大隈重信のことばと写真でめぐる早稲田大学(第1回)

大隈重信 没後100年企画

大隈重信のことばと写真でめぐる早稲田大学

2022年1月10日、本学創設者の大隈重信没後100年を迎えました。政治家であり教育者でもあった大隈重信のことばと写真から、早稲田大学との関係をたどっていきます。


【第 1 回】 学校を支える「檀家」として( 1881~ 1897年)


大隈重信が本学の前身・東京専門学校の設立に着手したのは、明治十四年の政変によって政治の中枢から退いた直後のことである。その時のことについて、大隈は後年次のように語っている。

三田の慶應義塾は既に幾多の人材を出した。福沢との関係で、大分若手の秀才連が我輩のところへも来たんである。我輩つくづく人材教養の必要を感じた。(中略)どうしても有力なる私学を起さなければならぬということは予(かね)てから考えていたのである。
それが十四年(一八八一)の政変で、我輩の生活に一大変化が起ったので、マァこれが学校の設立を早める動機にもなって、(中略)会計検査院にいて、我輩とともに退いた小野梓を筆頭に、その一派の大学組が専(もっぱ)らこれに当ったんである。

『大隈重信自叙伝』(岩波文庫)359-360頁〉

小野梓らが教育内容等の検討を行う傍ら、大隈は学校建設のための土地取得に動いた。現在の早稲田キャンパスのある土地である。当時は水田と茗荷畑が広がるのどかな土地であった。大隈はこの地を買い取り、学校のために貸すかたちをとった(1908年に寄付)。

東京専門学校全景(1890年頃 )早稲田大学大学史資料センター所蔵

東京専門学校は1882年10月21日に開校したのであるが、大隈が政変によって政府から追放されていたことから、当初「謀反人の学校」などと呼ばれることがあった。このため大隈は表舞台には出ず、陰ながら学校を支えていくことにした。学校の役員にも名を連ねず、公式行事にも出席しなかったが、毎年決まった額の補助を学校に与え、重要事項の審議にも携わっていたとされている。

下の写真は1884年7月に挙行された第1回得業式(大学昇格以前の卒業式の呼び方)の際に、全校生徒・教職員を撮影したものである。この時も大隈は式に出席せず、撮影の際も校舎の入口付近の木の陰に隠れるようにして立っていたのであった(※大隈の立ち位置については、早稲田大学歴史館「久遠の理想」エリアの展示を参照)。

東京専門学校第1回卒業記念全校生徒と教職員(1884年) 早稲田大学大学史資料センター所蔵

大隈は開校から1年半後の1884年3月には本邸を学校のすぐ側に移した。現在の大隈会館大隈庭園がある場所である。ここには政治家や外国からの賓客のほか、早稲田の教員や学生たちがたくさん訪れ、大隈との交流を深めていた。

“A MODEL JAPANESE VILLA(伯爵大隈家写真帖)”(1889年)

大隈が初めて学校の公式行事に出席したのは学校創立から15年の時を経た1897年の第14回得業式のことであった。この式典における演説で、学校創立以来の苦労を次のように語っている。

それを世間はどういう誤解をしたか。私は政治上に関係があるから政治上の目的を以て政治上に使用しようという如き誤解だ。(中略) 決して私はそういう考えはございませぬが、なんでもこの創立以来熱心なる諸君の尽力に依って今日に至ったが、今日ではややこの誤解が解けて来たように見える。(中略)

決してこれは大隈のものではない。しかしながら勿論私もこれまで幾らか学校のために力を尽したに違いない。学校は寺みたいなものだ。私は檀家だ。(中略)これから諸君が社会に出でまた続いて出る御方々がその意を以てこれから働いたならば、沢山の檀家も出来て必ず盛んになるだろうと思う。

『大隈重信演説談話集』(岩波文庫)138-141頁

大隈重信と学生達(大隈邸)(1887年頃)早稲田大学大学史資料センター所蔵

この間、大隈は外務大臣に二度就任し、同年3月からは農商務大臣も兼務するなど政府の中心に復帰していた。また東京専門学校も、開校当初の入学者は80名であったが、この年1,769名の卒業生を輩出するまでに成長しており、「謀反人の学校」というレッテルを貼る者もいなくなった。この後、大隈は早稲田大学初代総長に就任するなど、学校を裏から支えるのではなく表に立って牽引していく存在になっていくのである。

【第 2 回】 総合大学としての礎を築く(1898~1913年)へ

 


文: 早稲田大学大学史資料センター 助手 田中 智子(たなか さとこ)

専門は日本近現代教育史、 特に大学史。 著書(共著)に『青山学院女子短期大学 六十五年史』(2016年)、『帝国大学における研究者の知的基盤 東北帝国大学を中心として』(2020年)がある。


 

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