在に目を転じてみよう。二〇一七年に発覚した森友学園・加計学園問題や防衛省の南スーダン日報隠蔽問題など、「政府の記録」が「隠蔽」され、「消去」され、さらには「改竄」されるケースは枚挙に暇がない。これまでの流れをみると、政府は「記録」と「公開」に全く反するかのような消極的な姿勢をみせており、公文書管理が大きな課題となっている。民主主義の礎をなすのは、市民の自主的、自立的な判断である。その市民の判断を適切なものとするために「知る権利」がある。真偽不明の情報や政府の意図的な情報操作により、市民の判断が歪められるようなことがあってはならない。

ジャーナリズムの果たすべき役割が、一層重要性を増してきているといえる。では、改めてジャーナリズムの役割とは何なのだろうか。そのことが本書全体の問いであり、『ジャーナリズムは歴史の第一稿である。』というタイトルを掲げた理由である。本書の中に、幾許かの答えが示されているものと自負している。

本書は「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の受賞者やファイナリストを中心に、第一線で活躍する方々を講師にお招きし、二〇一八年春学期に早稲田大学で学生向けに開講したジャーナリズム大賞記念講座(「ジャーナリズムの現在」)での講義内容が元になっている。学生の質問に対する答えを文章として追加してもらったり、話の流れが自然になるよう再構成してもらったりしている。

業務の傍ら、熱意を持ってご協力いただいた講師の方々には厚くお礼を申し上げたい。

(本書「あとがき」より)

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2018 『ジャーナリズムは歴史の第一稿である』 (成文堂)

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる