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勢いづくスタートアップと最先端研究
早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025 開催レポート
Tue 23 Dec 25
早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025 開催レポート
Tue 23 Dec 25
2025年11月26日、早稲田キャンパスにて「早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025(WOI’25)」を開催。本学の最新の研究成果、総合知に基づく分野横断型の産学官連携や人材育成、ベンチャー育成の成果とともに、「Global Research Center(GRC)」のビジョンを来場者と共有しました。
本記事ではWOI’25の中から、大学発スタートアップによるプレゼンテーション、先端研究紹介ブース展示について、レポートをお届けします。
※各登壇者の発言は、抜粋や要約によるものです。
早稲田大学で育まれる、多様なスタートアップ企業
早稲田大学の研究者や大学発スタートアップが、学内外の幅広い来場者と交流する場として企画された、「早稲田オープン・イノベーション・フォーラム2025(WOI’25)」。WOI’25では、産業界のリーダーや研究者によるパネルディスカッションとともに、大学発スタートアップ4社によるプレゼンテーションが行われました。
冒頭では、アントレプレナーシップセンター所長を務める石井裕之教授が、大学発スタートアップを紹介しました。
「早稲田大学の特徴の一つが、多様性です。多様なバイタリティを原点に、アントレプレナーシップセンターでは多くの大学発スタートアップが生まれています。そのプレイヤーは、在学生、卒業生、教員など、さまざまです。領域やステージも、企業ごとに異なります。本日は選りすぐりの4社が登壇しますので、ぜひご期待ください。」(石井裕之教授)
多彩なソリューションをプレゼンする、早稲田の若き起業家たち
1社目のプレゼンテーションは、現役学生によるスタートアップ、株式会社ことば侍です。CEOを務める基幹理工学部3年の山田凌央さんが、自社の音声AIエージェントを紹介しました。
「私たちは、自然な音声で顧客対応を自動化するAIエージェントを開発しています。人手依存によって生じるコールセンター業務の構造的な非効率を解決することが、私たちのミッションです。一時受付から、要件のヒアリング、商品案内や住所変更、予約・解約対応といった各種手続き、そして対応後のデータ入力などのアフターコールワークまで。電話対応における一連の業務フローを、最初から最後まで自動化することが可能です。現在、不動産や小売、葬儀など幅広い業界で導入が進んでおり、人材不足の解消やコスト最適化に貢献しています。」(山田凌央さん)
株式会社ことば侍 CEO
山田凌央さん
つづいて、博士後期課程の学生によるスタートアップ、株式会社Urthがプレゼンを実施。代表取締役CEOを務める創造理工学研究科 博士後期課程の田中大貴さんが、建築視点から生まれたソリューションを伝えました。
「衣食住のうち“住”は、その日の気分で変えることができません。全ての人が建築士のように空間を表現できないかと、当社の事業はスタートしました。現在、世界ではメタバースが再注目されており、ビジネスへの実装が進んでいます。当社が開発した『メタテル』は、企業の課題・目的に沿ったメタバース空間を0から作成し、マーケティングやブランディングを支援できるサービスです。今後、ユーザーを増やすことでコストダウンを図りながら、市場拡大を狙っていきます。」(田中大貴さん)
株式会社Urth 代表取締役CEO
田中大貴さん
3社目は、政治経済学部の研究成果から生まれたVETA株式会社。代表取締役CEOの原健人氏(経済学研究科修了)が、顧客の価値観を引き出す分析ツールについてプレゼンします。
「就職活動や不動産物件の購入、投票など、ミスマッチが問題になるシーンは、社会に多く存在します。当社がミッションに据えるのは、価値観の不一致によるフリクションの解消です。政治学では近年、調査の手法としてコンジョイント分析が定着しており、意思決定に与える要素を分析することが可能になっています。この手法に、価値観とのマッチング度を計測するアルゴリズムを加えたValue Elicitation法を開発し、企業向けにアプリケーションとして展開するのが、当社のソリューションです。」(原健人氏)
VETA株式会社 代表取締役CEO
原健人氏
4社目のPestalozzi Technology株式会社は、卒業生によるスタートアップ。代表取締役CEOの井上友綱氏(スポーツ科学部卒業)は、来場者とストレッチを行うなど、ユニークなプレゼンを行いました。
「健康経営やWell-Beingに取り組む企業は多いと思いますが、運動は生産性を高める効果を期待できるにもかかわらず、導入に障壁があるのではないでしょうか。当社は、社内でも簡単に体力テストを行い、日々の運動習慣や体力スコアのデータを可視化できるソリューションを展開しています。私たちはもともと体力テストのデジタル集計アプリを全国の学校に提供してきました。培ったノウハウを活かし、企業の皆さんにも貢献しようと開発したのが、健康経営サポートプラットフォーム『ALPHA for Biz』です。」(井上友綱氏)
Pestalozzi Technology株式会社 代表取締役CEO
井上友綱氏
プレゼンテーションでは、早稲田大学ベンチャーズ株式会社パートナーの大野聡子氏がコメンテータとして登壇しました。
「本日登壇された4社をはじめ、早稲田大学発のスタートアップがもつノウハウや技術、人材などを総合的に生かして社会に貢献していくことが、早稲田大学が目指す新しい姿になるのではないかと思います。」(大野聡子氏)
アントレプレナーシップセンター 所長 石井裕之教授(理工学術院)
早稲田大学ベンチャーズ株式会社 パートナー 大野聡子氏
ブース展示で、学内外の関係者が交流
早稲田大学では、各分野の研究者が社会課題解決に資する研究プロジェクトを推進しています。WOI’25では、121号館のリサーチ・イノベーション・センターにおいて、先端研究や大学発スタートアップを紹介する展示を実施。50にもおよぶブースが出展し、来場者と成果を共有しました。
ブースの一つ、「文学学術院総合人文科学研究センター/SGU国際日本学拠点」のテーマは、「デジタル人文学の基盤構築」。機材を用いた文化財撮影技術が、実物とともに展示されました。
「非破壊・非接触の原則が伴う、美術品などの貴重な文化財をデジタル化するには、高度な撮影技術が求められます。デジタル人文学にアプローチする私たちは、高精細カメラや大型スキャナの技術を用い、効率的かつ汎用性の高い入力方法の確立を目指しています。撮影技術の発展は作品分析の精度を上げ、複製制作へも応用されることで、文化財の利活用と保存に新機軸をもたらします。また、デジタル資源のアーカイブ化は、教育や研究における質の向上にも貢献できるでしょう。」(山本聡美教授)
山本聡美教授(文学学術院)
「スマート社会技術融合研究機構 動力エネルギーシステム研究所」の展示ブースでは、「GHGプロトコル改定に対応する産業用エネマネの紹介」をテーマに、工場のエネルギー資源の最適化、GHG排出量削減を実現するシステムが紹介されました。
「早稲田大学は産業用スマートエネルギーの研究を推進しており、その中で私たちは、工場内のエネルギーマネジメントを担当しています。同分野には、省エネを実現するだけでは投資が進まないという課題があります。GHG排出削減量やCFPの計算、エネルギー需要予測、外部環境変化に対応するリスケジューリング機能などを備える、統合的なマネジメントシステムが必要です。開発中のシステムにより、導入企業は製品や工場の環境性能を把握でき、カーボンニュートラルなどの社会的要請に応えることが可能になります。現在、オムロン株式会社とも連携しながら、私たちは標準的なモデルの設計、アルゴリズムの開発に取り組んでいます。」(天野嘉春教授)
スマート社会技術融合研究機構 動力エネルギーシステム研究所 所長
天野嘉春教授(理工学術院)
また、ブース展示には、プレゼンテーションを行った大学発スタートアップも参加。自社のソリューションを実物とともに紹介するなど、各社がネットワーキングの機会として活用しました。
「ピッチとブース展示の両方に参加したことで、さまざまな業界の企業の担当者さまと交流できました。自社のオフィスや工場をメタバースで紹介できる当社のソリューションは、採用活動などにも役立てられます。今後もイベント出展などを通じ、より多くの皆さまに活用いただけるよう努力したいです。」(田中大貴さん)
「当社は、統計学などを得意とする研究者と、共同で立ち上げたスタートアップです。社会科学の技術的知見が、ビジネスに役立てられることを、多くの皆さまに知っていただきたいと思っています。企業課題に対してカスタマイズする当社のソリューションは、幅広い業界に提供できることも特徴です。WOI’25では、想定外の業界からお声がけいただく機会もありました。」(原健人氏)