「特集 Feature」 Vol.16-4 人の機能を拡張せよ!人間支援ロボットテクノロジー(全4回配信)

医療福祉ロボティクス・メカトロニクス研究者
岩田 浩康(いわた ひろやす)/理工学術院教授
グローバルロボットアカデミア研究所所長

人間支援ロボットのみつめる未来

iwata41「人の技能と心身機能を拡張する人間支援ロボットテクノロジー(RT)」をコンセプトに多彩な研究活動に取り組む岩田浩康教授。シリーズ第4回は最終回。このシリーズでは医療、福祉分野に貢献する様々なロボットテクノロジーを紹介します。最後は、研究者としての抱負と今後の展望を伺いました。

妊婦エコー遠隔検診ロボット

社会の役に立つ人間支援ロボットテクノロジーを具現化するため、実学としてのメディカル・ロボティクスの研究を進めています。そのひとつが「妊婦超音波遠隔検査システム」。年々、産科医療施設が減少している現状に対し、ロボットを活用することで、近隣の診療所でエコー検査を受診できるようになり、妊婦の身体的負担を軽減できます。また、自動走査で取得されたエコー画像は、総合病院の産科医に遠隔伝送され、AI画像診断により異常がないことが確認されたり、必要に応じて、エコー遠隔操作で精密診断をしてもらうことも可能になります。

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図:妊婦超音波遠隔検査システム(出典:岩田研究室)

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写真:実際の妊婦の方で検証している様子(出典:岩田研究室)

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写真:妊婦エコー遠隔検診ロボット。腹部への接触力の小ささと子宮内の明瞭なエコー映像に注目

妊婦の方は週数に応じて、お腹の大きさが急激に変化しますので、腹部への安全性や適応性を第一に見据えたロボットテクノロジーが実装されているのが特徴です。ロボットの関節配置を工夫したり、受動的な機構を用いることで、腹部への接触力を最低限に抑え、突き出た腹部形状に適応しながらプローブ(※1)を動かして胎児を含む鮮明なエコー映像を取得できる先進的な人間適応技術の開発に成功しています。日々のニュース等で、妊婦の未検診についてたびたび議論されています。地理や身体の問題等、様々な諸事情で産科に足を運びにくい妊婦の方々のために、このロボットを提供していきたいと考えています。

高齢者の機能低下を防ぐテクノロジーの開発へ

超高齢社会を迎えた日本では今後、加齢に伴い機能が低下する高齢者が増えていくでしょう。スポーツ競技のように、現状がレベル5であるところを10に上げるためのテクノロジーもありますが、加齢に伴い機能が低下する高齢者の方々の衰えた身体機能を、少しでも元に戻すためのツールが必要になると考えています。これは機能レベルのマイナスを、プラスに変えるテクノロジーです。

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写真:脳卒中で麻痺した脚をベッド上で訓練できる急性期リハビリ用運動訓練装置。自分のペースでリハビリを行える

写真:脳卒中の後遺症である片麻痺による感覚障害を改善する知覚支援装置。知覚が麻痺した患者は足の感覚を背中で感じながら歩行訓練を行うことができる

写真:脳卒中の後遺症である片麻痺による感覚障害を改善する知覚支援装置。知覚が麻痺した患者は足の感覚を背中で感じながら歩行訓練を行うことができる

写真:バランス鍛錬ロボットテクノロジー。平衡感覚を鋭敏化するため腰に巻いたベルトへの振動で重心偏在を気付かせる。繰り返し訓練により、気づかないうちにバランス能力の向上が期待できる

写真:バランス鍛錬ロボットテクノロジー。平衡感覚を鋭敏化するため腰に巻いたベルトへの振動で重心偏在を気付かせる。繰り返し訓練により、気づかないうちにバランス能力の向上が期待できる

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写真:片麻痺歩行改善のための高背屈支援ロボットテクノロジー。運動麻痺で足が垂れ下がり歩きにくい足を歩行に合わせて人工筋肉で引き上げることで、歩きやすくなり訓練効果も向上する

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写真:認知症治療/予防ロボット。単純な身体運動で操作が可能。ゲーム感覚で楽しみながら身体機能の拡張を図れる。また、自己効力感もアップでき、精神的にも良い影響を与える

高齢者の方の技能・心身機能を拡張するテクノロジーとして主に知覚支援に取り組んでいます。人間のもともと持つ機能を拡張するためには、触覚(接地)、視覚、平衡感覚、姿勢感覚などをテクノロジーで鋭敏化する支援が有用となりますが、ロボットテクノロジーを用いたセンシングと知覚増強の技術が、これらの支援のカギとなります。ロボットの活用によって、自身の不適切な身体状態に「気づかせ」た上で、良好な姿勢・運動状態に「誘わせ」、その状態を繰り返し学習させることで、身体感覚を「鍛える」ことが可能な「心身覚醒RT:Robot Technology」の基盤技術を確立することを目指しています。

技術をソリューションに繋ぐ橋渡し

世の中には既にたくさんの技術があります。これからの課題は、それらの技術をうまく組み合わせて、特定の問題解決を図ることです。その成否を握るのが、システムインテグレーターであり、私が目指しているのも、正にそれです。

特定のターゲットが抱えている問題を解決するために、既存の技術をいかに組み合わせるのか。課題解決に至るまでのシナリオを作った上で、現実的な解決策となり得る技術統合の在り方を見極める洞察力が肝となります。その切れ味を研ぎ澄ましておくため、常に社会が抱える数多くの問題を把握しておく必要があります。同時に、次々と開発される新技術に目配りしておきながら、自分たちの技術を加えることで、どのような問題解決につながり得るのかについて、発想を広げる訓練も欠かせません。第1回でお話しした「生体計測デバイス」も、第2回の「第3の腕」のための直感的操作インタフェースも、第3回の「スポーツ技能習熟支援システム」も、そして今回のメディカル・ロボティクスもこのようなプロセスから生まれたのです。

テクノロジーで社会の問題を解決する

こうした先端的なロボット研究を進めるのに、早稲田大学は最高の環境です。グローバルロボットアカデミア研究所には、ロボット工学、画像処理工学、音声認識工学から宇宙工学などの専門家が集まっています。従って要素技術については、いずれも高いレベルのものが既に揃っているのです。そこに私の研究チームが、システムインテグレータとして関わることで、0から1となる技術を生み出してゆけると考えています。また、スピードは大切ですので、どのアイデアも、思いついてからカタチにするまで、ほぼ1年に収めるように努めています。
そして早稲田大学の研究者として社会の期待に応えなければならない責任感も強く感じています。ロボットの研究に関しては、早稲田大学は先駆的存在であり、1973年にすでに加藤一郎先生(※2)が人型ロボットを作っています。そのため、世界でも人型ロボットやヒューマノイド研究に関しては、早稲田は常に一目置かれる存在です。このような歴史の一端を担う研究者として、社会的なインパクトと貢献性のある研究成果をしっかり出していくことを肝に銘じています。
この伝統と恵まれた環境の中で研究を進められる喜びを噛みしめながら、少しでも社会の問題解決につながる研究を進めていくこと。それがこれまでも、そしてこれからも変わらぬ私の想いです。

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岩田研究室にて。岩田研究室は大学内に数部屋あり、写真上は「早稲田大学 グリーン・コンピューティング・システム研究機構」、写真下は「早稲田大学 先端生命医科学センター(TWIns)」。学部生、院生等、メンバーの団結力で次々と新しい研究を生み出していく

 

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脚注

※1 プローブ:妊婦の体に直接当ててエコー(超音波)を出す部分
※2 加藤一郎(1925〜1994)
日本のロボット工学、バイオメカニクス、ヒューマノイド研究の第一人者。早稲田大学理工学部電気工学科卒業後、同教授、早稲田大学理工学部長を歴任。

プロフィール

プロフ岩田 浩康(いわた ひろやす)
2002年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程修了、博士(工学)、2004年同大学講師、2006年同大学准教授、2014年同大学創造理工学部総合機械工学科教授、2015年同大学グローバルロボットアカデミア研究所所長、日本機械学会(代議員),日本コンピュータ外科学会(評議員)、日本バイオメカニズム学会(幹事)、日本ロボット学会(評議員)、日本バイオフィードバック学会(理事),計測自動制御学会(代議員),IEEE,EMBS等に所属。人間を支援するロボット技術(Robot Technology;RT)をキーワードに、リハビリ支援RT、医療支援RT、スポーツ習熟支援RT、知能化建機ロボット、新素材応用RT等、先端的研究を数多く手がけ、国内外から高い評価を得ている。詳しくは岩田研究室

主な研究業績
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