第25回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 受賞者挨拶 ― 五百旗頭 幸男 氏

【草の根民主主義部門 大賞】

映画「能登デモクラシー」(石川テレビ放送)

劇場公開映画

五百旗頭 幸男 氏の挨拶

このたびはこのような栄えある賞をいただきましてありがとうございます。この映画の主人公である滝井元之さんを称えるかのように、草の根民主主義部門での受賞となったことが、何よりも嬉しいです。

その滝井さんは、奥能登の穴水町という小さな過疎の町で、民主主義が壊れていく中で町を変えようと、16年間にわたり手書き新聞を発行し続けてきました。自らの手で書いて、自らの足で運んで、そして自らの言葉と共に手渡す。今はとかく極端な言動がもてはやされ、拡散力や即効性というものが重視される世の中ですが、その世の中にあって滝井さんが積み上げてきた営みというのは、タイパ、コスパも悪いし、ひどく面倒で退屈なことです。けれど、その面倒で退屈な営みを続けてきたからこそ、奥能登の小さな町では今、確かな変化が訪れていて、壊れかけていた民主主義が再生に向かおうとしています。

今回、公共奉仕部門の大賞を受賞されたTBSテレビの「報道特集」において取材に取り組まれている兵庫県が象徴的ですが、今、SNSを中心に社会の分断が加速しています。しかし、私が取材しているこの映画「能登デモクラシー」の舞台である石川県の穴水町では、分断は起きていません。意見や立場の違う人に対しての誹謗中傷や攻撃といったことも確認されていません。映画に登場する町長や議員に対して、私は彼らにとって非常に都合の悪い厳しい取材をずっと続けています。そして、映画の中でもそれは描いたわけですが、彼らは私の取材から逃げたり、私を拒絶したり、私を攻撃してきたりということは一切なく、私が声をかけると必ずその場に立ち止まり、真摯に丁寧に今も取材に応じてくれています。

今も続編の取材をしていますが、その姿勢というのはなおも変わりません。その姿勢から私が感じ取っているのは、地元メディアとしての私の仕事、役割というものを、立場や意見は違っても尊重するという姿勢です。そういう彼らの変わらぬ真摯な姿勢を、私は本当に心からリスペクトしています。もし今、この混沌とする時代を変えうるものがあるとするならば、それは決して、威勢の良い刹那的で極端な言説や言動ではないと思います。

日々仕事をしていると、逆風にさらされたり、追い風が吹いたりしますが、この取材を通して主人公の滝井さんから教えられたのは、そういう風向きや風の強さに流されることなく、日々ささやかな営みを、何気なくさりげなく積み重ねていくことの重みや尊さであると思っています。そして、この時代に隅に追いやられている、そういう営みを積み重ねることこそ、社会に本質的な変化をもたらすのではないか、その可能性を、この奥能登の小さな町は教えてくれています。

今回の受賞にあたっては、ドキュメンタリー制作部という全国の放送局では稀有なドキュメンタリーの専門部署を守り続けてくれている石川テレビと、この映画に関わった全ての方々、そして全国の劇場などでこの映画をご覧いただいた皆さまに、心から感謝の気持ちを伝えたいと思います。ありがとうございました。

 
 
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