ヒト腸内フローラから新細菌群を発見

酪酸産生機能を有する新細菌群(C細菌群)をヒト腸内フローラから発見

未だ解明出来ていないヒト腸内フローラ解析の進展に期待が高まる

発表のポイント

メタゲノムデータからの細菌群の推定において、機械学習アルゴリズム(潜在的ディリクレ配分法)による新解析手法を開発

近年、健康維持に貢献するとされる酪酸産生機能を持つ新たな細菌群(C細菌群)を、ヒト腸内フローラから発見

国別の細菌群を比較した結果、日本人にはC細菌群の存在量が少ないことが判明

早稲田大学(東京都新宿区:総長 田中愛治)大学院先進理工学研究科博士後期課程の細田至温(ほそだしおん)、同大理工学術院の浜田道昭(はまだみちあき)教授らの研究グループは,同大理工学術院の服部正平(はっとりまさひら)教授(研究当時)、東京大学(東京都文京区:総長 五神真)大学院情報理工学系研究科の福永津嵩(ふくながつかさ)助教、および産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ(※1)(CBBD-OIL; 東京都新宿区:ラボ長 竹山春子)の西嶋傑(にしじますぐる)研究員(研究当時)との共同研究により、機械学習手法を用いて、3つの型に分類されるヒトの腸内フローラ(※2)において、それぞれの型に共通して現れる細菌群を推定しました。また、その細菌群を構成する細菌が酪酸を産生する機能を持つことを発見しました。さらに、C細菌群と名付けられた新しい細菌群は、日本人には存在量が少ないことが判明しました。この研究成果を受けて、新細菌群の存在量と疾患との関連調査などを解析することで、ヒト腸内フローラ研究の更なる発展や、細菌間相互作用のメカニズムの解明が期待されます。

本研究成果は、2020年6月24日(水)午前1時(CEST:日本時間6月24日午前8時)にSpringer NatureグループのBioMed Central社が発刊するオープンアクセス科学誌「Microbiome」で公開されました。

雑誌名:Microbiome

論文名:Revealing the microbial assemblage structure in the human gut microbiome using latent Dirichlet allocation

<これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)>

近年の次世代シーケンサー技術の発達により環境中の細菌を調べるメタゲノム解析(※3)が可能になりました。これによりヒトの腸内フローラを調べる研究が発展しました。ヒト腸内フローラのデータ解析が進むにつれ、それらには三つの型が存在していることが分かりました。これらの型はエンテロタイプ(※4)と呼ばれています。エンテロタイプはヒト腸内フローラ研究では広く用いられ、食生活などとの関係の解明に役立てられて来ました。しかしながら、エンテロタイプによる層別解析では細菌群(assemblage)を考慮できませんでした。図1では、メジャーな細菌群Bの影響でマイナーな細菌群AやCを考慮できず個人2と個人3を同じクラスタβに分類してしまう様子を表しています。

図1: 細菌群とクラスタリング(※5)のイメージ図。円はそれぞれある細菌群A、B、Cを示し、円の大きさは細菌群の存在量を示している。クラスタリングでは細菌群を見過ごして同じクラスタに分類してしまう。

<今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと>

本研究では、細菌群を推定し、細菌群とエンテロタイプとの関係を知ることで新たなヒト腸内フローラの構造の解明を試みました。複数の国の成人被験者の腸内フローラデータから細菌群を推定しました。結果として、各エンテロタイプに対応する細菌群3つに加えてどのタイプにも現れる1つの細菌群が発見されました。本研究グループはこの細菌群を、Clostridium属の細菌が支配的であることに因んで、C細菌群(C-assemblage)と名付けました。このC細菌群は酪酸産生菌(※6)と呼ばれる細菌で構成されていました(図2)。これらは、酪酸が抗炎症作用を持つと示唆されていることから健康に関係するとして注目されている菌です。さらに、このC細菌群は日本人の腸内では少ないことが分かりました(図3)。

図2: 各細菌群の構成比。縦軸が細菌群、横軸が細菌の分類属をそれぞれ示している。各セルの色の濃さおよび数値はある細菌群におけるある細菌の構成比を表しており、右のカラーバーが色と数値の対応を示している。なお、各細菌群においてそれぞれ構成比の大きい三つの細菌のみを表示している。Clostridium属、Eubacterium属は酪酸産生菌を含む分類属である。

図3: 国別の細菌群の構成比。縦軸が国、横軸が細菌群をそれぞれ示している。各セルの色の濃さおよび数値はある国の個人における、ある細菌群の構成比の平均を表しており、右のカラーバーが色と数値の対応を示している。日本人にC細菌群(C-assemblage)の存在量が少ないことが分かる。

<そのために新しく開発した手法>

本研究グループは、潜在的ディリクレ配分法(LDA, latent Dirichlet allocation※7)という機械学習アルゴリズムによりメタゲノムデータから細菌群を推定する手法を開発しました。

<研究の波及効果や社会的影響>

近年、糞便移植による炎症性腸疾患の治療が導入されるなど、ヒト腸内フローラ研究の更なる発展が期待されています。本研究の結果を受けて、今後のヒト腸内フローラ研究においてC細菌群を考慮した解析が用いられると考えられます。

<今後の課題>

今回発見されたC細菌群に関して今後の展望として二点挙げられます。一つ目はC細菌群を用いた解析です。未だ不明な点の多いヒト腸内フローラの理解のために、C細菌群の存在量と疾患との関連の調査などの今回の研究で明らかになった構造を用いた解析が重要だと考えられます。二つ目はC細菌群理解のための解析です。例えばC細菌群が構成されるメカニズムなどの解明のための研究がこれにあたります。C細菌群がエンテロタイプに関係なく存在することからC細菌群の機能はヒトに不可欠なものである可能性があります。C細菌群が構成されるメカニズムが解明されると、将来的には腸内フローラを利用した治療法の開発につながるかもしれません。

<用語解説>

※1 産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ(CBBD-OIL)

  • 2016年7月に早稲田大学と産業技術総合研究所(以下、産総研)が共同で設立した組織。産総研のオープンイノベーションラボラトリ(OIL)は、産総研の第4期中長期計画(平成27年度~31年度)で掲げている「橋渡し」を推進していくための新たな研究組織の形態で、CBBD-OILはその第4号案件。また、CBBD-OILは産総研が私立大学と共同で設立した初めての組織。

※2 腸内フローラ

  • 腸内に住む細菌全体を指した呼称。

※3 メタゲノム解析

  • 環境から得られた試料からDNAを抽出しゲノム情報を得る解析手法。

※4 エンテロタイプ

  • クラスタリングによって得られるヒト腸内フローラの型。

※5 クラスタリング

  • 似たデータをいくつかのクラスに分けて分類するデータ解析手法。

※6 酪酸産生菌

  • 代謝によって酪酸を産生する菌。

※7 潜在的ディリクレ配分法(latent Dirichlet allocation, LDA)

  • 自然言語処理の分野で提案された文章生成のための機械学習手法。

<論文情報>

雑誌名:Microbiome
論文名:Revealing the microbial assemblage structure in the human gut microbiome using latent Dirichlet allocation
執筆者名(所属機関名):Shion Hosoda(早稲田大学、産総研・早大 生体システムビッグデータ解析 オープンイノベーションラボラトリ)、 Suguru Nishijima(産総研・早大 生体システムビッグデータ解析 オープンイノベーションラボラトリ 当時、早稲田大学 当時、東京大学 当時)、 Tsukasa Fukunaga(東京大学、早稲田大学)、Masahira Hattori(早稲田大学、東京大学、理研)、Michiaki Hamada(早稲田大学、産総研・早大 生体システムビッグデータ解析 オープンイノベーションラボラトリ
掲載日時(現地時間):2020年6月24日(水)午前1:00(ドイツ時間)
掲載日時(日本時間):2020年6月24日(水)午前8:00
掲載URL:https://microbiomejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40168-020-00864-3
DOI10.1186/s40168-020-00864-3

<研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)>

研究費名:JSPS科学研究費助成事業
研究課題名:確率モデルを用いたヒト腸内細菌叢構造の解明と応用
研究代表者名(所属機関名):細田至温(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業 科学研究費補助金 若手研究(A)
研究課題名: 機能エレメントと深層学習に基づく長鎖ノンコーディングRNAの機能分類
研究代表者名(所属機関名):浜田道昭(早稲田大学)

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