「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2024『講義録』刊行の言葉

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞記念講座2024の講義録である『「忖度」なきジャーナリズムを考える』が出版されました。

この書物は、「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」を記念して、早稲田大学の学生のために開講されている講義をもとに編まれたものです。講師陣は、早稲田ジャーナリズム大賞の前年の受賞者を中心に、第一線で活躍されているジャーナリストの方々から構成されています。

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ジャーナリズム大賞受賞者に贈られるメダル

 

また、第24回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式が2024年12月5日に行われました。
第24回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」贈呈式 式辞・講評 はこちらよりご覧ください。

「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座 2024
『「忖度」なきジャーナリズムを考える』

 

2024年12月13日発行 (早稲田大学出版部

刊行の言葉(「はじめに」より)
早稲田大学政治経済学術院教授(本賞選考委員) 瀬川至朗

早稲田大学が主催する「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」は、創設以来、広く社会文化と公共の利益に貢献したジャーナリスト個人の活動を発掘し、顕彰してきた。賞の名称には、優れたジャーナリストであり、総理大臣をも務めた石橋湛山(以下、「湛山」と略す)の名が冠せられている。

昨年(二〇二三年度・第二三回)も大賞と奨励賞それぞれ三作品計六作品が選ばれたが、例年、受賞した方々には「ジャーナリズムの現在」という記念講座への出講をお願いしている。本書は、その講座の一部として開催した自衛隊の性加害事件をテーマとするシンポジウムのほか、今回の受賞作品であるドキュメンタリー番組『命ぬ水~映し出された沖縄の五〇年~』上映イベント(早稲田大学文化企画課主催)での学生座談会も収録した。

さて、二〇二三年は石橋湛山没後五〇年にあたる年であり、私は石橋湛山の言論活動と早稲田ジャーナリズム大賞をテーマに論考を執筆する機会を得た(「湛山の「自由な言論」と早稲田ジャーナリズム大賞」、石橋省三・星浩編著『石橋湛山 没後五〇年に考える』所収)。執筆の過程で、湛山の思想の根底には自由主義と個人主義があり、強い信念をもって世界の国々の「平和共存」をめざしていたことをあらためて確認できた。そして何よりも強く感じたのは、さまざまな論説・エッセイの背後に伏流となって流れている言論で闘う気概である。湛山が「忖度」などとは無縁の言論人だったことは断るまでもないだろう。

早稲田大学の文学科で哲学を学んだ湛山は、一九一一(明治四四)年に入社した東洋経済新報社で論陣をはり、政府・軍部の大陸進出路線を「大日本主義の幻想」だと真っ向から批判した。一切の領土を放棄し、代わりに国際貿易を盛んにすれば経済的に富める国になることを、データを示して主張した(「小日本主義」と呼ばれる)。それだけではない。母校早稲田大学の創設者である大隈重信の外交政策(対華二一条の要求)を「露骨なる領土侵略政策」であり、 「大隈内閣第二着の失策」と断じたのである。

これに見られるように、湛山はいかなる権力や権威にも迎合せず、根拠をもって正しいと考えることを発信する「自由な言論」を何よりも重要なことと考えていた。一九四五(昭和二〇)年の日本の敗戦後は「評論を生かして現実化する」ため政治家に転身したが、占領下の蔵相時にGHQ(連合国軍総司令部)と経済政策で対立し、公職追放となったこともあった。時代に流されず、一切を「忖度」することがなかった湛山の姿勢は、どのような場合であっても一貫していたと評することができる。

なお、収録された各講義・シンポジウムが、すべて、『「忖度」なきジャーナリズム』に言及しているわけではないことはお断りしておきたい。実際のところ、本文中で「忖度」という表現が使われるのは一カ所だけである。しかしながら、講師の方々がジャーナリズムのあり方を語る中で、メディアにおける「忖度」について触れた個所は少なからずある。

本書に登場するのは、いずれも、そうした風潮に抗するかのように、「時代におもねらない」明確な問題意識のもと、徹底的かつ継続的に調査報道を進めて真実に迫ろうとする挑戦の数々である。講師の方の熱い思いと力強いジャーナリズム活動の実践報告に触れながら、『「忖度」なきジャーナリズム』について考えていただければ幸いである。

目次

はじめに 瀬川至朗(早稲田大学政治経済学術院教授)
講義 ジャーナリズムの現在

1  統一教会と政界の癒着を追及し続けて(鈴木 エイト)

2  保身の安全装置を切れ(霍見 真一郎)

3  米軍基地と「命ぬ水」のPFAS汚染(島袋 夏子)

4  死亡退院から見えてきた日本社会“排除”の構造―精神医療の現状(青山 浩平、持丸 彰子)

5  南米アマゾンの“水俣病”―世界の片隅にある不条理とメディア(萩原 豊)

6  新型コロナワクチンの副反応の報道―まずは全てを疑って(有本 整)

討論 性加害の報道を問う

◆ シンポジウム シンポジウム 陸上自衛隊性加害事件の取材を通して、私が見たこと、感じたこと(岩下 明日香)

大学院生と考える基地による水質汚染問題

◆ 座談会『命ぬ水~映し出された沖縄の五〇年~』を見て

「忖度」をめぐる私論 瀬川至朗
あとがき 瀬川至朗
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