未来に向けて、不断の改革を。 鎌田薫総長、「Waseda Vision 150」を語る

特集 Waseda Vision 150 早稲田大学の現在地、未来を見据えて

早稲田大学はアジアのリーディングユニバーシティを目指し、「Waseda Vision 150」に沿ってさまざまな改革を進めてきました。特集ではVision策定から5年間の成果を振り返り、2032年に本学が目指す姿を再確認します。

PART. 3 Wasedaの未来地図

鎌田薫 第16代総長に「Waseda Vision 150」の成果、今後の課題について伺いました。

鎌田薫総長、「Waseda Vision 150」を語る
未来に向けて、不断の改革を。

第16代総長 鎌田薫

教育改革に比重を置きグローバルリーダーを育成

──2012年に創立150周年となる2032年を目標とした「Waseda Vision 150」を策定し、現在も取り組んでいますが、改めてその目的について教えてください。

本学では、「Waseda Vision 150」以前の十数年間においても、「21世紀の教育研究グランドデザイン」「Waseda Next 125」を策定し、さまざまな改革を遂行してきました。

その間、2011年3月11日の東日本大震災と原発事故、その後に引き続いた国内外における集中豪雨は、その被害の甚大さによって私たちに大きな衝撃を与えただけでなく、科学技術や社会システムのあり方、研究者の社会的役割、さらには私たちの生き方そのものについて深刻な反省を迫りました。同時に、私たちがすでにグローバル経済構造の中に組み込まれていること、環境・エネルギー問題など地球規模で解決を図るべき課題が深刻な状況に達していることを痛感させられました。

複雑化・高度化した現代社会において、真の世界平和と人類の幸福を実現するためには、大学が中心となって新しい価値観、新しい科学技術や社会システムのあり方を提示することが必要です。同時に、次の時代を牽引していく優れた人材、グローバルリーダーを育成することも求められています。本学ではこの重要な使命を果たすべく、これまでの改革の歩みをさらに発展させ、アジアのリーディングユニバーシティとして確固たる地位を築くための中長期計画として、2012年11月、教職員の経験値を結集した「Waseda Vision 150」を策定しました。

「Waseda Vision 150」では、創立150周年を迎える2032年に本学のあるべき姿(ビジョン)を思い描き、その実現に向けて13の核心戦略とそれを実現するための具体的なプロジェクトおよび数値目標を提示しました。これは当時としては画期的なことでしたが、その後多くの大学において、将来展望を踏まえた事業計画が策定されるようになりました。数値目標はそれ自体が主目的ではなく、達成状況を分かりやすく示し、自己点検をするためのものです。

──策定から5年間が経過しましたが、何に注力してきましたか。

特に、教育改革に最も大きな比重を置いてきました。早稲田大学はグローバルリーダーを育成したいと考えていますが、そこに必要な資質とは、「グローバルな視点」と「価値観の異なる多様な人々と適切なコミュニケーションを取る能力」、そして「智恵」「志」「実行力」、総じていえば「人間力」だとしています。かつ、生涯学び続ける姿勢と、その際に必要となる基本的なスキルとマインドを身につけることも必要です。これらを大学教育において実現するための教育環境・学習機会を提供してきました。

──改革を進めてきた成果は、外からどのように評価されていますか。

成果を表す指標の一つとして、英国のQS社が実施する世界大学ランキング「QS Graduate Employability Rankings 2018」がありますが、本学は世界26位にランクインしました。本ランキングは、卒業生の雇用者による評価、活躍等の項目からなり、企業と連携した取り組みや卒業生の活躍ぶりが世界的に高い評価を得た結果といえるでしょう。国内ランキングにおいても、進学ブランド力調査2017(リクルート総研)の「志願したい大学(首都圏)」で第1位、「本当に強い大学2018(東洋経済)」で第2位、「大学ブランド力ランキング2017-2018(日経BP)」で第3位となるなど、多方面から高い評価を得ています。

検証・改善を怠らず柔軟に計画を進める

──改革の先にある早稲田大学の姿をどのように描いていらっしゃいますか。

「Waseda Vision 150」では、①世界中から、世界に貢献する高い志を持った学生が早稲田に集う②世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する研究が行われている③早稲田大学の卒業生(校友)が、世界の至る所、あらゆる分野で、グローバルリーダーとして社会を支え、かつ、早稲田大学と緊密な協力関係を築いている④早稲田大学がアジアの大学モデルとなりうる運営体制を確立しているという4つのビジョンを描いています。

④について補足しますと、グローバル社会で、世界のつながりはより密接になりましたが、決して均質化が進むのではなく、社会・文化の特質が顕在化しており、国や地域の特色を維持しながら多文化共生を図ることが、あるべきグローバル社会だと考えています。ですからアジアに立脚する早稲田大学として、存在感を増していくことを目指しています。

以上の4つのビジョン全てを実現したあるべき姿に近づけるために、この5年間は、戦略的に大学をマネジメントするためのガバナンス体制の構築も進めてきました。教育や研究の改革を行っても、ガバナンス体制が揺らいでいたり、裏付けとなる財政基盤が確立されていなかったりすれば、これを継続していくことはできません。

「Waseda Vision 150」では、核心戦略・プロジェクトごとに毎年計画を策定し、効果を検証しています。PDCAサイクルのCheck(検証)とAction(改善)の部分を強く意識し、ただ愚直に当初のプランどおりに改革を遂行するだけでなく、環境の変化に応じて、その手段やアプローチを都度改善し、目標・目的の実現に向かって走り続ける柔軟な仕組みを少しずつ確立してきました。部門横断のプロジェクトが、縦割の組織に横ぐしを刺すことにより組織が有機的に結びつき、縦と横の両方の視点を持ちながら、改革を推進しています。

「Waseda Vision 150」は一度策定して終わりではありません。20年という長期間では社会情勢も、改革に取り組む構成員も変化します。常にPDCAサイクルを回し、より良いものへと進化させていくことが重要だと考えています。

創立からの使命を引き継ぎ現代のニーズに応えていく

──未来に残したい早稲田大学の魅力をお聞かせください。

本学は、自由と多様性を重んじる伝統を有し、勉学面はもちろん、学術・文化・スポーツなどの活動に挑戦できる機会や、世界各国・日本各地から集まった個性豊かな学生たちと切磋琢磨する機会に恵まれています。異なる文化や価値観に触れ、人間的成長が期待できるのは、早稲田大学ならではの環境です。そうした大学に憧れて世界中から人が集まり、良い循環を生み出しています。このような魅力は、未来に引き継がれていくでしょう。

一方、今後は「国際研究大学」を目指し、研究面での改革にも一層注力したいと考えています。研究力の強化は少しずつ結実しており、英国のQS社による分野別ランキングでは、世界200位以内に入っている研究分野は15分野から24分野に増えました。これは国内では東大・京大に次ぐ数で、本学の研究の裾野が広いことを表しています。また2017年度には、大規模データの解析や課題探索の拠点として「データ科学総合研究教育センター」を設立しました。

あらゆる専門領域で研究のコンサルティングとサポートを行い、データサイエンスを活用できる研究者の育成と早稲田の研究水準の向上に貢献します。

さらに創立当初からの本学の使命として、地域の発展への貢献も継続していかなければなりません。初代学長の高田早苗は卒業生に対し、地方に出てその活性化に貢献することを強調しています。また、リカレント教育についても、過去を紐解けば、創立4年後には「早稲田講義録」という通信教育を開始しており、創設以来の伝統です。現代は、一つは急速な変化を伴う時代であること、もう一つは人生100年時代と言われる高齢化社会を迎えていることから、生涯学び続ける必要性が高まっています。本学でも2017年に日本橋キャンパスに「WASEDA NEO」という未来創造型の新たな社会人教育の拠点を作るなど、多彩なニーズに多彩なプログラムを拡充しています。

また、本学ではソニーの井深さん、ユニクロの柳井さん、最近ではメルカリの山田さんや最年少で東証一部上場を果たしたリブセンスの村上さんなど、素晴らしい起業家を連綿と生み出してきましたが、現在においても「EDGE NEXT」という起業や新事業創出に挑戦する人材の育成に注力しています。

さらに本学は、各博物館・図書館をはじめ、貴重な文化資源も数多く引き継いできました。2018年3月には、本学の歴史そのものも未来に継承されるものであるという考えのもと、歴史をテーマとした「早稲田大学歴史館」を設置しました。この内容がさらに充実したものになるような歴史を積み上げていくことが、本学のさらなる発展につながると思います。

──未来に向けて、変えていかなければならないことは何でしょうか。

少子化などの外部環境の変化により、私立大学の存続が危ぶまれていることを肝に銘じていかなければなりません。内向きの志向ではなく、弛まぬ自己改革を行い、社会の中で価値ある存在になり、存在意義を示していくことが求められていると考えています。

人生100年時代、卒業後も大学とのつながりを

──学内外に向けて、メッセージをお願いします。

大学を取り巻く環境が常に変化し、競争がますます激化しています。「WasedaVision 150」の意義は、その内容はもちろんのこと、「停滞は死滅である」との大隈重信の言葉のとおり、不断の改革を成し遂げるマインドと実行力を持つことにあります。

早稲田大学は、驚くほど、豊かな教育環境や機会に恵まれています。学生には主体的にこの環境や機会を活用していただきたいですし、大学側も何が提供できるのか、具体的に提示していく必要があります。人生100年時代と言われますが、卒業後も大学に戻ってくれば、必ず求めるものがあると思います。卒業生であることを誇らしく思い、大学とのつながりを保ち続けていただきたいですね。

また、学生・校友・教職員はもちろん、ご父母をはじめとする保証人の皆様におかれましても、早稲田大学が永続的にあり続けるために声を発信していただきたいと考えています。例えば、私立大学が人材輩出や研究により公的役割を果たしているにも関わらず、国公立大学と比較してご父母に高い負担を強いているという不均衡も是正していかなければなりません。早稲田大学が、世界の中で永続的に魅力ある大学であり続けるため、引き続きのご協力をお願いいたします。

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