2017年10月、早稲田大学は「MyPortfolio」を導入しました。MyPortfolioは、学生生活における学びや気づきを日常的に「記録・蓄積」し、それらの「振り返り」を行って、学生生活の成果を学内外に「公開」することを支援するシステムです。今回は、MyPortfolioの可能性について、橋本周司早稲田大学副総長にお話を聞きました。
早稲田大学では、創立150周年を迎える2032年に向けた中長期ビジョン「Waseda Vision 150」を定めています。これまでの教育や研究、経営のあり方を根本的に見直し、変革していこうというものです。
その中に、ICT(情報通信技術)を活用して「教育の早稲田」を可視化しようという取り組みがあります。オフライン、オンキャンパスの対面ならではの良さがある“教育”ですが、ICTを取り入れることで可能性はさらに広がると考えています。魅力的な本学の教育活動と研究を発信できれば、世界中から共に学び、研究したいという人が集まるでしょう。開かれた大学として透明性を高め、積極的に理解や評価を求めていくことは、本学の教職員や学生が切磋琢磨する機会の増大とモチベーションの向上につながると考えています。
また、大学に人材を求める企業等との関係もICTの活用で変化するでしょう。現在の就職活動では、応募してきた学生の中から人材を選ぶことが主ですが、学生の学修をICTによって「見える化」できれば、企業の側から求める資質を持った学生へのアプローチが可能になるでしょう。
こうした「見える化」の1つの具体策が、MyPortfolioです。履修科目や教育プログラム等のデータは自動登録され、電子的に提出したレポートなどの学修成果や、ボランティアやアルバイトなどを自分で書き足すことができます。きちんと情報を記録することで、学生は自身の振り返りに有効に使えます。公開設定をすれば、学修活動を自分にばかりでなく、大学内外に対して「見える化」することが可能になります。
社会貢献のモチベーションが早大生の学生生活を豊かに
学修活動が「見える化」できると、どんなことが起きてくるでしょうか。例えば、シンクタンクでは大学院生のアルバイトを雇って調査研究を行うことがあります。この事実は一部の学生の調査研究のレベルが、社会でも通用することを示しています。そうした学生が在学中に書いている論文やレポートは、学生のうちであっても世の中に貢献できる可能性を秘めているのではないでしょうか。MyPortfolioによって論文やレポートを社会に「見える化」できれば、研究成果を大学内に埋もれさせることなく、世の中に役立たせることにつながるでしょう。
また、気仙沼でボランティアをしたという活動記録が目に留まれば、気仙沼の企業がインターンや採用のために声をかけるといった特定の地域で企業と学生が出会うきっかけを生み出し、地方創生に貢献できるものとなるかもしれません。
海外の学会では、参加する学生が企業の採用担当者にアピールする紙を貼り出す「ペーパーツリー」が設けられていることがあります。MyPortfolioは、企業の採用担当者が見てスカウトする、ICT版のペーパーツリーになってくるかもしれません。
早稲田の5万人の学生一人ひとりが主人公です。その価値を各自が確認すると同時に、成長ぶりを外からも見てもらいたいのです。学生は大学で受動的に学ぶだけでなく、社会に貢献するモチベーションと責任感を持って学生生活に取り組んでほしいと思っています。
学生生活、さらには卒業後の人生を豊かにするインフラとして、早稲田大学ではICTの活用を今後も推進していきますし、MyPortfolioを上手に活用してほしいと考えています。
プロフィール 橋本周司
早稲田大学副総長を務める。担当業務は学事統括。理工学術院教授。大学総合研究センター所長。1991年理工学部助教授、93年教授。理工学術院長、理工学部長、理工学研究科長など歴任。