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産学のイノベーターが早稲田で交流
早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025 開催レポート②
Wed 07 Jan 26
早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025 開催レポート②
Wed 07 Jan 26
2025年11月26日、早稲田キャンパスにて「早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025(WOI’25)」を開催。早稲田大学の最新の研究、総合知に基づく分野横断型の産学官連携や人材育成、ベンチャー育成の成果とともに、「Global Research Center(GRC)」のビジョンを来場者と共有しました。
本記事ではWOI’25の中から、産学界・アカデミアのリーダーが結集した3つのセッションを中心に、レポートをお届けします。
※各登壇者の発言は、抜粋や要約によるものです。
総合知を創出する産学連携の可能性
早稲田大学は、2050年に『世界人類に貢献する大学』となることを掲げ、創立150周年記念事業を推進しています。GRCでは、トップダウンによる迅速な研究力強化、ボトムアップによる独創的・萌芽的な研究シーズの発展、各学術院の人材が分野を横断して連携する取組を進めています。産学官の垣根を超えた総合知で、課題に取り組むきっかけをWOI’25でつくりあげていきます。
オープニングでは、若尾真治理事の司会のもと、本間敬之常任理事より、GRCにおいて進めている取組などが紹介されました。
Global Research Center推進本部の副本部長を務める若尾真治理事
Global Research Center推進本部長を務める本間敬之常任理事
WOI’25では、総合知による人類への貢献に関するパネルディスカッション、産学包括連携による研究成果の報告、大学発スタートアップの事業紹介に加えて、早稲田大学の最先端研究を紹介する展示ブースが約50ブース出展しました。会場となった大隈記念講堂大講堂、リサーチ・イノベーション・センター(121号館)には、多くの来場者で賑わうとともに、一部の内容はオンラインでも配信されました。
Well-Beingを実現する、分野横断の研究
121号館のコマツ100周年記念ホールで行われたパネルディスカッション「総合知による人類への貢献 ~日本人の”Well-Being”を科学する~」では、田辺新一教授がファシリテータを務め、早稲田大学と包括連携に関する基本協定を締結している三菱電機株式会社の浮穴朋興氏をはじめ、黒田祥子教授、大須理英子教授が、世界的に注目が集まるWell-Beingについて最新の知見を共有しました。
「Well-Beingは、身体的・精神的・社会的に良い状態であることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念とWHOでは定義されています。この実践を、単一の研究者だけで前進させるのは困難です。各領域の知見を統合すべく、今回は3名のパネリストに登壇していただきます。」(田辺新一教授)
スマート社会技術融合研究機構 機構長
田辺新一教授(理工学術院)
「サステナビリティ経営を掲げる三菱電機株式会社は、早稲田大学と2023年11月に『サステナビリティ社会の実現に向けた包括連携に関する基本協定』を締結し、カーボンニュートラルにWell-Beingの視野を加えた実証研究を推進。ZEB関連技術実証棟『SUSTIE』を活用し、省エネでありながら働く人々に健康で快適な室内環境を提供しています。ネットゼロエネルギーとWell-Beingは相反する部分も多いですが、エネルギーマネジメント、室内環境、働き方や多様性、生産性などの領域で、早稲田大学の各研究者と連携し、両立を実現していく方針です。」(浮穴朋興氏)
三菱電機株式会社情報技術総合研究所 副所長
浮穴朋興氏
「労働経済学を専門とする私は、働き方、健康とWell-Being、生産性という3つのキ―ワードで研究を進めています。企業との連携によるWell-Beingと生産性の因果関係の研究では、チームでのWell-Beingの重要性や、男性と女性の違いなど、新たな視点を得ることができました。個々人が働く空間・時間を自由に選択することができる環境を大切にしつつ、チームワークや創造性を活性化するためには同じ空間を共有した人と人との交流やディスカッションの場も重要です。これからの時代は、個人とチームのWell-Being、そしてその先にある生産性の向上を同時に実現しうる働き方を探求していくことが必要だと思います。」(黒田祥子教授)
総合研究機構ウェルビーイング&プロダクティビティ研究所 所長
黒田祥子教授(教育・総合科学学術院)
「認知神経科学の視点から、性格特性、ASDやADHDといった神経発達的特性、さらには文化的背景により、Well-Beingの形が“人それぞれ”であることを明らかにすべく研究を進めています。例えばコミュニケーションを好むことが幸福とは限らないなど、『認知的多様性』からWell-Beingな働き方を捉え直すことで、新たな発見が生まれます。今後はより多彩なデータを分析し、一人一人に合った働き方のレコメンデーションや、多様な人が働きやすく生産性を発揮できる職場環境の解明など、Well-Beingや生産性、クリエイティビティに資する研究を充実化させたいと考えています。」(大須理英子教授)
大須理英子教授(人間科学学術院)
多様な領域で進む、早稲田大学の産学連携
大隈記念講堂大講堂で行われた「【WCANS】産学包括連携によるイノベーションの共創へ」では、早稲田大学が産学包括連携協定を締結した関西電力株式会社、株式会社島津製作所、株式会社日建設計において、イノベーションの共創を牽引されている3名の方々に登壇いただきました。
「総合大学として文理融合ネットワークを有する早稲田大学は、カーボンユートラル社会の実現に向け、2022年に『カーボンニュートラル社会研究教育センター(WCANS)』を設置。最先端の研究推進や社会実装、人材育成に取り組んでいます。社会インフラを支える日本のトップ企業とも包括協定を結び、産学連携によるアプローチを強化することで、人、社会、地球への貢献を目指しています。」(林泰弘所長)
カーボンニュートラル社会研究教育センター 所長
林泰弘教授(理工学術院)
「関西電力株式会社は『ゼロカーボンビジョン2050』を掲げ、デマンドサイド、サプライサイドのゼロカーボン化、水素社会への挑戦に取り組んでいます。家庭、業務、産業、運輸など全ての分野において、電化や非化石転換の取り組みを深化させる上で、早稲田大学との包括連携により両者のノウハウを融合させることは、大きな前進になります。現在、技術の開発・導入と、それを活用した未来志向型まちづくりプロジェクトにおいて協力しており、ヒートポンプの普及・拡大やスマートシェアリングタウンの実現に向け、早稲田大学の各専門の研究者と連携を強化しています。」(藤野研一氏)
関西電力株式会社 代表執行役副社長 ソリューション本部長
藤野研一氏
「株式会社島津製作所は、早稲田大学との連携により、ウェルビーイングに資するカーボンニュートラル社会の実現を目指し、共同研究による新製品の開発や高度専門人材の育成に取り組んでいます。また、2025年4月には産官学共創コンソーシアムを立ち上げ、サスティナブルな未来食の普及に向けた活動を開始しました。『科学技術で社会に貢献する』という社是のもと、今後も事業を通じたサステナビリティへの貢献を目指してまいります。」(宮川治彦氏)
株式会社島津製作所 執行役員 分析計測事業部 副事業部長、技術部 部長
宮川治彦氏
「建築家、エンジニア、プランナーなどの専門家により構成される株式会社日建設計は、日本最大の設計事務所集団です。日本のCO2排出量において、業務用建築領域の占める割合は大きく、私たちは脱炭素に向けて責務を果たしていかなければなりません。現在、早稲田大学、独立行政法人都市再生機構と連携し、脱炭素、食、ウォーカブルなど、さまざまな観点を取り入れた持続可能なまちづくりを進めています。『ひと』が輝くカーボンニュートラル社会の実現を目指し、今後は事例づくりに取り組むフェーズへと移行します。」(水出喜太郎氏)
株式会社日建設計 常務執行役員 エンジニアリング部門統括
水出喜太郎氏
「産学連携で目指すカーボンニュートラルのさらに先に、人や環境を幸せにするクライメイトポジティブな社会があるとするならば、技術革新だけでは不十分であり、経済や制度を組み合わせて考える必要があります。この社会課題解決こそが、文理融合研究の意義であり、人文社会系の研究者が活躍すべきポイントです。気候変動、テクノロジー、経済合理性、社会受容など、さまざまなピースをパズルのように組み合わせ、企業の皆さまの大きなビジョンを実現していくことが、私たちには可能だと考えています。」(下川哲副所長)
カーボンニュートラル社会研究教育センター 副所長
下川哲教授(政治経済学術院)
「社会に真のインパクトを与える研究を推進するためには、幅広いリベラルアーツと多角的な視座が不可欠です。早稲田大学の基盤的な強みを生かし、AI時代の倫理観、創造性、そして社会実装力を人材育成に統合していくことは、今後ますます重要となるでしょう。企業の皆様とは、より長期的な視点に立ち、次世代の人材を共に育てる連携を強化していきたいと考えています。」(竹山春子副所長)
カーボンニュートラル社会研究教育センター 副所長
竹山春子教授(理工学術院)
AI時代、企業経営はどのように変わるのか
早稲田大学の校友であり、国内のリーディング企業の経営者による座談会「Wasedaリーダーズ・フォーラム」の今年のテーマは、「企業や組織におけるAIの活用~教育機関への期待~」です。入山章栄教授のファシリテートのもとで、AI時代の経営について意見を交わしました。
「組織、戦略、物事の考え方について、全てAIをベースに取り組むスタートアップが飛躍的に成長している一方で、多くの組織は“Before AI企業”として、変革を迫られています。変化の激しい時代の中でイノベーションを起こしていくためには、責任をとりながら意思決定を行う経営者、AIが代替できないリアルな現場で働く人材の価値が高まっていくでしょう。その中間に位置する多くの人材が、転換を強いられるのが現実です。日本企業の舵取りには、個人的に強い危機感も抱いています。」(入山章栄教授)
入山章栄教授(大学院経営管理研究科)
「サービス産業を基軸にする全日本空輸株式会社は、人的リソースに深く依存する企業です。AIの浸透を危惧する社員に対し、私は『技術の進化がもたらすインパクトをもう一度考える』ように伝えています。AIは2030年までに産業革命を起こす可能性もありますが、マネジメント層と現場スタッフが、より強固な“プロ”になることが、差別化のカギです。デジタルでは真似できない企業文化が色濃く反映された人間の仕事の領域こそ、私たちが生きる道だと、現時点では仮説を立てています。」(井上慎一氏)
全日本空輸株式会社 代表取締役社長
井上慎一氏
「AIやデジタルの遅れが心配される日本ですが、今年に入って本格的に動き出したと感じています。当社でも現在、生成AIの活用を進めており、大幅な業務効率化を実現しています。また、過去の意思決定プロセスや失敗事例など、社内に蓄積されたナレッジをAIに読み込ませることで、新規案件における分析や判断を支援してくれることも実感しています。一方で、仕事には人と取り組み、ともに成功を分かち合う喜びが普遍的にあるのも事実です。経験に基づく直感や人間力を磨くことも、重要なのだと思います。」(石井敬太氏)
伊藤忠商事株式会社 代表取締役社長 COO
石井敬太氏
「企業が持つデータが、AI時代の価値を決めていくのは間違いありません。過去の暗黙知を読み解くなど、効果的な使い方を見据えるべきでしょう。また、共感力を持ってサービスを提供する“ケアギバー”の価値も高まります。人間が持つ深い部分にアプローチすれば、新しい仕事も生まれていくかもしれません。感情を理解できる人間においては、できることが、むしろ増えていくと思われます。」(中井陽子氏)
アドビ株式会社 前代表取締役社長
中井陽子氏