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「特集 Feature」 Vol.13-2 見えないものを見る! 放射線イメージングの未来(全3回配信)

高エネルギー宇宙物理学研究者
片岡 淳(かたおか じゅん)/理工学術院 先進理工学部 応用物理学科 教授

宇宙で培った技術を医療へ

kataokasennsei2-1この回では、宇宙分野の技術や発見を医療分野に応用した研究について、早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 応用物理学科の片岡淳教授にお聞きしました。

(取材日:2016年12月21日)

宇宙分野から次世代PET開発へ

宇宙分野で培った技術を医療分野に応用するという試みは、もともとは科学技術振興機構(JST)の先端計測・機器開発プロジェクトから始まりました。まず、癌の早期発見に使用される陽電子断層撮影(PET)の装置が非常に大きくて導入コストも高い、といった問題がありました。そこで、私たちが衛星に載せるために開発した、非常に小さな光半導体増幅検出器APD(Avalanche Photodiode)を多数並べてアレイ化し、使ってみてはどうか、という発想から、手のひらに乗るくらい(3cm×3cm×8cm)のPETユニットと呼ばれるユニットをつくったんです。小さな装置ではありますが、解像度は1mm程度。今使われているPETの装置(5mm)よりも格段に上げることができました。その後も、より高感度の光センサーMPPC(Multi-Pixel Photon Counter)を用いて、次世代PET技術を盛り込んだ様々な装置開発を行ってきました。

ただ、PETだと、原理的に対消滅ガンマ線(511keV)以外のガンマ線が使えないという課題がありました。また、PET用の薬剤を生成するためにはサイクロトロンなどの大掛かりな装置が必要になり、コストもかかります。そこで私たちは今、手のひらに乗るサイズの小さなガンマ線カメラ(コンプトンカメラ)を開発して高精度化することで、世界初の、多色の3D 分子イメージングを可能にする装置の開発に取り組んでいます。

 

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図:半導体光センサーMPPCを用いた小動物用PETガントリ。高精細なシンチレータをアレイ化し、MPPCと組み合わせることで小型かつ高解像度の次世代装置が実現できる。マウスを用いた実験では、約1mmの解像度を達成した。さらに、半導体素子が磁場に強い特徴に着目し、MRIと共存できる次世代PET装置の開発なども行った(出典:片岡研究室)

 

三次元カラー動画のガンマ線イメージングを実現

このコンプトンカメラは重さわずか580g。大きさは4.9cm×5.6cm×10.6cmと超小型ですが、40mm先の1MBqのガンマ線源(662キロ電子ボルト)をほぼリアルタイムに可視化でき、約3mmの解像度を実現しました。さらにマルチアングル撮影により、三次元的な画像再構成ができる。すなわち、3Dカラー動画を得られることになります。これを使うと、例えば、甲状腺、背骨、肝臓それぞれに貯まる性質を持つ3つの異なる放射性核種をマウスに投与した場合、3色のガンマ線イメージを三次元的な動画で見ることができるようになります。

 

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写真:片岡研究室で開発したコンプトンカメラ。重さはわずか580gしかなく片岡先生の手のひらに収まるサイズとなっている

 

この手のひらサイズのコンプトンカメラで生体内の3Dカラー放射線イメージングに成功の例として、生体マウス(生後8週間)に3種類の放射性薬剤131I(364キロ電子ボルト: 4MBq), 85Sr(514キロ電子ボルト: 1MBq), 65Zn(1116キロ電子ボルト: 1MBq)を投与し、30°ステップごと12アングルでの測定を試みました。測定時間は1アングルあたり10分です。131I(ヨウ素)は甲状腺に、85Sr(ストロンチウム)は骨に、65Zn(亜鉛)は肝臓に集積している様子が分かります。将来的には、ガンマ線のエネルギーを変えれば5色でも6色でも撮影可能です。(詳細は、2016年11月1日付ニュース「重量1/10「手のひらサイズ」 コンプトンカメラで生体内3Dカラー放射線イメージングに成功」を参照)

 

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写真、図:生体マウスに3種類の放射性薬剤を投与したイメージング映像(出典:片岡研究室)

 

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生体マウスの3Dイメージング映像(出典:片岡研究室)

 

分野を横断して発展する理想的なループ

この技術は、癌の早期発見以外にも、薬剤を変えて観察することで、移植手術後に移植部位が定着しているかどうかの確認や、アルツハイマーの治療などにも応用できると思っています。そして最終的には、この究極的に小型化されたカメラを30キログラム程度の小型衛星に乗せて、宇宙のガンマ線観測という本来の目的のために使うというのが私の夢です。宇宙分野で培った技術を他の分野で洗練して、その成果を宇宙分野に戻すという理想的なループで、技術を徐々に改良していければと思います。

また、最近はこの分野での研究をさらに発展させて、中性子のイメージングに取り組んでいます。例えば、癌の放射線治療においては、腫瘍の位置に粒子線を当てて癌細胞にダメージを与えるという方法が採用されていますが、相当量の粒子線を当てる必要があります。その際に大量の中性子が発生してしまい、意図せぬ2次被ばくが発生してしまっている。しかしながら、その定量的な観察はまだなされていない現状があるんです。もしも中性子をイメージングすることができれば、被ばく量を可視化し、かつモニターすることができる。そういった発想で研究を進めているところです。X線・ガンマ線に留まらず、今まで誰も見たことのないような対象をイメージングしていきたいですね。

 

高精度、低被ばくの多色CTシステム開発

医療分野における他の取り組みとしては、低被ばく多色X線CTおよび陽子線CTシステムの開発が挙げられます。ご存知のように、従来のレントゲン撮影やX線CTは、二次元の静止画が基本で、エネルギー情報を持たないモノクロ画像です。一方、可視光のカメラを思い起こしてみると、いまどき白黒しか撮影できないものなどありませんし、普通のデジカメでも動画を撮影できますよね。もしそれと同じことをX線CTでも実現できれば、得られる情報量は飛躍的に上がるというのは明確です。いま撮っているものがなんなのか、というリアルタイムでの物質の同定や、白黒画像で発生するアーチファクトの補正が可能になるわけです。

また、X線CTは被ばく量の問題がついて回ります。通常、一度のCT撮影で約10mSv程度の線量を浴びてしまいます。これは成人男性が1年間普通に生活していて浴びる放射線量の約5年分に相当しますから、短期間に何度も撮影できるものではありません。ですから、もしもその線量を下げることができれば、もっと気楽にCT撮影ができるし、必然的に病変部位も見つかりやすくなります。

そこで私たちは、X線CTの色付けと線量を下げるというふたつの視点から開発を進めており、現在、独自に開発した高精細シンチレータと、宇宙分野で開発してきた半導体光増幅素子MPPCを組み合わせることで、従来の1/100程度の被曝量で多色撮影が可能なCTシステムを開発しています。さらに、CT画像そのものを陽子線で取得する陽子線CTの基礎開発も始めているところです。

 

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図:MPPC光センサーを用いた低被ばく多色X線CTの試み。MPPCは内部増幅率が100万倍と高く、通常では不可能なX線パルスごとの「色づけ」ができる。その結果、従来の1/100程度の低線量でもノイズに埋もれずCT撮影ができるほか、エネルギーをわけた画像化も可能となる(出典:片岡研究室)

 

大学の強みを生かして研究を重ねる

医療分野においては、一般的に宇宙分野と比べて研究から実用のスパンが短いのが特徴です。例えば、次世代PETの開発については、世界中で同じ発想による開発が進められ、既に実用化されているものもあります。とくに、磁場に強い半導体素子の特徴を活かし、核磁気共鳴画像法(MRI)と一体化したMRI-PET装置もつくられ、10年前の次世代装置が、今は現実となりつつあります。多色X線CTの実用化にはまだ時間がかかると思いますが、逆に言えば先の長い研究こそが我々の役割ですので、ある種、早急に成果を出す必要のない大学にいる強みを生かして研究を進めていきたいと思います。

次回は、宇宙で培った技術を環境分野に応用した研究についてお話しいただきます。

 

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プロフィール

kataokasennsei profile片岡淳(かたおかじゅん)

1995年 東京大学理学部物理学科卒、2000 年 同大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)、2001年より東京工業大学・大学院理工学研究科基礎物理学専攻・助手、2007年より東京工業大学・大学院理工学研究科基礎物理学専攻・助教、2009年より早稲田大学・理工学術院総合研究所 先進理工学研究科 (物理学及応用物理学専攻)・准教授、2014年より現在 早稲田大学・理工学術院総合研究所 先進理工学研究科 (物理学及応用物理学専攻)教授。
片岡研究室WEBサイト

主な研究業績

論文

受賞

  • 2001年度 宇宙線物理学奨励賞
  • 2004年度 日本天文学会研究奨励賞
  • 2009年度 米国航空宇宙局NASA・グループ研究賞
  • 2012年度 文部科学大臣表彰 (若手科学賞)
  • 2013年度 日本天文学会・欧文研究報告論文賞 (共著論文)
  • 2014年度 第一回早稲田大学リサーチアワード (国際研究発信力)
  • 2016年度早稲田大学「次代の中核研究者」

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