歩き走るロボット結晶の開発に世界で初めて成功

ソフトロボットへの実用化を期待

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構小島秀子(こしまひでこ)研究院客員教授、理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、谷口卓也(たにぐちたくや)同大学大学院先進理工学研究科4年(一貫制博士課程4年)・日本学術振興会特別研究員(DC2)らの研究グループは、東京工業大学理学院のの植草秀裕(うえくさひでひろ)准教授らと、加熱・冷却すると尺取り虫のように歩いたり、高速で走る、「ロボット結晶」を開発しました。

2016年に熱や光により分子が回転・伸縮する分子マシンの研究に対してノーベル化学賞が授与されました。しかし、これらの分子マシンの大きさは1ミリメートルの百万分の1程度しかありませんので、小さすぎて肉眼では動く様子を見ることができません。このため次のステップは、分子マシンを集積し、目に見えるマクロな大きさで実際に動く材料を開発することです。今回、本研究では、結晶という材料自体がロボットのように歩いたり走ったりして移動することを見出し、またその推進力の発生メカニズムも明らかにすることができました。

少子高齢化に向かうこれからの社会において、人に寄り添うロボットの必要性が高まっています。とくに最近は、有機材料でできた柔らかくて軽いソフトロボットが注目されるようになってきました。今回開発したロボット結晶を使うことで、新方式のソフトロボットが実現することが期待されます。

発表のポイント

  • 世界初の「ロボット結晶」を開発しました。
  • 相転移により屈曲した結晶が移動する推進力は、結晶の非対称な形から発生することを明らかにしました。
  • ロボット結晶を使った新方式のソフトロボットが実現することが期待されます。

本研究成果は、2018年2月7日付の英国Nature Publishing Groupのオープンアクセス科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

結晶(注1)は硬くて割れ易いという既成概念がありましたが、2007年にジアリールエテン結晶が光によって曲がることが初めて報告され(参考文献1)、これまでの結晶のイメージを覆しました。小島秀子研究院客員教授はこの10年間、アゾベンゼンやサリチリデンアニリンなど、光によって曲がる様々な結晶を開発してきました。このようなメカニカル結晶を実用化するに当たっては、屈曲だけでなく多様な動き方をする結晶が必要となります。しかし、メカニカル結晶の開発研究が盛んになった現在においても、屈曲・伸縮といったその場での運動がほとんどで、光照射下で結晶が融解・固化を繰り返しながら這うように進むという報告(参考文献2)以外に、結晶を別の場所に移動させることは実現できていませんでした。

 (2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、結晶が尺取り虫のように屈曲を繰り返しながらゆっくりと歩く、また、屈曲した結晶が転がりながら高速で走るという、異なる2つのモードの移動が実現しました。さらに、結晶が移動する推進力は、結晶外形の非対称性から発生することを明らかにしました。

 (3)そのために新しく開発した手法

結晶が移動するメカニズムを明らかにするために、顕微鏡下で結晶の動きを高速撮影すると同時に、高精度赤外線サーモグラフィーカメラで結晶表面温度の変化も撮影し、結晶の動きと温度変化の関係を詳細に調べました。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

今回開発したこのロボット結晶は、キラルアゾベンゼン結晶です。2016年に本研究グループは、この結晶に光を当てるとねじれ曲がることは報告しています(参考文献3)。その研究の過程で、このキラルアゾベンゼン結晶が145℃で相転移(注2)し、しかも加熱・冷却を繰り返しても結晶が壊れないことがわかりました。細長い板状結晶をホットプレートに置いて加熱していくと、わずかに屈曲する様子が観察されました。結晶は熱伝導によって下から暖まるので、先に下部が相転移して結晶構造が変化し、この結晶では長さが少し縮みます。一方、結晶の上部はまだ相転移温度に達しておらず、結晶の長さは元のままのために屈曲が生じます。左右で厚みが異なる板状結晶を、相転移点前後で加熱と冷却を繰り返すと、結晶は屈曲を繰り返し、尺取り虫のようにゆっくりと歩いてくことを見いだしました (図1)。

さらに、より薄い板状結晶の場合は、加熱あるいは冷却を1回行うだけで、結晶は高速で走りました (図2)。

これは、結晶が曲がった時にバランスを保てずに傾いて倒れ込み、勢い余って加速度がつき何回も転がっていくためです。走る速さは秒速15 mmで、歩く速さ(秒速0.0008 mm)の2万倍にも達します。結晶の形と動きの関係を詳細に考察した結果、「歩く」、「走る」の推進力は、結晶の外形が非対称であることから発生することがわかりました。

(5)研究の波及効果や社会的影響

本研究では、結晶という材料自体が歩いたり走ったりして移動することを見いだしました。移動する結晶は、微小領域での物質輸送などを担うマイクロロボットとして実用化できる可能性があります。また、より広い視点では、自立的に移動できるこの有機結晶は軽くてしなやかで耐久性もありますので、ソフトロボットの材料として有用であると考えられます。現在のロボットは金属部品の組み合わせでできているため、硬くて重いのが欠点です。人とロボットが融和して日常的に触れ合う未来を考えると、柔らかくて軽いソフトロボットの方が身体的にも心理的にも人間に適しています。変形・移動できる結晶を材料に使うことで、そのようなソフトロボットの実現が期待されます。実現すればその波及効果は大きく、少子高齢化に向かうこれからの社会全体に貢献できます。

(6)今後の課題

ソフトロボットへの実用化に当たっては、結晶が移動する方向や速さを精密に制御できるようにする必要があります。また、もう少し低い温度で相転移する新しいロボット結晶を開発することが今後の課題となります。

(7)100字程度の概要

ロボットのように歩いたり走ったりする有機結晶を世界で初めて開発しました。相転移するこの結晶を加熱・冷却すると、ゆっくりと歩いたり、速く走ったりして基板の上を移動することを発見しました。

注1)結晶とは、分子や原子が3次元的に周期的に配列した物質です。身近なものには食塩や砂糖、水晶など様々なものがあり、日常生活の中でも食べたり触れたりする機会が多くあります。

注2)ここでの相転移とは、結晶が異なる結晶構造へと変る現象です。

参考文献
  1. Kobatake S. et al., Nature, 2007. DOI:10.1038/nature05669
  2. Uchida E. et al., Nat. Commun., 2015. DOI: 10.1038/ncomms8310
  3. Taniguchi T. et al., Chem. Eur. J., 2016. DOI: 10.1002/chem.201505149
論文情報
研究内容に関するお問い合わせ先

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 小島秀子
TEL: 03-5286-8307 E-mail: hkoshima@aoni.waseda.jp

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