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有機結晶の光による変形機構を解明

サリチリデンアミン結晶の光による変形機構を解明

光によって操作できるセンシングやスイッチング、メモリ、アクチュエータの開発に一歩前進

発表のポイント

光によって相転移を発現するサリチリデンアミン結晶の複雑な変形機構が解明できていなかった。
動的多層モデルによる変形シミュレーションを行うことで、光応答現象(ねじれ変形と超弾性変形の両方)がこの有機結晶で生じる仕組みの解析を実現した。
光応答性材料技術の進展により、新しい駆動原理のアクチュエータ開発につながる可能性がある。

光や熱といった外部刺激によって変形する有機結晶はアクチュエータ材料として期待されています。早稲田大学(東京都新宿区、総長:田中愛治)の谷口卓也(たにぐちたくや)准教授を中心とし、茨城大学(茨城県水戸市、学長:太田寛行)の倉持昌弘(くらもちまさひろ)助教、および芝浦工業大学(東京都港区、学長:山田純)の重宗宏毅(しげむねひろき)准教授らの研究グループは、このたび光によって光異性化と相転移という2つの現象を発現するサリチリデンアミン結晶のねじれ変形を観察およびシミュレーションし、その変形機構を明らかにすることで、光で超弾性変形が起きることを初めて見出しました。これは、ひとつの結晶でねじれ変形と超弾性変形が起きるという特異な光応答現象であり、光応答性材料の新しい機能性につながる可能性があります(下図)。

本研究成果は、英国の王立科学会により出版される『Communications Chemistry』のオンライン版に2022年1月10日(月)(グリニッジ標準時)に掲載されました。                                        論文名:Superelasticity of a photo-actuating chiral salicylideneamine crystal

(1) これまでの研究で分かっていたこと

有機結晶は有機分子からなる結晶材料であり、硬い金属材料と柔らかい高分子材料の中間にあたる力学特性を持っています。「結晶」というと硬いイメージをもちますが、有機結晶は柔軟に変形できることが近年分かってきており、その柔軟性を生かした変形や物性に関する報告が年々増えています。例えば、有機結晶に力を加えると超弾性変形※1という特殊な変形が誘起される場合があり、有機結晶における新しい力学応答として注目を集めています。また、光や熱などの外部刺激を用いることで構造が変化し変形や力を発生させる有機結晶は、新しい駆動原理のアクチュエータ※2としての応用が期待されています。

これまでの当研究グループの研究によって、光反応性のサリチリデンアミン結晶※3は、光によって光異性化反応※4だけでなく相転移を発現することが分かっていました(https://www.waseda.jp/top/news/63659)。光によって起こる特異な相転移現象を「光トリガー相転移」※5と名付けており、光トリガー相転移によってサリチリデンアミン結晶がねじれを伴った複雑な変形挙動を示すことは分かっていました。しかし、変形挙動が複雑であるため定量的な変形の評価や変形機構の詳細理解には至っていませんでした。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究ではサリチリデンアミン結晶のねじれ変形を解析し、変形機構を詳細に解明することを目指しました。顕微鏡で結晶の先端方向から変形挙動を観察することで、変形を「ねじれ角」と「変位」に分解して評価しました(図1a)。ねじれ変形の発生機構を理解するために変形シミュレーションを行い(図1b)、光照射後1秒以内に起こる素早いねじれ変形をシミュレーションで再現することができました(図1c)。また、変形自体は光照射下で5~10秒で定常状態となり、光照射を止めると約2分で元の形状に戻るという繰り返し性があります。用いた光は波長365nmの紫外光であり、この波長の光でサリチリデンアミン結晶の光異性化反応が起きることが分かっています。

変形シミュレーションおよび顕微鏡での相界面の観察により、光トリガー相転移によってサリチリデンアミン結晶で超弾性変形が起きることが明らかになりました(図2)。また、結晶中では光異性化反応によって発生する応力と、相界面によって発生する応力があります。このうち、相界面による応力が結晶構造の動的挙動に大きく影響していることがX線回折を利用した解析により、明らかになりました。

以上の知見をまとめると、力を加えることで超弾性変形が誘起されることはこれまで知られていましたが、サリチリデンアミン結晶では光によって超弾性変形が発生することが分かりました。これは、ひとつの結晶でねじれ変形と超弾性変形が起きるという特異な光応答現象と言うことができます。

(3) そのために新しく開発した手法

変形シミュレーションを行うためには、サリチリデンアミン結晶の光異性化と相転移を反映した変形モデルを構築する必要があります。そこで、光異性化の層と相転移の層の厚みが光照射時間によって変化する動的多層モデルを構築しました(図3)。このモデルを使って変形シミュレーションを行うことで、複雑なねじれ変形を再現することができました。各層の厚みを変えてシミュレーションを行うことで、結晶中での光異性化と相転移の進み方を明らかにすることができました。

また、結晶中の動的挙動を解析するために、回折X線ブリンキング法を用いました。この測定手法は、X線回折画像を短い時間間隔で撮影し、特定の回折リング上の各ピクセルがもつ明暗情報を時系列データとして分析する手法です。この手法はこれまでタンパク質の動的挙動の測定に使われてきましたが、今回初めて光異性化・相転移を示す結晶に適用することで、サリチリデンアミン結晶中の動的挙動を明らかにすることができました。

(4) 研究の波及効果や社会的影響

これまで力によって発生していた超弾性変形が、光によって発生することを初めて確認しました。本研究によって明らかとなった変形機構の解析結果を基にして、光によって超弾性変形を発現する光応答性材料の開発が期待されます。光を用いることの利点は、遠隔操作できることや、局所照射できることなどが挙げられ、このような光応答性結晶材料により、光によって操作できるセンシングやスイッチング、メモリ、アクチュエータの開発につながる可能性があります。

(5) 今後の課題

光で超弾性変形が起こる法則性を見出すために、このような現象を示す他の有機結晶材料を探索していく必要があります。その際には光反応性や相転移の有無が重要となるため、有機結晶に対するマテリアルズ・インフォマティクス※6により候補となりうる結晶を探索することが有用と考えられます。また、有機結晶のアクチュエータ機能を向上させることも必要です。

 (6) 研究者のコメント

本研究は化学だけでなく材料力学や機械分野にまたがる学際的な研究であり、関連学問領域に新しい知見をもたらすものと期待しています。このたびの研究では、早稲田大学・谷口准教授が研究発案および観察実験を行い、芝浦工業大学・重宗准教授が変形シミュレーションをサポートしました。また、結晶の動的挙動解析においては回折X線ブリンキング法の技術を持つ茨城大学・倉持助教が実験と解析を行いました、分野の異なる研究者が協力することで本研究成果を達成することができました。

 (7) 用語解説

※1 超弾性変形

結晶材料に力を加えると相転移が発生することがあり、その相転移による変形現象を指します。合金材料やごく一部の有機結晶で報告されている現象です。

※2 アクチュエータ

何らかのエネルギーを入力すると動きや力を出力する材料や機構のことです。身近なものではエンジンやモーターなどが挙げられます。

※3 サリチリデンアミン結晶

特定の化学構造をもち、エノール体からケト体への光異性化反応が起きる分子からなる結晶のこと。

※4 光異性化反応

光吸収によって分子が別の分子構造に変化する化学反応のこと。

※5 光トリガー相転移

光異性化によって生成した分子が結晶中に歪みを与えることで発現する相転移です。結晶中の数%の分子が光異性化することによって、結晶全体の結晶構造が変化します。

※6 マテリアルズ・インフォマティクス

AIやデータ科学を活用した材料開発のこと。

(8) 論文情報

雑誌名:Communications Chemistry
論文名:Superelasticity of a photo-actuating chiral salicylideneamine crystal
執筆者名(所属機関名):Takuya Taniguchi*a, Kazuki Ishizaki *a, Daisuke Takagi*a, Kazuki Nishimura*b, Hiroki Shigemune*b, Masahiro Kuramochi*c, Yuji Sasaki*d, Hideko Koshima*a, and Toru Asahi*a *a=早稲田大学、b=芝浦工業大学、c=茨城大学、d=東京大学
掲載日時(グリニッジ標準時):2022年1月10日(月)10:00
掲載日時(日本時間):2022年1月10日(月)19:00
掲載URL:https://doi.org/10.1038/s42004-021-00618-8
DOI:10.1038/s42004-021-00618-8

 (9) 研究助成

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援
研究課題名:光トリガー相転移結晶の定量的解析と機能開拓
研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
研究課題名:光トリガー相転移によるメカニカルソフトクリスタルの創製
研究代表者名(所属機関名):谷口卓也(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
研究課題名:線虫C.エレガンスにおける凝集タンパク質および分子夾雑場のX線1分子観察
研究代表者名(所属機関名):倉持昌弘(茨城大学)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
研究課題名:時分割回折X線ブリンキングによるソフトクリスタル動的特性観測
研究代表者名(所属機関名):倉持昌弘(茨城大学)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究
研究課題名:生体内氷晶のX線ナノスケール観測に基づいた不凍タンパク質多細胞系凍結保存法の確立
研究代表者名(所属機関名):倉持昌弘(茨城大学)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
研究課題名:熱と光で自在に動くロボット結晶の開発
研究代表者名(所属機関名):小島秀子(早稲田大学)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究
研究課題名:光駆動分子結晶アクチュエータを用いた新方式カテーテルの作製
研究代表者名(所属機関名):小島秀子(早稲田大学)

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