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世界初 結晶の新しい「光トリガー相転移」の発見と機構解明 光応答性結晶材料への応用と実用化に期待

発表のポイント

●温度変化や圧力、光や電磁場などのさまざまな外部刺激によって起きる構造相転移の機構解明や材料探索の研究が、これまで広く進められてきた。
●構造相転移を生じる光反応性結晶に、その相転移温度よりも低い温度で光を照射すると「光トリガー相転移」が生じることを世界で初めて発見、その機構を解明した。
●光照射をすることによって、加熱・冷却をしなくても構造相転移を引き起こすことができる仕組みを活用して、光応答性結晶材料への応用と実用化に寄与することが期待される。

「光トリガー相転移」という結晶の新しい構造相転移現象を世界で初めて発見

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構小島秀子(こしまひでこ)研究院客員教授と、同大学理工学術院の朝日透(あさひとおる)教授、谷口卓也(たにぐちたくや)同大学大学院先進理工学研究科5年(一貫制博士課程5年)・日本学術振興会特別研究員(DC2)、萩原佑紀(はぎわらゆうき)同大学先進理工学部4年らの研究グループと株式会社リガク応用技術センターの佐藤寛泰(さとうひろやす)研究員らは、「光トリガー相転移」という結晶の新しい構造相転移現象を発見しました。

物質が固体状態を維持したまま結晶構造が変化する現象は構造相転移と呼ばれています。構造相転移は温度や圧力、電磁場や光といった外部刺激によって起こります。構造相転移現象が生じるにともなって電気的・磁気的・光学的な特性が大きく変わる材料は、メモリ、スイッチなどに広く用いられています。また、材料探索のみならず機構解明の観点からも研究が進められてきました。

構造相転移現象に注目すると、形状記憶合金が有名ですが、軽い・柔らかいといった点から有機結晶も注目を集めています。本研究グループはこれまで、光を当てると屈曲するメカニカル結晶(参考文献1)や加熱・冷却によって歩き走るロボット結晶(参考文献2)を開発してきました。今回、本研究グループは構造相転移を生じる光反応性結晶に、その相転移温度よりも低い温度で光を照射すると同じ相転移が起きる「光トリガー相転移」を発見しました。さらに、光トリガー相転移は光異性化反応で生成した分子によるひずみによって発現するという機構を明らかにしました。

光トリガー相転移は光照射によって起きるため、加熱・冷却をしなくても相転移を引き起こすことができます。そのため、光によって操作できるセンシングやスイッチング、メモリ、アクチュエータなど、光応答性結晶材料への応用と実用化に寄与することが期待されます。

なお、本研究成果は2019年2月20日(水)付の英国Nature Publishing Groupのオープンアクセス科学雑誌Communications Chemistryで発表されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

物質が固体状態を維持したまま結晶構造が変化する現象は構造相転移と呼ばれています。構造相転移は温度変化や圧力、光や電磁場などのさまざまな外部刺激によって起きることが知られています。例えば、形状記憶合金は、変形させても温度を上げると元の形にもどる性質をもちます。この形状記憶現象は、温度上昇によって合金内で構造相転移が起こることに起因しています。他にも、構造相転移によって電気的・磁気的・光学的なふるまいが大きく変わる材料は広く研究開発されており、スイッチングやメモリなどに利用されています。このような背景から、構造相転移という現象は物理・化学の研究分野において、材料探索および機構解明が広く進められてきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究グループはこれまで、光や熱によって変形するメカニカル結晶の研究をしてきました(参考文献1、2)。光異性化反応(注1)と構造相転移はどちらも結晶を変形させる現象ですが、それらが両方とも起こる結晶を見つけることは容易ではありません。新しい動きを創出するという目標のもと、光異性化反応と構造相転移の両方が起こる結晶を見つけたことが今回の発見に至るきっかけでした。

今回の研究では、構造相転移する光反応性結晶に、その相転移温度よりも低い温度で光を照射すると、同じ相転移が起きる「光トリガー相転移」現象を偶然発見しました。この光トリガー相転移は、光異性化反応で生成した分子により生じるひずみによって発現することがわかりました。

(3)今回の研究で得られた結果及び知見

本研究では、約40℃で構造相転移するキラルサリチリデンアミン結晶(以下、「この結晶」とする)を用いました。この結晶は加熱すると、約40℃で低温側の結晶構造(低温相)から高温側の結晶構造(高温相)に単結晶状態を保ったまま変化します。次に、温度を下げると元の低温相に戻るという可逆的な構造相転移を生じます。また、この結晶には光反応性があります。キラルサリチリデンアミン分子のエノール体は安定しています。しかしこの結晶の分子は、紫外光を照射すると光異性化によってエノール体がトランス−ケト体に変化します。この光異性化にともない、結晶の色も黄色から橙色へ変化します。この結晶の分子のトランス−ケト体はエノール体よりも不安定なため、紫外光を止めると数分で安定なエノール体に戻り、結晶の見た目も元の黄色に戻ります。

図1 光トリガー相転移

この結晶に構造相転移が生じる温度よりも低い温度(マイナス50℃)で紫外光を照射したところ、熱的な構造相転移と同じ現象が起きることがX線結晶構造解析からわかり、本研究グループはこの現象を「光トリガー相転移」と名付けました。光異性化が結晶表面のごく一部の分子でしか起きていないにもかかわらず、この光トリガー相転移においては結晶全体の構造が変化するという点が特徴的です。光トリガー相転移が起こる仕組みは、まず紫外光照射による光異性化によって生成した少数のトランス−ケト体がエノール体にひずみを与えます。次に、そのひずみによってドミノ倒しのように結晶全体の構造が変化します。また、光トリガー相転移によってできた高温相は、トランス−ケト体がエノール体に戻る逆異性化によって元の低温相に戻ります。

図2 光トリガー相転移の発現機構

なお、光によって相転移が起こる現象として「光誘起相転移」は以前からよく知られていますが、その機構は分子の励起状態(注2)が相転移を引き起こす点で、今回の「光トリガー相転移」とは異なります。

(4)研究の波及効果や社会的影響

本研究では、光トリガー相転移という結晶の新しい構造相転移現象を発見しました。光トリガー相転移は光照射によって起きるため、加熱・冷却をしなくても構造相転移を引き起こすことができます。例えば、光を用いることの利点は、遠隔操作できることや、局所照射できることなどが挙げられます。このため、光応答性結晶材料として光トリガー相転移結晶を用いることにより、光によって操作できるセンシングやスイッチング、メモリ、アクチュエータの開発につながる可能性があります。

(5)今後の課題

光異性化によって発生する結晶のひずみおよび力の大きさを測定して定量的に評価する必要があります。また、他の結晶においても光トリガー相転移の有無をマテリアルズ・インフォマティクスの手法も用いて系統的に探索し、光トリガー相転移の起きる条件を明らかにしていく必要があります。

(6)注釈

注1 光異性化反応:ある分子が光吸収によって別の分子構造に変化すること。
注2 励起状態:原子や分子が光を吸収したエネルギーの高い状態。

(7)参考文献

1. Koshima H. et al., J. Am. Chem. Soc., 2009. DOI: 10.1021/ja8098596
2. Taniguchi T. et al., Nat. Commun., 2018. DOI: 10.1038/s41467-017-02549-2

(8)論文情報

雑誌名:Communications Chemistry
論文名:Photo-triggered phase transition of a crystal
執筆者名:Takuya Taniguchi(早稲田大学), Hiroyasu Sato(リガク株式会社), Yuki Hagiwara(早稲田大学), Toru Asahi(早稲田大学), Hideko Koshima(早稲田大学)
DOI:10.1038/s42004-019-0121-8

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