「特集 Feature」 Vol.16-1 人の機能を拡張せよ!人間支援ロボットテクノロジー(全4回配信)

医療福祉ロボティクス・メカトロニクス研究者
岩田 浩康(いわた ひろやす)/理工学術院教授
グローバルロボットアカデミア研究所所長

薄く柔らかい!「皮膚貼付型エレクトロニクス」

iwata11「ロボットを使うことで人間が怠惰になってはいけない」という岩田浩康教授。「人の技能と心身機能を拡張する人間支援ロボットテクノロジー(RT)」をコンセプトに多彩な研究活動に取り組んでいます。岩田教授が取り組む先進的技術の中から代表的なものを4回シリーズで紹介します。第1回は「皮膚貼付型エレクトロニクス」です。

体の状態をリアルタイムに計測する

「スマート」が、最近の流行りのキーワードになっています。スマートフォンに始まり、スマートウォッチやメガネ型のスマートグラス、さらにスマートウェアなども登場してきました。IT関係で「スマート」という用語を使う場合、「情報化されている」とか「情報処理機能が備わっている」などの意味が込められます。そのような中で、体温や脈拍などの生体状態を常時捕捉するツールとして注目されているのがスマートウェアなどの肌に身につけるウェアラブルデバイスです。その用途は大きく2種類に分けられます。一つは高齢者などの身体状態を常時チェックすること、もう一つはアスリートなどの運動中の身体状況をリアルタイムにモニタリングしてパフォーマンス管理に活用すること。そのためには体に何らかの形でセンサを装着する必要があります。

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図:皮膚上にナノシート基板を貼付することで身体状態を捕捉可能なデバイス(出典:岩田研究室)

装着感のないデバイスを肌に

スマートウェアではシャツなどの下着にセンサを仕込みます。このやり方だと、センサ部分が肌に当たるために、どうしても異物感が拭えません。電源やデータ送信用のデバイスを繋ぐケーブルも必要で、ケーブルなどが体に触れると違和感はさらに強まります。高齢者の中にはなんとなく気持ちが悪いために、無意識のうちにケーブルを外そうとする人も出てくるでしょう。繊細なアスリートの場合、ケーブルなどが肌に触れることで精神状態に何らかの影響を与える可能性があり、パフォーマンスを正確に測定できないおそれがあります。
こうした問題を解消するため私たちが取り組んだのが、装着感をほとんど感じさせないウェアラブルデバイスです。仮に「スマート」を使って表現するなら「スマートパッチ」とでも言えばよいでしょうか、具体的には腕に貼って使う薄くて小さな計測デバイスです。大きさは最大でも4cm四方以内とし、厚みも1ミクロン以内に抑えます。これぐらい薄いと、パッチと皮膚の間にファンデルワールス力と呼ばれる特殊な引力が働くため、パッチが皮膚に自然な感じで貼りつくのです。電源供給やデータ計測/送信は、スマホとのNFC(Near Field Communication:数cmから最長1m程度の極短距離無線通信、無線給電も可能)を活用します。これによりスマホを近づけると、瞬時に給電とデータ送信が完了します。薄くて小さなパッチを肌に貼るだけでよく、電源ケーブルなども使わないため、装着による違和感はほとんどなく皮膚の表面にしっかりなじみます。

ナノシートに電子デバイスを組み込む

装着感がないほど薄くしながら、必要なデータをいかに正確に計測するか。しかも実用化のためには、生産時のコストも抑えられるよう工夫する必要があります。そこで考えついたのが、データ採取に使う極薄のシートそのものを電子デバイス化するアイデアです。具体的には、薄さ400nm(1ミリの2500分の1)程度のシートに、電子回路の配線を印刷します。ただし特殊な印刷方式では、コストが高くついてしまいます。実用レベルまでコストを抑えるため、家庭用インクジェットプリンタで設計・印刷できる技術を新たに開発しました。印刷した電子回路の上に、インク受容層を施したもう一枚の極薄シートを重ねてラミネートします。ナノシート同士の密着力により、その電子素子はナノシート上に強力に固定されます。完成したシートに水を少しつけて皮膚に乗せると、自然に張り付くのです。

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図:銀配線間にチップ抵抗器を配置、SBS(スチレンブタジエンスチレン)ナノシートで封止した様子。左:厚さが2500 nmのシート、右:厚さが250 nmのナノシートを用いた。白点線の内側では封止用のナノシートが基材側に密着せず浮いている。膜厚が薄く追従性の高いナノシートで抵抗器すると、密閉性が向上した。(詳細:研究ニュース『基材が薄く柔らかい「皮膚貼付型エレクトロニクス」を開発 異分野若手研究者が結集』)

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写真:SBSナノシート上にLED点灯回路を実装し腕に貼付。皮膚上でも配線とLEDの電気的接続は安定していてサランラップのように貼りつく

このシートを使って計測できる生体データは、体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度、筋電位などのデータに加えて、皮膚の湿り具合や酸性度なども可能です。回路設計を変えれば、他にも様々なデータを取ることができます。あと一つ残る課題は、シートに印刷する配線の電気抵抗を抑えること。配線を太くすれば電気抵抗は少なくなり電流は流れやすくなりますが、そうするとシートが分厚くなってしまいます。シートに厚みが出ると、上下のシートで回線を挟み込む力が弱くなる恐れもあります。配線をぎりぎりまで細くしながら、電気抵抗を最低レベルに抑える。このトレードオフを解消する研究を進めています。

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写真:実際に通電させた様子

2020年東京オリンピックでの活用をめざす

生体計測デバイスの仕組みは、他の用途にも応用できます。いま考えているアイデアが2つあります。体に貼る電子チケットと、皮膚の酸性度測定センサです。電子チケットとは、例えば「Suica」をごく薄く、さらに小さく柔らかくしてシート状にしたようなものを想像してください。これを手首などに貼りつけてチケットとして使います。シート内部にチケットとして必要な電子回路を組み込み、外部とNFC通信を行って情報をやり取りします。原理的にはSuicaとまったく同じなので、極薄シートに回路を印刷すれば実用化できます。この電子チケットを、2020年東京オリンピックの入場券に使いたいと考えています。従来のような紙のチケットではなく、手に貼って使うスマートチケットを渡されたとき、世界中から日本にやってきた人たちは、どれほど驚くでしょう。日本の技術力を世界にアピールする絶好の機会だと思います。

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写真:ナノシートを貼りつける様子。電子チケットへの一歩

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写真:電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計・印刷が可能。ナノシートを印刷基材と封止材に用いれば、誰でも簡単に低コストでつくれる

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写真:皮膚貼付型エレクトロニクス(『高分子超薄膜のエレクトロニクス化と生体応用』研究)のメンバー。早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所の若手チームのメンバーでもあり若手研究者の専門性が融合。左から岩瀬英治准教授、岩田浩康教授(研究代表者)、藤枝俊宣講師(武岡真司研究室)

もう一つのアイデア、皮膚の酸性度を測るセンサでは、皮膚のpH値を測定します。ナノシートを使う点は生体計測デバイスと同じですが、シートの間に挟み込むのは電子回路ではなく、特殊なpHセンサ(イオン感応型電界効果トランジスタ:ISFET※)です。人体の表面、皮膚にはバリアがあり、外部の細菌などなから体を守っています。ところがストレスなどがたまってくると、この皮膚バリアにほころびが出るのです。するとそこから細菌などが侵入して、炎症などのトラブルを引き起こしたりします。そこで常に皮膚のpH値を計測するセンサを身に着けておき、肌の状態を常時チェック。バリアが弱っているときは、クリームを塗るなどのケアをします。実用化にはまだ少し時間がかかりそうですが、実現すれば女性はもとより皮膚の弱い方をサポートする強い味方になるはずです。

第2回は、人間支援ロボットテクノロジー(RT)の「第3の腕」に迫ります。

※ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor):イオン感応膜でゲート表面上を覆ったFETで、液中のイオン活量によって発生する液-イオン(プロトン)感応膜間の表面(界面)電位 を検出する

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プロフィール

プロフ岩田 浩康(いわた ひろやす)
2002年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程修了、博士(工学)、2004年同大学講師、2006年同大学准教授、2014年同大学創造理工学部総合機械工学科教授、2015年同大学グローバルロボットアカデミア研究所所長、日本機械学会(代議員),日本コンピュータ外科学会(評議員)、日本バイオメカニズム学会(幹事)、日本ロボット学会(評議員)、日本バイオフィードバック学会(理事),計測自動制御学会(代議員),IEEE,EMBS等に所属。人間を支援するロボット技術(Robot Technology;RT)をキーワードに、リハビリ支援RT、医療支援RT、スポーツ習熟支援RT、知能化建機ロボット、新素材応用RT等、先端的研究を数多く手がけ、国内外から高い評価を得ている。詳しくは岩田研究室

主な研究業績
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