演劇人が語る 早稲田と演劇
まさに今、舞台で活躍する演劇人に、早稲田演劇の魅力や、演劇への思いをお聞きしました。
創像の芽をのばし、せめぎあう無秩序な多様性
長田育恵
文キャンのスロープ下に部室があった利便性で「早大ミュー ジカル研究会」に入部を決めたのが、私の分岐点でした。その 頃は、旧どらま館と旧学生会館を基点に、六号館屋上にあった SPACE 5 や校舎地下にあった部室長屋など、大学中至るとこ ろで多角的に、現代演劇からコント、歌舞伎などの古典まで、 さまざまな種類の演劇が溢れかえっていました。かくいう「早 大ミュー研」の隣の部室は、前衛劇の学内旗手であった劇団 「森」。得体の知れない呻き声が壁越しに聞こえてくる。負けじと こちらは歌い踊る。演劇初心者で入学した私も、こうした早稲田 に充ちる演劇のエネルギーに魅せられ、その年の冬からは本公 演の演出・脚本・作詞を担当するようになっていました。
早稲田演劇の最大の魅力の一つは、この無秩序な多様性ではないでしょうか。雑多で豊かな土壌から、それぞれの創造の 芽をのばし、せめぎあう。演劇で社会と渡り合う覚悟と具体性を 試される。あの頃早稲田で育まれた情熱が、今の私を支えてい ます。
Profile
おさだ・いくえ
2009年、自身の劇団「演劇ユニットてがみ座」を旗揚げ。『青のはて』(2012)で第16回鶴屋南北戯曲賞に、『地を渡る舟』(2013)で第17回鶴屋南北戯曲賞と第58回岸田國士戯曲賞にノミネート。今年、坪内逍遥の生涯を描いたピッコロ劇団『当世極楽気質』の他、10月には、てがみ座『地を渡る舟』(再演)が上演予定。