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「特集 Feature」 Vol.13-3 見えないものを見る! 放射線イメージングの未来(全3回配信)

高エネルギー宇宙物理学研究者
片岡 淳(かたおか じゅん)/理工学術院 先進理工学部 応用物理学科 教授

放射線を身近で安全なものに

kataokasennsei3-1最先端の宇宙分野、医療から、さらに原発事故を機にはじめた環境分野の研究においても実績を生み出す早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 応用物理学科の片岡淳教授にお聞きしました。

(取材日:2016年12月21日)

環境分野への応用

これまで、ガンマ線を可視化するカメラが世の中に無かったかというとそんなことはなくて、各メーカーで製造されたものは存在していました。ただ、その用途が原子力施設の監視といった特殊かつ非動的なものが多かった関係もあり、非常に重く、さらに1枚撮影するのに30分から1時間は据え置かなければいけない、といったものでした。それが福島第一原子力発電所の事故が起きて、放射線が広範囲に広がってしまった。つまり、放射線の可視化がより一般レベルで必要で、除染が必要な地域を特定しようにも、それらの装置では対応しきれない、という状況になってしまったのです。

そこで事故直後から、浜松ホトニクス社と共同で、もっとコンパクトで感度がよく、リアルタイムに近い状態で放射線の分布画像を撮影できないか、という課題に取り組み、医学分野と同様に宇宙分野での経験を生かして、小型のコンプトンカメラの開発に着手しました。最初につくったプロダクトがだいたい1.9キログラム、大きさが15センチくらい。魚眼レンズで撮影した可視の画像とガンマ線カメラで撮影した画像をパソコン上で合成してガンマ線の分布状況を可視化する仕組みで、ガンマ線源を動かすと数十秒以内には移動後の位置を特定できるくらい感度の高いものでした。

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写真:ガンマ線の分布状況をリアルタイムで可視化。魚眼レンズで撮影した可視の画像とガンマ線カメラで撮影した画像をパソコン上で合成することで可能になる

軽量化とドローンの活用

ただ、高性能の小型カメラが開発できたのはよかったのですが、ここでひとつ問題が生じました。福島県は約7割が森林地帯です。市街地の除染作業に目処が立ち、残された森林地帯はどうする、という話になったときに、最初はカメラを持って森に入り、三脚を立てて撮影すればいい、と考えていたのですが、実際に現地に行ってみると、いくら軽量とはいえ、約2kgもの重量を担いで山道を歩き回るのはかなり辛く、作業効率が悪いことがわかったのです。

そこで発想したのがドローンの活用でした。市販されているドローンでも5kg程度の重量は持ち上げることができます。私たちのカメラの最大の強みであるコンパクトさと高感度がここで生きました。私たちは、ドローン(DJI社製S1000+:4.4kg)にノートPCとコンプトンカメラを設置して、15〜20mくらいの高さから10分間ほど撮影しました。すると、直系約70mの範囲の放射性核種の分布状況が一挙に撮影することができたのです。カメラからリアルタイムで地上に送信されてきた画像を見れば、どこにホットスポットがあるかは一目瞭然です。

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図、写真:市販の汎用ドローンを用いた短時間かつ迅速な上空からのガンマ線撮影。片岡研究室では市販のドローンに独自開発の軽量コンプトンカメラとノート PC を搭載し、軽量で比較的安価な汎用ドローンを用いて迅速な調査実施を可能にした(出典:片岡研究室)

この仕組みを開発してから、2カ月に1回くらい実際に福島の浪江町で調査を行っています。まだ試験的なフライトですが、いずれは除染作業に役立つデータを提供できるようにしていきたいですね。(詳細は、2016年9月16日付ニュース「ドローンを用いた上空からのガンマ線撮影に成功 飛散した放射性核種の分布を短時間で画像化」を参照)

研究者としての矜持

私の研究が社会に対してなにをどのように還元できるのか、特に宇宙分野というのは、天文好きの人を喜ばせる以外はなかなかダイレクトに成果が見えるものではないため、一概には断言しにくいところではあります。ですが、深遠な宇宙の謎を解くといった作業は、純粋科学の発展、ひいては国家の威信や品格に関わってくるものだと思っています。また、私たちが行っているさまざまな装置の開発は、10年先、20年先の世界中の人たちにとって新しい知見を与えるものであるという自負があります。研究者として、そこは譲れないところです。

一方で、もう少し短いスパンで世の中に還元していきたいという気持ちの現れが、医療分野や環境分野への応用であると思っています。それらの分野で、私たちが培った技術を、たとえ部分的であれ、どこかのメーカーが実用化して、間接的にでも世の中に広まってくれればうれしいですね。私は、自分たちの技術や開発した装置を実験室の棚の飾りにするのではなく、具現化することを第一に考えたいんです。ですから、決して大学のなかだけで閉じるのではなく、さまざまな大学・企業・団体と盛んに共同研究を行うようにしています。

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写真:情報満載の片岡研究室のWEBサイト。研究者もそうでない人もわかりやすく面白い!(出典:片岡研究室)

刺激を受けて高め合う

外部の研究機関や企業との連携は、今のところメリットしか感じていません。以前所属していた研究室では企業と契約して共同で研究を進めるといったことがなかったものですから、当初は自分の研究の足かせになるのではないかと心配していたのですが、そのようなことは全くなく、今おつきあいしている企業さんも、いいものができたなら世の中に問いましょう、という柔軟な姿勢で取り組んでくれています。

企業に限らず、外部と連携することは、世界の中での自分たちの立ち位置を意識するうえでも役に立つと考えています。そういった意味では国際学会への参加も、自分たちが今どの位置にいるのかを客観的に確認する作業なんですね。例えばコンプトンカメラの開発にしても、当初は私たちがぶっちぎりの実績を出していたように思うのですが、国際学会の発表を見ると、世界のレベルもだんだん上がっていることが実感できます。こちらも、それに負けないよう、さらに良いものをつくらないと、というモチベーションに繋がりますし、オリジナリティの重要性も増します。そのうえでお互いにいいフィードバックをしてレベルを高め合えるのは本当によいことだと思っています。

ともすれば研究者は一人よがりに陥りがちなのですが、それはいけませんね。常に客観的に自分の立ち位置を見ながらアウトプットすることが大切で、自分ひとりでよいものができた、と主張したところで、世間が認められなければ意味がありません。逆に、本当によいものをつくれば、誰が見ても評価してくれますから。成果を急ぐあまり、焦って不確実なものをつくるのも良くないです。研究者ですから嘘の結果は出せないですし、あまり意味がないと思います。反面、ゆっくりやりすぎると、自分が論文で出そうと思っていたデータをすでに他の研究者が解析してしまっていて、論文発表の2〜3日前に出されてしまう、といったことが多々あります。その場合、負けは負けとして認めて、いかに気分を切り替えて次のことを考えられるかが重要だと思います。

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写真:「研究者とは」という真面目な質問に、ニコニコと素敵な笑顔でかえしてくれる片岡先生

宝が転がっている

私が研究に臨むにあたって最も大切にしているのは、研究室の学生にもよく言うのですが、視野を広く持つ、ということですね。例えば、学会に参加しても、自分の関連するセッションしか行かない、なかには普段顔を合わせている先輩の発表を一生懸命聞いているような学生もいます。私は、そういう学生には、そんな時間があるなら隣のセッションで全く関係ない分野の発表を聞きなさい、と伝えるんです。なぜなら、一見無関係なところにこそ宝が転がっているからなんですね。本当に新しい発想というのは、誰も考えていないところから浮かんでくるわけで、全く別の分野に目を向けるというのは研究者にとって非常に大切なことだと思うのです。

それに、ある分野では難しい技術でも、他の分野では当たり前にやっている、といったこともよくある話です。いろいろなところに目を向けておけば、新しいアイデアの種につながりますし、余計な遠回りをしなくてすみますからね。なるべく広く興味を持ち、いざと言うときの引き出しをたくさん持つことが重要だと思います。

早稲田大学の研究者として

いろいろな大学を見てきましたが、早稲田大学の物理学科、応用物理学科は一人ひとりの先生が独立しつつゆるやかに結合していて、研究をするのにはとてもよい環境であると感じています。全体のレベルも高くて、学会の招待講演をされるような先生が大勢いらっしゃいますから、切磋琢磨しながら非常によい雰囲気で研究させてもらっています。

また、早稲田大学の学生は、スペクトルが広いといいますか、まさに光のように、波長が長い人から短い人まで、いろいろな学生がいます。私としては、それを束ねてよい成果を出せるようまとめていくことに楽しさを感じています。それに、つきあいやすい人間が多いですね。国内どころか世界でもトップレベルの研究をしているような学生でも良い意味でプライドが高くなく、謙虚で社交性が高い。それは大きな売りだと思います。また、何をやるにしても身構えずに、とりあえずやってみようよ、という私のやり方に同調してくれる学生も多いと感じています。私としても、学生の皆さんと接するなかでフレッシュなアイディアを得ることができ、自分の経験・ノウハウと組み合わせて新しいテーマに昇華させていくという、理想的な環境で研究ができていると思います。

一方で、私は学生の皆さんには必ずしも研究者という限られた専門職を目指してほしいとは思っていません。たとえば医療機器に関わりたいならば、関連メーカーに就職し、より社会や産業に近いところでの研究開発も違った魅力に溢れ、大きな意味をもちます。ただ、どんな道であっても自分の信条や信念を見つけて、そこで力を発揮してほしい。最初は人の後追いでもいいと思いますが、ある程度まで経験を積んだら、あとは自分のオリジナリティを発揮していかないと世界では勝負できないというのは私自身も感じているところですので、これは彼にしかできない、とか、この技術は彼しか持っていない、といった、人に負けないものをひとつでも身に着けて、自分の道で勝負してほしいな、と思います。

 

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写真:片岡研究室のメンバーの皆さん (2016 7月現在)(出典:片岡研究室)

放射線イメージングの前途を拓く

宇宙分野における早稲田大学の立ち位置は、世界的にみても非常に高いと私は思っています。ご存知のように、この分野では過去に世界ランキングのトップ100に入る実力とポテンシャルはありますから、これからはコンスタントに結果を出せるようにしないといけない。そのためには、私も含めて大学全体で学術的なアウトプットをもっと増やす必要があると思っています。

日本は被ばく国であることが関係しているのか、放射線という言葉が浸透しにくく、放射線治療などの先進医療も、諸外国と比べて普及しにくい土壌があると感じています。ですから、私の研究を、もっと放射線を身近なものとして安全に使ってもらえるような形で世の中に還元していきたいと考えています。そのときに、イメージングという技術はとてもわかりやすく人々に訴えかけられるものだと思いますので、自分がその一端として協力していければ嬉しいですね。自分の開発した装置が、宇宙であれ、医療であれ、環境であれ、広く普及して社会の役に立つこと、それが私の夢です。

 

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プロフィール

kataokasennsei profile片岡淳(かたおかじゅん)

1995年 東京大学理学部物理学科卒、2000 年 同大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)、2001年より東京工業大学・大学院理工学研究科基礎物理学専攻・助手、2007年より東京工業大学・大学院理工学研究科基礎物理学専攻・助教、2009年より早稲田大学・理工学術院総合研究所 先進理工学研究科 (物理学及応用物理学専攻)・准教授、2014年より現在 早稲田大学・理工学術院総合研究所 先進理工学研究科 (物理学及応用物理学専攻)教授。
片岡研究室WEBサイト

主な研究業績

論文

受賞

  • 2001年度 宇宙線物理学奨励賞
  • 2004年度 日本天文学会研究奨励賞
  • 2009年度 米国航空宇宙局NASA・グループ研究賞
  • 2012年度 文部科学大臣表彰 (若手科学賞)
  • 2013年度 日本天文学会・欧文研究報告論文賞 (共著論文)
  • 2014年度 第一回早稲田大学リサーチアワード (国際研究発信力)
  • 2016年度早稲田大学「次代の中核研究者」

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