早稲田大学はノーベル経済学賞受賞者(1998年)アマルティア・クマール・セン氏(ハーバード大学ラモント特任教授及び経済学・哲学教授)に、名誉博士学位を贈呈しました。贈呈式にさきだち、2018年4月23日、政治経済学術院およびSGU実証政治経済学拠点、SGUグローバルアジア研究拠点主催で学生・教員との懇談会が行われ、40名ほどがセン氏と親しく質疑を行いました。
質疑は、ナッシュ社会的厚生関数などの専門的なテーマから、エンパワーメント概念とその諸形態まで、さまざまな話題に及びました。ある大学院生は、民主主義と貧困の関係について質問。「今日の民主主義は、貧困や飢餓など大きな問題を回避するのではなく、むしろ不平等を深刻化させているのではないか」と指摘し、高度な教育を受けている人々が貧困層より多くの権限や高い給料を得るべきだという考え方を政治哲学上擁護しつづけることが困難になりつつある、と懸念しました。この意見に対してセン氏は、「確かに民主主義は不平等と併存するが、国家が民主主義を諦めたら最後、たとえばスーダンやソマリアのように内乱が起きる可能性が高い」と話し、「産湯と一緒に赤子を流さない、ということが大切です。民主主義もまた同じです。人々が十分な情報を手にしていれば、適切な判断が可能なのです。民主主義には、誰でも参加できる、開かれた公共の議論が必要なのです」と応えました。
司会の政治経済学術院・河野勝教授はこの話題を引き継ぎ、例えば世界に蔓延するフェイクニュースのように、ソーシャルメディアは言論の自由を悪用することができる、と指摘しました。セン氏は開かれたソーシャルメディアの必要性を認めつつ、悪用のリスクに対する賢い規制もまた必要だ、と述べました。
最後にセン氏は、未来の研究者たちにむけて、「重要だから研究する」だけではなく、「それがわたしたちを惹きつけてやまない (it interests you) から研究しよう」とアドバイスし、理念と正義について力説しました。「理念がただちに実現することは稀であるものの、人々を感動させ鼓舞させる。より良い世界を目指しまた実行する能力があるなら、まずは行動しましょう。待っていてはなりません」と締めくくりました。