第15回-2015年度 授賞作品

第15回 (2015年度) 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 授賞作品決定

公共奉仕部門 大賞

受賞者名

琉球新報社 編集局文化部記者兼編集委員 新垣 毅

受賞作品名

沖縄の自己決定権を問う一連のキャンペーン報道~連載「道標求めて」を中心に~

発表媒体名

琉球新報

発表年月日(期間)

2014年5月1日~(後継連載を掲載中)

授賞理由

昨年末の知事選によって、沖縄県政は仲井真知事から翁長知事への転換を遂げた。が、選挙は結果にすぎなかった。「オール沖縄」をスローガンにして、すでに沖縄は自立にむかう一歩を踏み出していた。「自己決定権」。「自決権」。この主張は薩摩藩の琉球侵攻、明治政府の琉球併合、米軍の占領・統治、天皇メッセージ(米国への長期貸与)、そして、辺野古への新基地建設の強行と、日米の植民地的支配にたいする抗議であり、批判であり、歴史的総括である。一年以上にわたる記者の営為は、19世紀半ば、琉球と米、仏、和蘭との修好条約を結んでいた歴史から、琉球国家本来の主権を掘り起こし、「琉球処分」の国際法上の問題点に至るまで調査、報道して、沖縄の「道標」を示している。新聞のありようとその果たす役割を問いかけた連載記事として、選考会で圧倒的に支持された。(鎌田慧)

受賞者コメント

今日21日は、米兵3人による少女乱暴事件に対し、8万5千人(主催者発表)が抗議の声を上げた沖縄県民大会開催からちょうど20年の節目の日である。このような日に、国内屈指の栄誉ある賞をいただいたことに、喜びとともに感謝の気持ちでいっぱいだ。ただ、日米両政府による名護市辺野古の新基地建設の強行が象徴するように、沖縄の民意が無視された状態が続いている。戦後70年間、否、1879年の「琉球処分」(琉球併合)以降の136年間、この報道キャンペーンが問う沖縄の自己決定権はいまだないがしろにされ、多くの沖縄県民の苦悩は深まるばかりだ。沖縄県と日米政府の対立が今後、激しさを増すことが予想される中、この受賞を機に、一層沖縄県民に寄り添うことをあらためて決意するとともに、沖縄の自立や発展に資する報道を展開していきたい。

草の根民主主義部門 大賞

受賞者氏名

堀川 惠子

受賞作品名

『原爆供養塔~忘れられた遺骨の70年~』

発表媒体名

書籍(文藝春秋)

発表年月日(期間)

2015年5月26日

授賞理由

8月6日、今年も広島で平和記念式典が行われた。推定14万人が摂氏100万度の火の玉によって一瞬に、あるいはひどい火傷に苦しみながら亡くなっていったことはよく知られている。だが、戦後70年経った現在でも平和記念公園の片隅に引き取り手のない7万柱の遺骨が眠っていることはあまり知られていない。炎暑の中で遺体処理に従事し手掛りをメモしたのは特攻少年兵たちである。役所から放置されたままの墓を守りながら、わずかな手掛りをもとに遺骨を返して歩く被爆女性を取材したのがきっかけで、自らそれを引き継ぎ遺族探しの旅を始める。地道で粘り強い取材によって、その場に居合わせ無念の死を遂げざるを得なかった人たちの声を丹念に拾い上げていく。平和宣言が読み上げられた約1カ月後に、国会で安全保障関連法案が成立した。改めて、決して忘れてはならない記憶にどう向き合っていくべきかを、我われ一人ひとりに静かに問い掛けている。(新井信)

受賞者コメント

褒めてもらうとか、賞をもらうとか、そんな世界とは無縁の場所で、佐伯敏子さんは死者たちの声なき声に耳を傾け、歩いてこられました。忘れ去られた記憶の尊さ、語り継ぐことの大切さを教わりながらの取材でした。戦後七〇年の間、自らの足で立ち、「知った者の責任」を貫いてきた佐伯敏子さんに代わり、受賞に感謝します。

文化貢献部門 大賞

受賞者氏名

朴 裕河

受賞作品名

『帝国の慰安婦~植民地支配と記憶の闘い~』

発表媒体名

書籍(朝日新聞出版)

発表年月日(期間)

2014年11月7日

授賞理由

「アイディアの市場」に「魅力的なウソ」と「直面しにくい真実」は競争している。その「市場」を常に鋭い眼で監視しなければ「ウソ」が勝つ。『帝国の慰安婦』は日韓両国民の多くが抱く「ウソ」を冷静に分析する。そこから出てくる「真実」の多くは一般的に好まれている白黒がはっきりするようなものではなく、様々の度合いの灰色である。著者の朴裕河はかねてから日韓の対話による歴史和解を、執筆活動をとおして勇気を持って主張してきた。慰安婦問題を生み出したのは日本帝国主義であったことを前提としながら、慰安婦狩りに韓国人中間業者も責任があり、問題解決には日韓両国民が自国の歴史を冷静に見つめる必要があると主張する。日本人の多くが自国の犠牲を中心に戦争を記憶してきたが世界に日本の反戦思想をアピールするのにかつての支配者としての歴史も清算する必要がある。(ホルバート・アンドリュー)
※上記の授賞理由にて、一部事実が不確かであった「『帝国の慰安婦』の韓国版が出版され、著者が慰安婦支持団体に訴訟を起こされたが、本は日本人が抱く「ウソ」にも厳しい。」という記述を削除いたしました。ここにお詫び申し上げます。

受賞者コメント

大学院で学んだ早稲田大学からの、しかも石橋湛山の名を冠する賞を受賞することになってとても嬉しく思います。石橋湛山は、反戦、反軍、植民地放棄、小日本主義を目指したということです。「帝国の慰安婦」は、国家/帝国の欲望に個人がどのように動員され、搾取されるのかを考えてみた本ですから、石橋湛山の思想に図らずも接しているのかもしれません。境界を越えて、石橋のような思想を受け継ぎ共有することが本当に必要と、現在の東アジアが不安定なだけに切に思います。そうした賞をいただいたことは、今後の仕事の上でも大きな励みになります。ありがとうございました。

第15回(2015年度)

公共奉仕部門 奨励賞

受賞者名

NHKスペシャル「水爆実験60年目の真実」取材班 代表 高倉 基也(NHK広島放送局 チーフ・プロデューサー)

受賞作品名

NHKスペシャル「水爆実験60年目の真実~ヒロシマが迫る“埋もれた被ばく”~」

発表媒体名

NHK総合テレビ

発表年月日(期間)

2014年8月6日

授賞理由

1945年の広島・長崎核爆発の後、2011年に日本は福島原発事故を経験した。今回受賞した番組は、この2つの核災害を結びつける重要なカギを示す60年前のビキニ水爆実験の追跡調査である。しかし漁船員たちの被ばくデータは消され、国は第五福竜丸以外の被ばくを認めなかった。日本はアメリカから200万ドルの見舞金を受け取り、この問題を終わらせた。巻き起こった反核運動に対して、アイゼンハワー大統領は国連で「核の平和利用」、「原子力は夢のエネルギー」と原発をPRする。その結果アメリカの秘密文書は「工作によって日本人の反核感情はほとんど取り除かれた」と書く。そして60年後に、日本は福島原発事故を経験した。このビキニ追跡調査は、日本の今をあぶりだす。今福島原発の汚染水は、恐ろしい規模で海を汚し続けている。日本は核の被害者から加害者に転じた。過去の追及の甘さのすべての付けが、今の福島原発事故に繋がっていることを思い知る。(広河隆一)

受賞者コメント

原因不明の病で仲間が次々と倒れていくのに、被ばくを証明する術がない。そうした漁船員の無念を、長年、見えない放射線の影響に苦しむ被爆者と向き合ってきた広島の研究者が知ったことから、この番組は立ち上がりました。「葬り去られる事実があってはならない」と、執念の調査を続けた彼らの姿を、一人でも多くの人たちに知っていただければ何よりの喜びです。

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