教員からのメッセージ
中本 香織 准教授
法学学術院准教授。学部生の頃には、民事訴訟法のゼミに所属し、ロースクール在学中では、民事訴訟法の勉強が最も興味深く面白いと感じる。その後、司法試験に合格したものの、博士課程に進学し研究者の道を選ぶ。
高校で法律のお話をすると、条文を暗記するのが法学部と思っている高校生は多いです。しかし、実際は違います。法律を学ぶ過程で、社会で求められる様々な能力やスキルが底上げされます。
例えば、条文を解釈するにしても、判例を読み解くにしても、なぜその条文の意味を明らかにする必要があるのか、その判例の事案では何が争点となったのかを分析し、問題や課題を明らかにしないと議論は進みません。ここで鍛えられるのが問題発見力です。また、私の専門とする民事訴訟法ひとつ取ってみても、対立する当事者の利益や負担、訴訟手続にかかる時間や費用、裁判所の労力など、色々な立場や視点で問題に対する解決策を考えます。その結果、おのずから行間を読む力やバランス感覚が養われます。ゼミでは判例をベースにプレゼンテーションを行った後、学生同士で意見を交わすこともあれば、私が学生との議論に加わることもあります。ゼミでの議論の時間は、感情論に左右されない論理的な思考はもちろん、自分の考えを言語化し、相手にわかりやすく伝える力を飛躍的に向上させます。学生のプレゼンテーションや議論を聞いていると、1つの判例で、こうも見ている世界が違うのかと、驚きと発見の連続ですし、学生の考えから私も学ぶことが多いです。
私は研究者を志してから、マンションの管理組合や地域の消防団などの「権利能力なき社団」に紛争が生じた場合、その権利能力なき社団は、その紛争に関する民事訴訟の当事者となることができるかどうか、という「権利能力なき社団の当事者適格」をテーマに研究してきました。民法や会社法など他の法律も関わる難しい問題ですが、理論と訴訟実務のバランスを探りながら解決基準を考える過程はまさに知的冒険です。先人の議論の積み重ねに、ほんのわずかでも自分の考えを乗せることができたときの達成感は格別です。
法律は知っているか、知らないかでものの見方や考え方が変わるんだなということを、法律が身近にあるからこそつくづく実感します。法律的な視点を培うなかで、複雑な社会を生き抜く勘所や感覚が導かれるはずです。
(2025年6月時点の情報です)