基材が薄く柔らかい「皮膚貼付型エレクトロニクス」を開発 異分野若手研究者が結集

基材が薄く柔らかい!「皮膚貼付型エレクトロニクス」を開発
生体材料・メカトロニクス・MEMSの異分野若手研究者が結集

20170201_fig3早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所(*1)の研究グループは、高分子ナノシートの柔軟性と密着性を利用し、熱処理を用いない手法で電子素子を固定・通電させる封止技術を開発しました。さらに開発したデバイスを皮膚に貼り付けたところ、柔軟な生体組織表面でも安定的に通電させることに成功しました。本研究成果は、早稲田大学の生体材料、メカトロニクス、MEMSの異分野の若手研究者が結集して実現したものです。

近年、シャツや腕時計のように身体に装着することで生体情報(体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度、pH、筋電位など)を計測するウェアラブルデバイス(*2)が健康医療・福祉・スポーツ分野で普及しつつあります。また、薄膜形成技術の進歩と共に、次世代のウェアラブルデバイスの形態は「着る・身に付ける」から皮膚などの生体組織に絆創膏のようにして「貼る」時代に進展すると予想されています。貼り付けた際に違和感のないように電子回路を構成する素子を柔らかいプラスチック薄膜表面に取り付ける必要がありますが、従来の電子素子の固定方法では、高温処理(150 – 300℃)を要する、接合部が硬化するという問題があり、基材を薄くするほどに素子を安定に固定することが困難でした。

本研究で開発した手法は、従来の問題点を解決し、基材が薄く柔らかいため皮膚などに貼り付けた際に違和感がなく接着性が高いという優位点があります。さらに耐熱性の低いプラスチック基材や電子素子に応用でき、ICチップなどの精密機器の封止にも有用です。また、電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計・印刷でき、ナノシートを印刷基材と封止材に用いれば、誰でも簡単に低コストで皮膚貼付型エレクトロニクスを作製可能で、学習用キットとしての利用も見込まれます。このようにナノシートを印刷技術と組み合わせて開発した実装法により、皮膚貼付型エレクトロニクスの実現性がより高まり、健康医療、福祉・スポーツ科学分野への応用が期待されます。

今回の研究成果は、英国王立化学協会の学術誌『Journal of Material Chemistry C』オンライン版に、2月1日10時(現地時間)に掲載されました。

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(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

近年、シャツや腕時計のように身体に装着することで生体情報(体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度、pH、筋電位など)を計測するウェアラブルデバイス(*2)が健康医療・福祉・スポーツ分野で普及しつつあります。また、薄膜形成技術の進歩と共に、次世代のウェアラブルデバイスの形態は「着る・身に付ける」から皮膚などの生体組織に絆創膏のようにして「貼る」時代に進展すると予想されています。

このような絆創膏型デバイスは皮膚に違和感無く貼れるため、医療・福祉分野での健康管理、見守りのための無線通信タグ、さらにスポーツ分野ではアスリートのパフォーマンス管理への利用が期待されています。本学でもこれまでに皮膚に貼付して筋電位を計測可能なシート状電極として「電子ナノ絆創膏(*3)」を報告してきました(関連文献1)。

その一方で、デバイス全体を薄く柔らかくするためには、電子回路を構成する素子(例:LED・ICチップなど)を柔らかいプラスチック薄膜表面に取り付ける必要があります。しかしながら、ハンダ付けなどの金属溶融や導電性接着剤を用いる従来の電子素子の固定方法では、高温処理(150 – 300℃)を要する、接合部が硬化するという問題があり、基材を薄くするほどに素子を安定に固定することが困難でした。また、これを解決する手法として、フォトリソグラフィによる微細加工や金属蒸着で素子を直接基材上に作製する方法が挙げられますが、高価なマスクや高純度の真空プロセスを必要とするため、デバイス全体の作製時間やコストの削減が実用化に向けた課題となっており、マスクレスな印刷技術の導入も望まれています。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所(*1)の研究グループ(『高分子超薄膜のエレクトロニクス化と生体応用』:藤枝俊宣岩瀬英治武岡真司岩田浩康(研究代表者))は、高分子ナノシートの柔軟性と密着性を利用することで、熱処理を用いない手法で電子素子を固定・通電させる封止技術を開発しました。ナノシートは、数十~数百ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)という超薄性に由来する高い柔軟性と密着性を示します。今回の研究では、このナノシートを皮膚貼付型デバイスの基材と封止材に応用するべく、ナノシート表面への導電性銀インクの印刷、ナノシートの柔軟性と密着性を利用した配線・素子の封止、さらに、LEDを搭載したデバイスの皮膚上での動作性について検証しました。

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今回開発したデバイスを右手に貼る藤枝講師(前列右)・岩田教授(前列中央)・岩瀬准教授(前列左)と研究メンバー

特に、本研究では藤枝講師と武岡教授のグループ(専門:分子集合科学・生体材料学)が生体材料の観点から皮膚の柔軟性に適合するナノシートを開発し、岩田教授のグループ(専門:医療福祉ロボティクス・メカトロニクス)がナノシートを電子化させるためのインクジェット印刷手法や電子素子実装方法を考案し、さらに岩瀬准教授のグループ(専門:マイクロマシン・MEMS)がナノシートと電子素子の電気的接合をナノサイエンスの観点から検証することで、低温プロセスにて作製可能な皮膚貼付型エレクトロニクスが実現しました。早稲田大学の異なる理工学部先進創造基幹)にそれぞれ所属する若手研究者の専門性が融合することで拓かれた研究成果ともいえます。

(3)そのために新しく開発した手法

これまで研究チームでは、ナノシートの素材にゴム (SBS: ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体)を用いることで、従来よりも100倍柔らかいナノシートを開発してきました(関連文献2)。SBSナノシートは、ロール・ツー・ロール法(*4)と呼ばれる連続式印刷技術を利用することで、ロール状のPETフィルム上に製膜しました。この時、SBSナノシートとPETフィルムの間に薄い水溶性のポリビニルアルコール(PVA)の層を形成しておくことで、紙テープの枠を利用してPETフィルムから簡単に剥せます。このSBSナノシート表面にインク吸収層をコートした後に、家庭用インクジェットプリンタを用いて銀インクを印刷しました。次に、印刷した配線上にLEDを載せ、別のSBSナノシートで挟み込むことでLEDを封止しました。最終的に、PVA層を水で溶かすことで、「SBSナノシート-インク吸収層-印刷配線-LED-SBSナノシート」の5層構造をPETフィルムから剥離し、皮膚に貼り付けました。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

SBSナノシートで電子素子を挟んだところ、ハンダ付けなどの高温処理工程を用いることなく、ナノシートの柔軟性と密着性を利用して配線と電子素子を接続することに成功しました。この時、ナノシート上の印刷配線と電子素子の電極部は密に接触していました (図1)。また、ナノシートの膜厚を薄くするほどに、電子素子の密閉性は向上し、より小さい接触抵抗値で接続できたことから、印刷配線と素子の電気的接続はナノシート特有の柔軟性と密着性に由来することを明らかにしました(図2)。さらに、SBSナノシートとLEDからなるデバイス(シート部総膜厚:約800 nm)を皮膚に貼付したところ、柔軟な生体組織表面でもLEDを安定に点灯させることに成功しました(図3)。

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図1 2枚のSBSナノシートで挟まれたLED。LEDを裏側から観察すると、SBSナノシートに印刷された配線が電極に密に追従していた。

 

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図2 銀配線の間にチップ抵抗器を配置し、SBSナノシートで封止した様子。左:厚さが2500 nmのシート、右:厚さが250 nmのナノシートを用いた。白点線の内側では封止用のナノシートが基材側に密着せず浮いている。膜厚が薄く追従性の高いナノシートで抵抗器すると、密閉性が向上した。

 

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図3 SBSナノシート上にLED点灯回路を実装し腕に貼付した様子。皮膚上でも配線とLEDの電気的接続は安定であった。白いテープ枠はナノシートの貼付に用いたフレーム。

 

(5)研究の波及効果や社会的影響

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電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計・印刷できる

今回の研究では、ナノシートの特性を利用し、室温で電子素子を印刷配線上に実装する手法を開発しました。本手法は耐熱性の低いプラスチック基材や電子素子に応用できるため、精密機器(例:ICチップ)の封止にも有用です。また、電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計・印刷できます。したがって、ナノシートを印刷基材と封止材に用いれば、誰でも簡単に低コストで皮膚貼付型エレクトロニクスを作製できるため、学習用キットとしての利用も見込まれます。ナノシートを印刷技術と組み合わせて開発した実装法により、皮膚貼付型エレクトロニクスの実現性がより高まると期待されます。

(6)今後の課題

今回の研究では、印刷配線とLEDからなる簡単な電子回路を作成しました。アクティヴ・エイジング研究所では、今後ナノシート表面に回路・センサ・アンテナを集積することで、皮膚貼付型エレクトロニクスを開発し、健康医療・福祉・スポーツ科学分野への応用を進めていきます。

本研究成果は、早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所および文部科学省科学研究費(課題番号:15H05355)の支援を得て行われました。

(7)参考資料

用語の解説
  • (*1)早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所
    本学に所属するスポーツ科学、ロボット工学、生命科学の3研究グループの研究者らが、これまでの研究成果を統合し、超高齢社会の到来を見据えた学際研究を発展させるための研究所。「高齢化が進んだとしても、人間として健康で楽しく生活する機能が保持される」社会を構築するべく、“アクティヴ・エイジングを支える先端理工学とスポーツ科学の融合研究”を進めている。本研究は、先進理工学部の藤枝俊宣(ふじえとしのり)講師(現:高等研究所)・武岡真司(たけおかしんじ)教授が手がける生体材料、基幹理工学部の岩瀬英治(いわせえいじ)准教授が得意とするマイクロマシン・MEMS、さらに創造理工学部の岩田浩康(いわたひろやす)教授の専門である医療福祉ロボティクス・メカトロニクスが出会うことで実現した異分野融合研究の成果でもある。
  • (*2)ウェアラブルデバイス
    生体に装着することで、生体情報を自動的かつ連続的に計測することを目的とするデバイス。検査や治療の負担を軽減する医療機器として期待されており、体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度、pH等を測定するセンサが開発されている。
  • (*3)電子ナノ絆創膏
    数十~数百ナノメートルの厚さに対して、数平方センチメートル以上の面積を有する高分子超薄膜(ナノシート)を基盤技術とするフレキシブルエレクトロニクス。これまでに導電性高分子からなるナノシートを開発し、筋電位計測用の皮膚貼付型電極に応用することに成功している。
  • (*4)ロール・ツー・ロール法
    プラスチックフィルムなどの表面に、塗料などを連続的に製膜する方法。ロール状のフィルムを連続的に塗料にくぐらせ、再びロール状に回収できるため、連続して均一な膜を大量に製造することが可能である。ロール・ツー・ロール法を利用すれば、半導体や導電体のような電子素子もフィルム上に連続的かつ階層的に集積できるため、薄膜作製法としてのみならず、次世代の電子デバイス製造技術(プリンテッドエレクトロニクス)としても注目されている。
論文情報
参考文献
  • 1. Zucca, A., Yamagishi, K., Fujie, T., Takeoka, S., Mattoli, V., Greco, F. Roll to roll processing of ultraconformable conducting polymer nanosheets. J. Mater. Chem. C, 3, 6539-6548 (2015).
  • 2. Sato, N., Murata, A., Fujie, T., Takeoka, S. Stretchable, adhesive and ultra-conformable elastomer thin films. Soft Matter, 12, 9202-9209 (2016).
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