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【図書館ボランティアスタッフLIVS 地下書庫探検隊!】第13回 我、キヨウカシヨ ヲ 発見セリ。

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みなさん、こんにちは。LIVSの市村です。4月も残りわずかとなりましたが、いかがお過ごしですか。春から環境が変わったという方々も、少しずつ新たな環境に慣れてきた頃でしょうか。日本の学生にとって、春は新学期が始まる季節。学年が上がる人も多いかと思います。私は小学生や中学生だった頃、新学期に配られる大量の教科書に、一冊一冊油性ペンで名前を書くたび、新鮮な気分になりました。新しく習う内容にもワクワクして、この一年は何を学ぶのだろうと楽しみにしていたものです。このように昔を振り返っていてふと気になったのが、昔の教科書事情。近頃は教育課程の変化で、教科書も大きく変わりました。それでは、数十年前の教科書は、どのような内容だったのでしょうか。今とは違う学習形態だったのかもしれませんし、もしかしたら、今と変わらない部分もあるかもしれません。また、教科書から、当時の情勢や子どもたちの生活など、人々の暮らしぶりや社会情勢なども見えてくるかもしれません。ではさっそくWINEで検索してみましょう。

 中央図書館所蔵の教科書を探してみる

早稲田大学図書館での教科書の探し方については、図書館が公開している「リサーチNAVI」に教科書・教師用指導書を探すというガイドがあります。教科書は教育学部学生読書室などにも所蔵されていますので、教科書全般を幅広く探す際には、ぜひこちらを参考にしてみてください。今回は中央図書館の地下書庫に、どれくらい昔の教科書があるかを調べてみたいと思います。そういう時に便利な方法はこちら。

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まずWINEの件名で「教科書」と入力すると5000件以上の資料がヒットします。ここから絞り込んでいきましょう。

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地下書庫探検のために、中央図書館に所蔵館を限定し、出版年で資料を探しやすいように画面上部の「限定」ボタンから、「検索結果を出版年でソート」します。

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たくさんあるある、昔の教科書。

こうすると中央図書館に所蔵されている教科書を年代順に見ていくことができます。検索結果を見ていくと、古くは1800年代末から、1940年代までの戦前・戦中、それから戦後と幅広い年代の教科書が中央図書館にも所蔵されているようです。これらの教科書はどのようなものなのでしょうか。

検索結果から気になる教科書をチェックしてみる

検索結果をスクロールしているうちに、目にとまったのがこれらの教科書。

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カズノホン. 1』や『ヨミカタ. 1』など、漢字の本たちの中にカタカナが混じっていて印象的です。

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どうやらこれら2冊の教科書は、地下書庫1階のト04の棚に配架されているようです。実際に書架へと向かい、地下書庫探検を始めていきましょう。

地下書庫で実際の教科書を見てみる

例のごとく電動書架を動かしてみると、そこには文部省著作の教科書が教科に関わらずまとまっているようで、数十冊の教科書がありました。しかしながら、ずらりと棚一面、というわけではないようです。どうやら、教科や、学校区分によって様々な場所に教科書が配架されているようです。「教科書」というだけで一カ所にまとまっているわけではないようなので、地下書庫で教科書を探す際には注意が必要ですね。

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教科書がいっぱい。
それでは、実際に教科書を見ていきましょう。まず、先ほどWINEで確認した『カズノホン. 1』。カタカナで書かれたタイトルが時代を感じさせる教科書です。内容を見てみると、どうやらものの数え方や数の概念を学ぶ教科のよう。文章はほとんどなく、複数のおはじきや鳥、鯉、うさぎなどの絵がメインに掲載されています。時計の絵も描かれていることから、時計の見方もこの授業で学んだのでしょうか。文章がないため、教師がこの教科書を使いながらどんな授業をしたのか、想像が膨らみます。

かわいらしい絵が多いこの教科書ですが、中には多くの戦車が描かれたページもありました。1941年の教科書ということもあってか、そういった軍事的な事柄も、子どもたちにとってはもはや日常の一部だったのでしょう。当時の情勢がうかがえる絵です。

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 『カズノホン. 1』の表紙

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悠々と泳ぐ鯉たちを、子どもたちは数えたのでしょうか。

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手に銃や剣を模したようなものをもって遊ぶ子どもたち。

ヨミカタ. 1』という教科書も、同じ棚に配架されていました。こちらも1941年の教科書です。この教科書では、カタカナを習うようです。ページの中央には習うカタカナを組み合わせて出来た文章と、それにまつわる絵が描かれています。2番目の単元以降は、習った文字と新たな文字を組み合わせて文章を学ぶようです。最初に学ぶ言葉は「アカイ アカイ アサヒ アサヒ」でした。その後「ハト コイ コイ」「コマイヌサン ア コマイヌサン ウン」と続きます。この後に出てくるのは、「ヒノマルノハタ バンザイ バンザイ」「ヘイタイサン ススメ ススメ」。小さな頃からこのような言葉も教材の一部になっていたようです。『カズノホン. 1』に続き、こちらも戦争の影響でしょうか。軍事色がところどころに見られます。また、正座をし、手をついて頭を下げ「ただいま」の挨拶をする子どものイラストも見られました。今ではあまり見られない光景かと思いますが、もしかしたらこれが、この当時の子どもたちの習慣だったのかもしれませんし、模範的態度だとされていたのかもしれません。このような挿絵にも、この当時の生活習慣が垣間見られますね。

また、私が小学生の頃はひらがなから学んだ記憶がありますが、この頃はカタカナから学んだようです。このような差異にも、時代の違いを感じます。

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かわいらしいスズメのイラスト。

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朝日に向かって手を挙げる子どもたち。

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ラストを飾る「桃太郎」。

関連して同じト04の棚で見つけた『コトバ ノ オケイコ. 1』という教科書は、『ヨミカタ. 1』の学習ドリルのようになっていました。点線で書かれたカタカナをなぞるという構成は、今の教育にも通ずるところがあるように思います。もう70年以上も経ち、教育も大きく変化したのかと思っていましたが、案外変わらない部分もあるようです。

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こちらも鳥のようなイラスト。

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お手本と点線と挿絵。

一気に3冊の教科書をご紹介しましたが、いかがでしょうか。ちらりちらりと見えてくる、当時の情勢。やはり一番目を引くのは、軍事的な内容が教科書に含まれていることでしょうか。ヘイタイサン、といった言葉が教科書の例文として出てくるのは、調べていて非常に印象的でした。これらの教科書の発行年は1941年。ちょうど太平洋戦争が始まる年です。このことを考えると、こうした教育内容は国の方針だったのかもしれませんし、もしかしたら既に、教科書の教材として軍事的な内容が取り上げられても違和感がないほど、当時の人々にとって、そして子どもたちにとって、軍隊や戦争が当たり前のものだったのかもしれません。

教科書という、子どもたちにとって非常に馴染み深い本の1ページに、戦争が紛れています。これはもはや、日常の1ページに戦争が紛れている、とすら言えるかもしれません。今の教科書はどうなっているのか、私たちの時代がどう反映されているのか、確かめたくなるような教科書たちでした。

 

教科書を見るだけでも、当時の子どもたちの暮らしぶりや、社会情勢が想像できます。そして、実際の教科書を手に取れるのが地下書庫の魅力。まるで70年前の子どもたちになったかのようです。

さらに古い時代の教科書を探してみる

1941年の教科書ばかりを取り上げましたが、より古い時代の教科書も見てみたいと思います。さっそく検索してみましょう。取り上げた3つの教科書はすべて「日本書籍」によって出版されたものでした。では同じ「日本書籍」が出版した、さらに古い教科書はどのような内容だったのでしょうか。先ほどのWINEの検索結果(件名:教科書・所蔵館:中央図書館)をさらに「出版者:日本書籍」に限定して検索。検索結果を出版年でソートすることも忘れずに。

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1918年の教科書がヒット。

一番古い「日本書籍」の教科書は、こちらの『尋常小学国語読本. 巻1』でした。配架されているのは、文庫24という書架のようです。さっそく足を運んでみましょう。

ちなみに、文庫24というのは千厓文庫と命名されているようです。元早稲田大学教授であり、元図書館副館長の加藤諄氏の収集資料が配架されています。

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千厓文庫に眠る教科書たち。

千厓文庫で見つけた『尋常小学国語読本. 巻1』は、1918(大正7)年1月に文部省から発行された教科書で、著作も文部省のようです。約100年前の教科書も書架に配架され、借りることも出来るのが地下書庫の魅力ですね。

内容は、主にカタカナを学ぶ構成になっていました。絵とその単元で習うカタカナが掲載され、既に習った文字と新たな文字を組み合わせて文章を学ぶようです。1ページ目は「ハナ」と書かれ、花の絵が描かれています。2ページ目は「ハト マメ マス」。その後、「ミノ カサ カラカサ」「カラス ガ ヰマス。スズメ ガ ヰマス。」と続きます。最後の方は物語が掲載され、最後のお話は1941年の教科書と同じく「桃太郎」でした。「桃太郎」といえば昔話の定番ですが、約100年前の教科書に載っているというのには驚きました。100年経っても変わらず親しまれているお話があるというのを実感すると、100年前の子どもたちにもどこか親しみを感じられます。

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表紙にイラストはありません。

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1941年とは違い、まだ白黒だった内容。

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ラストはやっぱり「桃太郎」。

教科書の構成を改めて見てみると、先ほどご紹介した『ヨミカタ. 1』と似ていますね。例文とともにカタカナを学ぶこの方法が、一般的だったのかもしれません。しかし、内容には大きな違いがあります。この『尋常小学国語読本. 巻1』には、「ヘイタイサン」や「ヒノマルノハタ」といった言葉が出てきません。1918年は、まだこういった軍事的な内容や国家主義的な内容は子どもたちから遠いものだったのかも知れません。

1918年から1941年のたった23年間でも、内容が変化していたのですね。社会、ひいては世界が日々変化していくのと同時に、教科書も変化を続けているようです。子どもたちの基礎を作る教科書が、いったいどんな内容なのか確認しておくことも重要なのだと感じさせられます。

地下書庫で見つけた教科書たちですが、興味深い内容であったとともに、当時の社会を考えさせられるものでもありました。ふとしたところに表れる時代の様相を、見逃さないようにしたいですね。

終わりに

さて、昨年12月から連載を開始したこの「地下書庫探検隊!-発掘!早稲田のBBN第二弾-」、いかがでしたでしょうか。この企画は、今回で最終回となります。これまで掲載されたどの記事も、LIVSのメンバーが地下書庫(時々、バックナンバー書庫)の魅力を伝えようと書いた記事ですので、バックナンバーにも目を通していただければ幸いです。そして何より、地下書庫に興味を抱いた方がいらっしゃいましたら、是非実際に地下書庫へと足を運んでみてください。きっとなかなか出会えない貴重な本たちが、皆さんを中央図書館地下で待っていますよ。

私たちLIVSは図書館の魅力を伝えるため、様々な活動を行っています。今後の取り組みにも是非ご注目ください!

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地下書庫探検隊!バックナンバー

* この記事の図書館書庫内の画像、資料の写真、データベースの画像は、早稲田大学図書館・各データベース提供元の許可を得て撮影・掲載したものです。図書館内あるいは 図書館資料・データベースを許可なく撮影すること、インターネット掲載は厳禁です。またこれらの画像の無断転用を禁止します。

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