第23回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 受賞者挨拶 ― 青山 浩平 氏

【公共奉仕部門 大賞】
「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」

NHK Eテレ

青山 浩平 氏の挨拶

NHK ETV特集でディレクターをしております青山と申します。この度は母校である早稲田大学でこのような栄誉を頂き、非常に光栄に思っています。

今回、賞を頂いたのは2月に放送された「ルポ死亡退院」ですが、私たちはこの番組に至るまでさまざまな放送を出してきました。

精神科の取材を始めたのは今から8年前、福島での取材がきっかけでした。福島第一原発の近くにあった5つの精神科病院、そこに入院していた千人近い患者が原発事故で全国に散り散りになっていました。取材したのはその患者のなかで福島に戻りたいと希望している人を県立病院に転院させて地域に退院させるというプロジェクトでした。患者の多くは25年以上の入院、中には入院し続けて54年という患者もいました。殆どの患者が寛解状態で、医師は「9割近くの患者が入院治療の必要が無い」と診断していました。

実は日本は精神科病院大国です。世界の精神科病床が日本に集中し、入院期間も突出して長くなっています。国連やWHOから深刻な人権侵害と勧告を受けてきているのですが、その内実についてはあまり知られることはありませんでした。なぜ患者たちは人生の大半を精神科で過ごさなければならないのか?それは原発事故によってみえてきたひずみでした。

その後、われわれはコロナ禍における精神科病院という取材を行いました。精神疾患のあるコロナの陽性患者を東京中から受け入れている都立松沢病院のコロナ専用病棟。そこを1年に渡って取材をしました。精神科にしか居場所がない患者、受け入れを拒む家族、逼迫する医療体制のなかで葛藤する医療者、行き届かない行政指導、複数の病院で行われていた患者たちへの人権侵害、そうしたもので積み重なっていく患者たちの死、というものが見えてきました。

当時取材していた松沢病院の院長の言葉です。「この病院にコロナウイルスの感染のために送られてきた人たちは社会的にパワーの無い人たちばかり。世の中に何かが起きたときにひずみは必ず脆弱な人のところにいく。社会には弱い人たちがいて、僕たちの社会はそれに対するセイフティー・ネットをどんどん細らせているのだと、もう一度思い出すべきだと僕は思う」

原発事故やコロナ禍で見えてきたひずみやしわ寄せ。その末にたどり着いたのが今回の滝山病院の内実です。入手したのは虐待の映像や音声、内部資料を元に1年に渡る取材を行いました。取材は困難を極めました。一緒に取材していた持丸ディレクターと共に、患者・家族・医療関係者のもとを徹底的に回ってカルテ等の証拠や証言を集めました。目指したのは悪質な病院の告発にとどまらず、社会の構造を浮かび上がらせることです。社会はなぜこの病院を必要として、なぜ見て見ぬふりをするのか?内部告発者たちの勇気や相原啓介弁護士の奮闘で番組は大きな反響を呼びましたが、取り巻く環境はいまだに改善しているとは言いがたい状況です。

精神科の実情に少しでも多くの関心が寄せられ、状況が改善されるよう引き続き取材を続けて参ります。本日は本当にありがとうございました。

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