第20回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 受賞者挨拶 ―日下部 聡 氏

※第20回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 式辞・講評 はこちら

【公共奉仕部門 大賞】
「桜を見る会」追及報道と『汚れた桜「桜を見る会」疑惑に迫った49日』の出版 ネットを主舞台に多様な手法で読者とつながる新時代の試み
(毎日新聞ニュースサイト、毎日新聞出版)

毎日新聞統合デジタル取材センター 「桜を見る会」取材班代表
日下部 聡(毎日新聞 東京本社)氏の挨拶

 

このたびは日本で最も栄誉あるジャーナリズムの賞の一つ、石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞をいただき、取材班一同、心より喜んでおります。選考委員の皆様、田中総長をはじめ賞を支えている早稲田大学の皆様にあらためて御礼申し上げます。

正直申し上げまして、大賞を頂けるとは思っておりませんでした。何故かと言いますと、そこには大スクープがあったわけではなかったからです。

しかし、従来の新聞報道とはちょっと違った形のニュースの出し方とか、見せ方は出来たのかなという思いはありました。さきほど秋山選考委員から「記者クラブから離れた自由な立場で、SNS等を活用して新しい新聞報道の形を示したのではないか」と評していただきました。先月発表されました授賞理由のなかでは、武田委員からは「ソーシャルメディアの活用や、書籍の刊行イベントを記事化するなどして市民社会を巻き込み、世論をパブリックオピニオンにするように努めた」と評していただきました。いずれも、私たちが考えていたことを評価していただいたと、本当にうれしく思っております。

私どもの統合デジタル取材センターという部署は、毎日新聞のデジタル化のために試験的に設けられた新しい部署です。取材班の3人の記者と、デスクの私、いずれも紙の新聞で育ってきた人間でデジタルネィティブではありません。しかし、この部署で働くなかで、今の読者のほとんどは紙ではなくてインターネットの向こう側にいるということが頭にありました。そのために桜を見る会の問題が浮上し、ツイッター上の反応をみたときに、これは多くの人が求めている話なのだということをすぐに共通認識として共有したわけです。

ネットに上がっている疑問とか情報とか意見とかに目を配りつつ、すでに新聞では報じられていることであっても、改めて詳しく解説したり、ツイッター上の鋭い意見や見識をヒントに記事を書いたりしました。多くの疑問の声が上がった総理大臣の記者会見の在り方、安倍政権とメディアの関係というところまで、同じ新聞でありながら、ちょっと部外者的な立場から書いていくことで、そうした疑問に応えようとしたわけです。

振り返ってみますと、読者とのコミュニケーションをしながら進める新しい形の権力監視報道だったのかなと思うわけです。コミュニケーションといっても、話し合うわけではなく、人々が発信していることを受け止めて活用して報道していくという形でした。

でもそれは、送り手が一方的に受け手に伝える形の従来の新聞報道とは明らかに違うものだったと思っています。その報道を面白いと思ってくれた出版とイベントの担当者がそれぞれアイディアを発案してくれました。その結果、本の出版、イベント化というプロセスのなかで、実際に読者と本当にコミュニケーションする場も設けることができました。いろんなチャンネルで発信していくことを続ける中で見えてきたのは、取材のプロセス、報道のプロセスを、私たち記者や編集者が出来るかぎり顔を見せて伝えていくことことそが、ジャーナリズムの信頼の回復につながる道なのではないかということです。

報道環境は激変しているなかで、新聞も変わっていかなくてはならないと思っています。その意味で今回の受賞を大きな励みといたしまして、今後とも新しい報道の在り方を試行錯誤して参りたいと思っております。

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