ひとびとを助けることができる者は、他者の人権を守らなければならない アマルティア・セン氏名誉博士号贈呈式・記念講演

2018年4月24日、早稲田大学はハーバード大学ラモント特任教授及び経済学・哲学教授で、ノーベル経済学賞受賞者(1998年)であるアマルティア・クマール・セン氏に、名誉博士号を贈呈しました。贈呈式と記念講演会は大隈記念講堂大講堂で行われました。

アマルティア・セン氏(左)と鎌田薫総長(右)

セン氏は厚生経済学の発展に多大な貢献を果たした経済学者であり、その社会的選択理論は、福祉や貧困、飢饉・飢餓など焦眉の問題の解決に貢献するなど、純粋理論と公共政策との連結環となっています。ノーベル経済学賞授与にあたっては、国連開発計画の人間開発数値の再構築を含む研究功績が理由として挙げられています。さらに鎌田総長は顕彰状において、「本学においても、経済学だけでなく、倫理学、政治哲学、法哲学、地域研究などを専門とする教員や学生が氏の研究から多大な影響を受け、理論的研究と実践活動を融合させ人類の今日的課題の解決に向けて努力を続けている」と、セン氏の活動が本学の研究・教育活動のひとつの指針となっていることに触れました。

名誉博士号授与に際し、セン氏は「啓蒙を探求し続けることは、じっさいグローバルな現象なのです。アジアの伝統とヨーロッパの啓蒙思想の成果を摂取している早稲田大学はまさに、この受け継がれてきた世界的遺産の貢献者であります。ここで培われてきた叡智は、私たちが生きるこんにちの不安定な世界において、ますます重要なものとなっています。このような素晴らしい大学の一員となったことを、実に誇らしく感じます」とコメントしました。

『人権への義務』とは

人権や自由について語るセン氏

贈呈式に続いて、セン氏による記念講演『人権への義務』が行われました。人権という概念がいかにして法的思考に導入され、またジェレミ・ベンサム、トマス・ペイン、メアリ・ウルストンクラフトといった思想家たちがそれぞれ人権をどのように解釈したかについて説明しました。さらにセン氏は、倫理についてのふたつのアプローチの違い、すなわち人権に基づくアプローチと功利主義的アプローチの違いについて説明しました。人権に基づくアプローチは、功利性よりも自由であることに倫理的判断の重きを置き、また損得勘定を念頭におきつつひとりひとりのモラルに訴えかけるよりも、みながより自由にならねばならない、という義務にみずからの自由への要求をむすびつけるものだ、と。

不完全義務は、義務がないということと混同されてはならないのです

自由はなぜ価値あるものか。セン氏はその理由を、公正なプロセスは、他者から強制によって私たちが特定の状況に追い込まれることのないよう保証するからだ、とします。例えば、「拷問されない」という人権は、「拷問から自由であること」の重要性に由来しますが、それは他者に対しても必然的に確証しなければならない、となるはずです。すなわち「ひとびとが理性的になしうるものごと」は「拷問からの完全な自由を堅持することだ」と考えなければならないのです。ここでセン氏は、ひとびとを助けることができる立場にいるものは、他者の人権を守らなければならないという本質的要請が伴うことを指摘し、哲学者イマヌエル・カントのいう「不完全義務」について言及しました。

「不完全義務とは、手を差し伸べることができる人たちが、ある状況に対して自分は理性的になにができるかを考える、一般的な義務です。その他の義務や、義務ではないけれども気になってしまうものごとが、特定の行為についての理性を有耶無耶にしてしまうこともありえますが、しかしこの理性は、目の前で起こっている問題が「自分には関係ない」からといって、かんたんに吹き飛ばされてしまうようなものではありません。不完全義務は、義務がないということと混同されてはならないのです」。

最後にセン氏は、人権の規範(normativity)や政治的・社会的関連性を決定し、人権を策定するのに、いかに公共的理性(public reasoning、すべてのひとびとに承認された、政治的・社会的議論のための共通の枠組み)が重要かを述べました。「社会倫理に対する人権からのアプローチは、「国境なき」批判的参加こそ重要だと言わねばなりません」と、講演会を締めくくりました。

式典のライブ配信

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早稲田大学名誉博士学位について

学問、芸術、社会または人類のため顕著な貢献をした人物で、早稲田大学においてとくに顕彰することが適当と認められる方に贈呈する学位。早稲田大学における名誉称号としては最高位のものです。セン氏を含め、これまでに国内外139名の方々に贈呈しています。

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