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’25 早稲田ジャーナリズム大賞贈呈式

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞

  • #ジャーナリズム大賞
  • #総長室

Fri 12 Dec 25

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞

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Fri 12 Dec 25

2025年12月4日(木)、第25回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の贈呈式が開催されました。2部門3作品での大賞と、2部門2作品での奨励賞授賞となり、受賞者には賞状、副賞のメダルおよび目録が授与されました。

第25回 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 贈呈式

 式辞 田中愛治総長

本日は、皆さまご多忙のところ、第25回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式にご出席くださいまして、誠にありがとうございます。

本賞は2000年に創設され、2001年に第1回の贈呈式を開催しました。回を重ねるにつれて、賞の社会的評価も高まりつつありまして、2025年度は144件のご応募・ご推薦をいただくことができました。その中から今年度は、2部門3作品の大賞と2部門2作品の奨励賞 を選出いたしました。早稲田大学を代表して、受賞者の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。

また、読みごたえ、見ごたえのある多数の応募・推薦作品を、お忙しい中ご評価・ご選考いただいた選考委員の皆様方にも、心より御礼申し上げます。

本賞にその名を冠する石橋湛山氏は、早稲田大学で哲学を学んだのち、「東洋経済新報」等を舞台に経済評論家・ジャーナリストとして頭角を現しました。

湛山は、国家の拡張を是とする風潮の中で「小日本主義」を唱え、経済的にも精神的にも自立した国家を目指すべきだと主張しました。

戦後は政治の道に進み、早稲田大学の出身者として初めて内閣総理大臣に就任します。短い在任期間ではございましたが、体調を理由に自ら退任を決断した潔さ、そのことも、石橋の信念を貫く早稲田らしい気骨をみなさんにも感じていただけることと思います。

こうした湛山の姿勢は、本学創立者・大隈重信が説いた「在野精神」に通ずるものでございます。権力におもねることなく、自らの信念に基づいて行動する精神、それが大隈重信が、石橋湛山氏が、そして早稲田が大切にしてきた理念である考えております。

早稲田大学は、2032年に創立150周年を迎えます。10月19日には、その周年記念事業の本格始動、ということでオープニングセレモニーを開催いたしました。

この節目にあたりまして、私たちは改めて建学の精神である「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」の三つに立ち返ることにいたしました。

このうち大隈がもっとも重視していたのは「模範国民の造就」でございます。大隈は、「一身一家一国の為のみならず、進んで世界に貢献する抱負が無ければならぬ」とも述べています。

この言葉には、早稲田が、自らのためのみならず、社会そして世界に知をひらき、他者の幸福に寄与する大学であるべきという理念が込められています。大隈は、早稲田大学――当時の東京専門学校――において、世界に貢献する人材に育ててもらいたい、と考えておりました。

そのためには教育が大事である、しかし単に教育を行うだけではなく、真理を追究する学問にもとづいた教育を行うべきだと考えていたようです。学問についても、学問を学問としてただ追究するのではなく、それを世の中の役に立ててもらいたい、という思いがあったと受け取れます。

まずは「学問の独立」が第一歩であり、その学問を活用して世の中の役に立て、人材を育成し、その結果として世界人類に貢献する人材を育てたい――大隈はこのように考えていた、と我々は理解しています。

本学では、150周年記念事業の本格始動を契機に、こうした理念をあらためて現代に息づかせ、研究と教育を通じて人類社会に貢献し続ける大学を目指したいと考えています。

そのためには、答えのない課題に果敢に挑む「たくましい知性」、また、異なる価値観を理解し他を尊重する「しなやかな感性」を育むことが欠かせません。

そして、まさにその二つの力――真実を追い、他者の声に耳を傾け、社会の変化を記録する力――それこそが、健全なジャーナリズムを支える礎でもあると考えています。

石橋湛山氏は、言論の独立を貫き、報道と評論を通じて社会の本質を問い続けたわけでございます。
その精神は、自由で責任ある言論を守り続けるという早稲田の使命そのものであり、今を生きる私たちにとりましても、変わらぬ道しるべであります。

湛山の志を受け継ぐ今回の受賞作が、事実を通じて社会を映し出し、人々の対話を促すものであることを、我々も心から誇りに存じております。

受賞者の皆さまのさらなるご活躍を期待するとともに、皆さまが新たな時代の言論を切り拓く力となってくださることを願っております。

これら精神を受け継ぐべく、今回の授賞作はいずれも、日本中、世界中で日々生起する膨大な出来事の中から発掘した事実を丹念に掘り下げた作品であります。後程、武田徹委員から今回の選考全体についてご講評いただきます。

さらに本学では、2002年から「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞記念講座」を開講しています。毎年、受賞者の方々をゲスト講師に迎え、学生たちに取材や報道現場の生の声を伝えていただいています。この講座は、ジャーナリストを目指す学生たちにとって大変意義深いものであり、ジャーナリズムの本質や役割を深く考えるとともに将来への希望を与えていただく貴重な機会となっております。同時に、私どもはその成果を受講生のみならず、広く世に問いたいと考え、著作としてまとめる作業も続けています。

最後に、重ねて受賞者の皆様のご研鑽とご苦労に最大限の敬意を払いますとともに、この受賞がさらなる飛躍の契機となることを心から願いまして、本日のご挨拶に変えさせていただきます。本日は、誠におめでとうございます。

  石橋湛山記念財団代表理事 
  石橋 省三 様

本日はお招きいただきまして誠にありがとうございます。まずは、受賞者の皆様、ご受賞大変おめでとうございます。

また、選考にあたられました選考委員の皆様、それから事務局の皆様、大変ご尽力いただいたことと存じます。ここまで無事に進めてこられましたこと、心よりご同慶に堪えないとともに、お疲れ様でしたと申し上げたいと思います。

石橋湛山記念財団でも、こちらのジャーナリズム大賞ほど大きなものではございませんが、「石橋湛山賞」という賞を設けており、今年46回目を迎えました。

応募総数は最近やや少なめで30件ほどでして、本賞の144件と比べますとかなり少ないのですが、それでも数ヶ月かけて選考しており、大変な作業です。それと比べましても、こちらはより数も多く、また、多種多様な題材を選んでこられ、そのご尽力には大いに敬意を表しているところございます。

この石橋湛山賞は、実を申し上げますと、10日ほど前に本年度の受賞式を行ったばかりです。

受賞されたのは、一橋大学の佐藤主光教授による『日本の財政』というご著書でした。ご案内のとおり、日本の財政は非常に厳しい状況にあります。その内容について、一般の方にも分かりやすい形でまとめられ、非常に啓蒙的である点を評価いたしました。選考において特に重視したのは、日本の財政が厳しいという現実をいかに多くの方々に理解していただくか、という視点です。民主主義政治では、人々が嫌がる政策に踏み込むことが難しく、特に最近は大衆受けする政策に流れがちです。そうした傾向に対し警鐘を鳴らす内容であった点を評価いたしました。

その際、改めて重要だと感じたのは、たとえ書籍で丁寧に説明をしても大勢の方が読むわけでもなく、また読んですぐ納得するわけではない、という現実で、その間を取り持つのは何か。それがやはり「ジャーナリズム」ではないかと考えました。

ジャーナリストの皆様は、私たちの世代、そして次の世代にとって重要だと思うことをきちんと噛み砕き、多くの方に伝えるという役割を担っておられます。そうした意味でも、しっかりと深掘りし、分かりやすく伝えてくださるジャーナリストは、ますます重要な存在になっていると感じております。

今年の受賞作の中にもSNSの問題を取り上げたものがありました。

SNSに惑わされることの多い現代において、正確な情報を発信するジャーナリズムの役割はますます大きくなっています。ジャーナリストを志す学生の皆様もおられるかと思いますが、ジャーナリストこそ、社会をより良くしていくうえで非常に重要な役割を担う職業、プロフェッショナルではないかと思います。

本日の受賞者の皆様が、今回の受賞を機にさらにご活躍されることを心よりお祈りするとともに、ジャーナリストを志す若い皆様には、日本の将来を変える可能性を持った素晴らしい重要な職業として、ぜひ力を尽くしていただきたいと思います。

今年もジャーナリズムを応援させていただいて、私からのご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

全体講評

武田徹委員

武田徹委員

各受賞者への正賞(賞状)と副賞(記念メダル)ならびに目録の贈呈後、選考委員を代表して武田徹委員から講評が述べられました。

 大賞3作品の講評

【公共奉仕部門 大賞】兵庫県知事選等めぐるキャンペーン報道~SNSと選挙・広がる誹謗中傷~

これは、いわば“戦争報道”だと思いました。現在、誹謗中傷は、選挙戦の中で対抗候補に対してなされるだけではなく、マスメディアに対しても向けられています。そうした集中砲火の中で生み出された報道であり、まさに戦場、戦争報道に近い状況の中で取材をされ、番組を制作されたのだと思います。
“戦争”という言葉を使いましたが、今の状況は捻じれをはらんでいる、そういう“戦争”だと思います。取材中の記者を動画撮影し、それをネット上に晒すことも行われていると聞きますが、その際「勝手に撮るな」と制止を求めると、撮影している人は「自分たちもジャーナリズムをやっているんだ」と答える――そうした話も耳にします。
私たちは自分たちがジャーナリズムを担い、社会正義を実現する側にいると思っていますが、あちら側もまた「自分たちこそが社会正義を実現するためにジャーナリズムを行っている」と考えている。ジャーナリズムを競い合う闘いが繰り広げられている。
その捻じれの中で、ジャーナリズムはもっと強くならないといけない。より精度を高め、公益性により奉仕できる存在でなければならない――その必要性を、本当に、切に感じさせてくださった、そういう番組であると思いました。

 

【公共奉仕部門 大賞】移民・難民たちの新世界地図 —— ウクライナ発「地殻変動」一〇〇〇日の記録

生身のジャーナリズムの必要性を強く感じました。
著者は元新聞記者で、この取材を行った際には新聞社を離れ、自らオランダに住所を移されていました。海外特派員としてではなく、日本人がオランダに“移民”として住み、その立場から移民・難民を追うという、そういった構図の中で取材をされました。
印象的だったのは、新聞記者の時代には危険地帯の取材において会社の経費で防弾チョッキや衛星通信機が支給されていたのに、今はそれがない。まさに“丸腰”で紛争地帯にも取材に行かなければいけなかった――と記されている点です。
もちろん、リスクのある取材では安全対策が不可欠です。しかし本書では、安全が十分に確保されない、ある意味では“丸腰”で取材に臨んだその生身感が、一種のメディアとして機能し、危険にさらされている移民の人たちの“生身”と、読者の“生身”をつなげる、そういう役割を果たしたのではないかと感じました。
観察者として安全圏から取材をするのではなく、自らの生身をさらしながら取材をする。こうしたジャーナリズムでしか伝えられないものが、確かにあるのだ、と感じました。

 

【草の根民主主義部門 大賞】映画「能登デモクラシー」(石川テレビ放送)

題名に“デモクラシー”という言葉が入っていますが、今やデモクラシーといえば全てが解決するという牧歌的な状況ではなくなっていると思います。そういった状況の中で作られたドキュメンタリー映画だと拝見しました。
作品では、人口が減少する穴水町で『紡ぐ』という手書きの新聞を発行する滝井さんを主な取材対象としています。能登半島地震により穴水町も非常に大きな被害を受け、この新聞も一度は中断を余儀なくされましたが、80歳になる滝井さんはそれを復刊されます。自分が地域で生きる中で感じた問題意識を手書きで綴り、地域の人々に語りかけるように渡していく――これこそが、デモクラシーとジャーナリズムの原点だと感じました。
その原点にもう一度立ち返ってやり直さなくてはならない。それが、今のデモクラシーとジャーナリズムの位置づけなのではないかと感じました。

 奨励賞 2作品の講評

【公共奉仕部門 奨励賞】被爆80年企画「ヒロシマ ドキュメント」

本作品は、広島の原爆の前日から日めくりで記事が作られています。
8月6日だけが被爆の日なのではない。8月6日の前にも暮らしがあり、8月6日の後にも、命がけではありますが、暮らしが続いていた――それを描かなければ被爆の実態は描けないと思います。
動画メディアは継続する動きを追うのが得意ですけれども、逆に、継続する動きを追うのは不得意だと言われている紙メディアが、命と生活の継続を描きました。非常に意欲的な手法で、広島の被爆を改めて戦後80年の節目に描いた画期的な報道だと感じました。

 

【草の根民主主義部門 奨励賞】鍬を握る 満蒙開拓からの問い

満蒙開拓団の問題は、国家と人、あるいは人と人が織り成す、様々な関係性が含まれている問題だと思います。開拓団を送り出す国と、送り出された人々の関係、開拓団内での日本人同士の関係、あるいは開拓団の日本人と現地の中国人の関係。そして終戦の際に子供を置いて帰らざるを得なかった人もいるわけで、そういった残留孤児と、彼らを養育する中国人との関係――。こうした様々な関係性を信濃毎日新聞は非常に丁寧に拾い上げ、記事にされています。
日本でも排他主義的な政党が躍進したり、あるいは新しい総理の誕生によって日中関係がこれから新しい局面に入っているのではないかと思います。そうした中で、国と人、人と人の関係を考える際に、この信濃毎日新聞の記事は、考える時の軸足を置く場所になり得る、そういう記事だと思いながら読ませていただきました。

◆ ◆ ◆

石橋湛山について、一言だけお話しして講評の結びとします。
石橋湛山は一度、ジャーナリズムをかなり厳しく批判したことがあります。

「私の新聞記者時代」という文章を1957年2月、政治家になった後に書いていらっしゃるのですが、その中で彼は「日本でせっかく産声を上げた政党政治を、五・一五事件で終わらせてしまった、その原因の一因はジャーナリズムにある」、と述べています。

国会における醜態などを新聞記事として盛んに書き立て、政党や議会に対する国民の信頼を失わせ、軍部が台頭する隙を作った、と湛山は記しています。

湛山はジャーナリストの出身ですので、当然ジャーナリズムのことは理解しており、その大事さも分かっていたと思います。首相を経験した後もジャーナリズムの味方であったと思います。しかし、味方であったからこそ、ジャーナリズムに苦言を呈したのだと思います。

彼のメッセージは、ジャーナリズムこそジャーナリズムに厳しくなければいけないということだったのではないでしょうか。

石橋湛山が指摘したように、かつて軍部が台頭するような隙を新聞が作ってしまったように、今も非常に禍々しいものの台頭を許すような隙を、ジャーナリズムが作ってしまっていないか。今回の受賞者の皆さんには、そうした危機感や警戒感を持ちながら仕事に当たっていただきたいと思っています。

受賞は、一つの通過点に過ぎないと思います。

働いて働いて働いて、とは言いませんが、ワークライフバランスは十分に考えていただきつつ、今回の受賞の先に、さらなるご活躍を期待しております。

改めまして、この度はご受賞おめでとうございました。

受賞者挨拶

【公共奉仕部門 大賞】
兵庫県知事選等めぐるキャンペーン報道 ~SNSと選挙・広がる誹謗中傷~ 村瀬 健介 様

【公共奉仕部門 大賞】
移民・難民たちの新世界地図--ウクライナ発「地殻変動」一〇〇〇日の記録 村山祐介様

【草の根民主主義部門 大賞】
映画「能登デモクラシー」(石川テレビ放送) 五百旗頭幸男様

【公共奉仕部門 奨励賞】
被爆80年企画「ヒロシマ ドキュメント」  岡田浩平様

【草の根民主主義部門 奨励賞】
鍬を握る 満蒙開拓からの問い 上沼可南波様

関連リンク・第26回 早稲田ジャーナリズム大賞に向けて

第26回(2026年度)「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の応募詳細につきましては、2026年春頃に発表いたします。たくさんの作品の応募・推薦をお待ちしております。
本賞は広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘し、顕彰することにより、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた言論環境の形成への寄与を目的としています。
本賞及びこれまでの授賞作等については、以下のWebページをご覧ください。

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