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光熱効果により高速で動く結晶を開発

光熱効果により高速で動く結晶の開発に成功
~高速で屈曲する機構を世界で初めて解明~

発表のポイント

  • 光熱効果により、高速で動く結晶の開発に成功した。
  •  結晶が高速で屈曲する機構を世界で初めて明らかにした。
  • 光で動くアクチュエータやソフトロボットへの応用が期待される。

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の小島 秀子(こしま ひでこ)招聘研究員と、理工学術院の朝日 透(あさひ とおる)教授、長谷部 翔大(はせべ しょうだい)同大学大学院先進理工学研究科2年(一貫制博士課程2年)、萩原 佑紀(はぎわら ゆうき)同大学大学院先進理工学研究科3年(一貫制博士課程3年)・日本学術振興会特別研究員(DC1)らの研究グループは、光熱効果によって高速で動く新たな結晶の開発と、結晶が高速で屈曲する機構の解明に世界で初めて成功しました。

従来の動く結晶の多くは光異性化※1に基づいていますが、光異性化はごく限られた結晶でしか起きない、厚い結晶は屈曲しない、動きが遅い、などの問題点がありました。今回の光熱効果を用いれば、ほとんどの結晶を高速で動かすことができると期待されます。また屈曲シミュレーションにより動きをデザイン・設計できるようになりました。将来的には、光熱効果で動く多種多様な結晶の開発のみならず、光で動くアクチュエータ※2、ソフトロボット※3への応用が期待されます。

本研究成果は、米国化学会誌『Journal of the American Chemical Society』のオンライン版に2021年6月7日(月)(現地時間)に掲載されました。

論文名:Photothermally Driven High-Speed Crystal Actuation and Its Simulation

(1)これまでの研究で分かっていたこと

エネルギーを動きに変換する媒体として、光や熱を動きに変換する「メカニカル材料」が近年注目されています。メカニカル材料は、光や熱で駆動する軽くて柔らかいアクチュエータや人工筋肉、ソフトロボットへの応用が期待されています。メカニカル材料を構成する結晶については、この10年間で研究開発が盛んになっています。これまで、結晶は硬く割れやすいというイメージがありましたが、2007年にジアリールエテン結晶が光によって曲がることが報告され(参考文献1)、従来の結晶のイメージを覆しました。小島秀子招聘研究員は、光異性化する結晶に注目し、光で屈曲、ねじれなどを示す結晶を開発してきました(参考文献2、3)。また熱相転移※4を利用して、加熱・冷却により尺取虫のように移動する「ロボット結晶」も開発しました(参考文献4)。今後の応用展開に向けては、自由に動く多種多様な結晶が必要になりますが、従来の結晶の多くは光異性化に基づいており、光異性化はごく限られた結晶でしか起きない、厚い結晶は屈曲しない、動きが遅い(1秒以上)、光は紫外光にほぼ限定されるなどの問題点がありました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループは、2020年に光熱効果によって厚い結晶が高速で屈曲することを発見しました(参考文献5)が、屈曲機構については解明できていませんでした。光熱効果は、物質の光励起※5により熱が発生する非常に速い現象で、光を吸収するほとんど全ての物質は固有の光熱効果を示します。このため、光熱効果を用いればあらゆる結晶をあらゆる光で高速で動かせる大きな可能性があります。そこで本研究では、光熱効果によって高速で動く新たな結晶の開発と屈曲機構の解明に挑戦しました。光異性化が比較的速いo-アミノサリチリデンアニリンの厚い結晶に紫外光を当てると、光熱効果により20ミリ秒の高速で屈曲しました。同様に、可視光でも高速で屈曲しました。結晶表面の温度を測定したところ11℃上昇していました。最終的に、紫外パルス光を1ミリ秒ごとに照射することで、500 Hzの高速屈曲を達成しました(図1)。

図1:光熱効果による結晶の高速屈曲

次に光熱効果による高速屈曲の機構解明に取り組みました。この屈曲は、結晶表面付近で発生した光熱エネルギーが熱伝導して、厚さ方向に非定常な温度勾配が生じることで起きると考え(図2左)、この温度勾配を1次元の非定常熱伝導方程式に基づいて計算することで、結晶内の温度分布を求めました(図2中)。この温度分布をもとに、屈曲角をシミュレーションしたところ、実際の屈曲を精度良く再現でき、屈曲機構を解明することができました(図2右)。

図2:光熱効果による屈曲シミュレーション

(3)そのために新しく開発した手法

結晶に光を当てたときに熱がどのくらい発生するかを見積もるため、フェムト秒過渡吸収分光法※6を用いて光を吸収した分子の反応挙動を明らかにしました。また発生した熱が結晶内をどのように伝わるか算出するため、結晶の熱拡散率※7を測定しました。結晶内の温度分布と屈曲角をシミュレーションするプログラムを、Python※8を用いて作成しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究において光熱効果によって高速で屈曲する新たな結晶の開発と、屈曲シミュレーションに世界で初めて成功しました。光熱効果は光を吸収するほとんど全ての結晶で起きるため、あらゆる結晶をあらゆる光で高速で動かせる可能性があります。更に、結晶のサイズや光の照射条件から屈曲挙動をシミュレーションできるようになったため、実際に測定しなくても、動きのデザイン・設計ができるようになりました。

(5)今後の課題

現状光熱効果で屈曲する結晶はまだ2例のみであるため、より多くの結晶を開発する必要があります。また本研究の結晶の屈曲角は小さいため、より大きく屈曲する結晶を開発する必要があります。

(6)研究者のコメント

光異性化で屈曲する結晶の報告から10年以上が経過しましたが、現在も世界中で動く結晶の研究開発が盛んに行われています。今回、結晶を動かす新たな駆動機構として光熱効果を発見したため、これまで対象外だった膨大な種類の結晶をターゲットにすることができるようになりました。本研究の最終目標は、アクチュエータ、ソフトロボットなどへの実用化です。今後は光熱効果で動く多種多様な結晶の開発のみならず、光で動くアクチュエータ、ソフトロボットへの応用にも挑戦したいと考えています。

(7)用語解説

※1 光異性化
ある分子が光を吸収して別の分子に変化すること。

※2 アクチュエータ
光や電気といった入力信号を動きに変換する素子。

※3 ソフトロボット
金属など固い材料を用いず、柔らかい材料のみからなるロボット。

※4 熱相転移
加熱・冷却により材料の構造が変化すること。

※5 光励起
原子や分子が光を吸収しエネルギーの高い状態に変化すること。

※6 フェムト秒過渡吸収分光法
分子が光を吸収した励起状態での挙動を観察する手法。

※7 熱拡散率
物体内における熱の広がりやすさを示す物性値。

※8 Python
プログラミング言語の一種。

参考文献

1. Kobatake S. et al., Nature, 2007. DOI:10.1038/nature05669
2. Koshima H. et al., J. Am. Chem. Soc., 2009. DOI: 10.1021/ja8098596
3. Koshima H. et al., Chem. Commun., 2011. DOI: 10.1039/c1cc14288g
4. Taniguchi T. et al., Nat. Commun., 2018. DOI: 10.1038/s41467-017-02549-2
5. Hagiwara Y. et al., J. Mater. Chem. C., 2020. DOI: 10.1039/d0tc00007h

(8)論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文名:Photothermally Driven High-Speed Crystal Actuation and Its Simulation
執筆者名(所属機関名):Shodai Hasebe (早稲田大学), Yuki Hagiwara (早稲田大学), Jun Komiya (早稲田大学), Meguya Ryu (産総研), Hiroki Fujisawa (東京工業大学), Junko Morikawa (東京工業大学), Tetsuro Katayama (徳島大学), Daiki Yamanaka (徳島大学), Akihiro Furube (徳島大学), Hiroyasu Sato (株式会社リガク), Toru Asahi (早稲田大学), Hideko Koshima (早稲田大学)
掲載日(現地時間):2021年6月7日(月)9時
掲載日(日本時間):2021年6月7日(月)21時
DOI:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.1c03588

(9)研究助成

研究費名:文部科学省 科研費 基盤研究(B)
研究課題名:熱と光で自在に動くロボット結晶の開発
研究代表者名(所属機関名):小島 秀子(早稲田大学)

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