「特集 Feature」Vol.1-3 「五体不満足」乙武洋匡の身体の不思議を解き明かす(全4回配信)

構造生物化学
胡桃坂仁志(くるみざかひとし)/理工学術院 先進理工学部 電気・情報生命工学科 教授

革新的な研究で、世界を変える

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早稲田大学 先端生命医科学センター/TWInsの胡桃坂研究室を見学する乙武洋匡さん

 

エピジェネティクスは人類の大きな障壁である遺伝子疾患の治療に革命を起こすことが期待されています。
しかし、科学には常に光と影があります。これからの社会において、私たちはどのようにしてこの新しい生命の設計図と出会い、正しく理解していけばいいのでしょう?
前回に引き続き『五体不満足』の乙武洋匡さんと理工学術院 先進理工学部 電気・情報生命工学科 胡桃坂仁志教授、おふたりの対談の後編をお楽しみください。

 「善意こそが人類を進歩させる。科学者はそう信じているんです」(胡桃坂)

乙武:研究の社会的意義についてお聞きします。たとえば携帯電話の技術が生まれたのは素晴らしいことです。しかし、その技術のデメリットを最初にあまり議論しないまま開発を進めると、たとえば子どもが使うことで「いじめ」がさらに深刻化するなどの、ネガティブな社会的影響を生んでしまいます。
もしも、がんを克服できる技術が生まれ、普及した時、さらに日本の平均寿命が伸び、高齢化が進むことによって財政がさらに圧迫される可能性もありますよね? そこで、仮に胡桃坂先生は日本の社会のためにこの技術を封印するとする。そんなことは可能なのでしょうか?

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胡桃坂:発見したものを封印したい場合は、使わないようにすればいいのです。ただ、論文や学会、特許などによって発表すると公共財産になるため、自分で使わないようにすることは個人の意志によって可能ですが、他人が使用することを制限する権利はありません。
乙武さんの話を聞いていて、インターネットの恐怖を連想します。インターネットは素晴らしい技術ですが、これだけ急速に進歩したため、人間の脳が追いつけなくなってしまった。その結果、ネットが原因となる精神疾患や犯罪などの新たな問題がたくさん起こってきています。技術が先に行き過ぎた場合のことをどう考えるかは重要な問題ですね。

乙武:インターネットも原子力もそうですよね。今までは人間がリードしていて、科学を進歩させる側だったんですが、あまりにも進歩させ過ぎたことで今、科学が人間を超えてきてしまっているところがある。

胡桃坂:しかし、発見をオープンにしないのは、科学の在り方としてはネガティブです。悪用する人もいるかもしれませんが、善用する人の方が多く、さらにそうした人がうんと人類を進歩させていくはずなのです。私たち研究者は、そうした人類の善意を、ある意味では肯定しなければ存在し得ないものなのかもしれません。それが私たちの社会における役割なのかもしれませんね。

「ノーベル賞は狙って受賞できるものではない。だから尊いし、受賞したいですね」(胡桃坂)

乙武:では最後に、研究者にとってノーベル賞ってどういう存在なんですか?

胡桃坂:最高の栄誉ですね。だから、もし私が受賞して、妻といっしょに授賞式のあるストックホルムに行き、研究室のみんなや卒業生が懇親会を用意してくれるようなことがあれば、本当にそこで死んでもいいとすら思います。
でもこれは、あくまで憧れです。ノーベル賞が欲しいから研究をしている人もいるかもしれませんが、私の考えでは、ノーベル賞は人類に大きな貢献をした人に対して与えられるから尊いのだと思います。よって、目標とするべきは、まず大きな貢献をすることにあるはずです。それを象徴するのが、山中伸弥さんのノーベル賞受賞時の記者会見だったと思います。比較的分野も近いことから、本当に泣けて、心から「おめでとう!」と思いました。私は本当に、あの記者会見を見て、これからも研究者を続けようと思ったのです。

乙武:今日は、ふだんの生活では見えてこない世界を研究されている先生と、楽しくお話し出来て嬉しかったです。ありがとうございました。(全4回配信)

1回目配信はこちら
2回目配信はこちら

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対談最後に微笑む乙武洋匡さんと胡桃坂先生

 〈対談相手プロフィール〉

乙武洋匡(おとたけ ひろただ)

1976年4月6日生まれ。東京都出身。早稲田大学在学中、自身の経験をユーモラスに綴った『五体不満足』が多くの人々の共感を呼び、500万部を超す大ベストセラーに。その後、ニュースのサブキャスターや、スポーツライターとしても活動する。

2005年4月からは、東京都新宿区教育委員会の非常勤職員「子どもの生き方パートナー」として教育活動をスタートさせる。杉並区立杉並第四小学校教諭として勤務し、2013年2月には東京都教育委員に就任。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。続編小説『ありがとう3組』も刊行された。おもな著書に『だから、僕は学校へ行く!』、『オトことば。』、『オトタケ先生の3つの授業』など。

2015年4月より政策研究大学院大学(GRIPS)へ進学、「平成27年度修士課程国内プログラム」の公共政策プログラムを履修する。

〈プロフィール〉

kurumizaka2胡桃坂仁志(くるみざか ひとし)

1989年 東京薬科大学薬学部卒業 薬剤師、1995年 埼玉大学大学院 理工学研究科博士後期課程修了 博士(学術)、1995~97年 アメリカ合衆国 国立保健研究所(NIH) 博士研究員、1997~2003年 理化学研究所 研究員、2003~07年 早稲田大学理工学部 電気・情報生命工学科 助教授、2001~07年 横浜市立大学大学院総合理学研究科 生体超分子システム科学専攻 客員准教授、2007~08年 早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科 准教授、2008~12年 横浜市立大学大学院 総合理学研究科 客員教授、2003年~15年 理化学研究所 客員研究員、2012年~現在 横浜市立大学大学院 生命医科学研究科 客員教授、2008年より早稲田大学理工学術院 先進理工学部 電気・情報生命工学科 教授

 

〈主な業績〉

2013, ゲノムDNAの転写・複製・修復に働くヒト染色体構造体を世界で初めて解明 生殖医療の発展への寄与も期待
―理工・胡桃坂研、阪大などと共同研究・・・
「Scientific Reports」(Nature Publishing Group)にて論文「Structural basis of a
nucleosome containing histone H2A.B/H2A.Bbd that transiently associates
with reorganized chromatin」が掲載

2012,がん抑制タンパク質複合体の機能を世界で初めて解明 理工・胡桃坂研など、遺伝病や発がんの原因解明に重要な一歩・・・
「The EMBO Journal(欧州分子生物学機構誌)」電子版にて論文 「Histone chaperone activity of
Fanconi anemia proteins, FANCD2 and FANCI, is required for DNA crosslink
repair」 が掲載
2011,ヒト染色体の中心領域の立体構造を世界で初めて原子分解能で解明 理工・胡桃坂研、遺伝病や発がんの原因解明へつながる一歩・・・

「ネイチャー(Nature)」電子版にて論文「Crystal structure of the human centromeric
nucleosome containing CENP-A」として掲載

2010,ヒト精巣染色体の構造基盤を世界で初めて解明 理工学術院・胡桃坂教授、米科学アカデミー紀要で発表・・・

「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」電子版にて論文「Structural basis of instability of the
nucleosome containing a testis-specific histone variant, human H3T」が掲載

その他の業績→and more

 

 

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