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学生時代の支援を糧に、社会で活躍する卒業生たち
特集:アクセシビリティ支援の現在地
Tue 30 Jul 24
特集:アクセシビリティ支援の現在地
Tue 30 Jul 24
自身の障がいや支援を受けた経験を生かし、社会で活躍する卒業生の姿をお届けします。
誰もが等しく尊重される社会を目指し、弁護士として活動中
板原 愛さん(2017年法務研究科修了)

生まれつき重度の弱視で、時に困難や差別に直面することもありました。この経験から、専門性を身に付けて働き、人や社会に貢献したいと考え、中学生の時に弁護士になることを志しました。現在は企業法務や一般民事・家事事件を広く扱うほか、障がい者団体の相談員や、パラスポーツ団体の理事を務めています。最近は障害者差別解消法などの法律や制度について、講演の依頼を受けることも増えてきました。障がいというバックグラウンドは、私にユニークな視点や型にとらわれない思考を与えてくれると感じます。こうした思考力は、柔軟に紛争を解決する上で助けになっているはずです。
在学中は、法曹として社会に向き合い、法律や制度のあり方を主体的に考え、活動することの重要性を学びました。そして友人たちは、切磋琢磨することの喜び、深く議論することの大切さを教えてくれました。
市販の書籍を読むことができない私は、障がい学生支援室(当時)の皆さまから、 音声読み上げソフトを用いたテキストデータ変換の支援を受けていました。また、出版社から直接テキストデータを提供してもらうための調整、点字ディスプレイや拡大読書器の貸与など、早稲田大学の学習支援は充実していたと感じます。
私は障がい者や女性であることで夢を奪われることなく、さまざまなサポートを受けながら成長し、弁護士として充実した日々を過ごすことができています。しかしそれは、幸運に恵まれたからにすぎません。これからも私は、差別や排除の問題に対する法曹としてのアプローチ、インクルーシブな社会を実現するための法律や制度の普及啓発、社会システムや制度づくりへの関与を通じ、幸運に恵まれなくとも誰もが等しく尊重され、夢を実現できる社会づくりに、貢献し続けたいと思います。
支援の輪は大学を超え、世界中に広がるはず
若林 亮さん(1998年政治経済学部卒業)

手話通訳士と若林さん(右)
私は耳が全く聞こえず、発音・発声も不明瞭です。同様の障がいがありながら弁護士として活躍する方の存在を知り、私も弁護士を目指しました。現在は日本司法支援センター「法テラス」にて、常勤勤務契約の弁護士として活動しています。聴覚障がいにより仕事の幅が制限されることはなく、国選弁護も民事事件も受けており、最近は特に成年後見の仕事が多いです。
現場では手話通訳士とタッグを組み、法律相談から法廷での尋問まで、なんでも一緒にこなしてきました。相手方の気持ちをくみ取り正確に通訳する、素晴らしい手話通訳士と出会えたことで、さまざまな人と信頼関係を構築することができています。
私は大学に入学するまで手話を知らず、緊張しながら「早稲田大学手話さあくる」に入りました。手話でコミュニケーションができることを知った驚きと喜び、自分に自信をもてた経験は、今の仕事の糧になっています。
在学当時は大学によるノートテイク※などの支援はなかったと記憶していますが、私はサークルのメンバーやボランティア団体の力を借り、授業を受けていました。卒業後十数年が経ち、聴覚障がいのある後輩が、早稲田大学の法科大学院でノートテイク支援を受けていることを知った時は、心強く感じました。一方で自分が在学中、障がい当事者として次世代のためにもっと積極的に大学側と相談するべきだったと、振り返ることも多いです。
私は他大学の法科大学院に進みましたが、そこでノートテイクをしてくれた学部生が、早稲田大学の法科大学院に進学しました。そして先述の後輩のために、ノートテイクをしてくれたのです。支援をした彼女は後に弁護士となり、現在は法テラスの同僚です。
早稲田大学には多くの学生が在籍します。支援の経験がある人が、他の人にノウハウを伝え、さらに波及していくことを想像すると、つながりの輪の力は計り知れません。大学での一つの支援が、日本全国、そして世界中の支援に広がってほしいです。
※授業中、内容の要約を支援者がノートに記載するサポート
フリーランスとして事業を展開し、障がい者に対するイメージを変えていく
小野克樹さん(2021年アジア太平洋研究科修了)

進行性の神経疾患により、現在は胃ろうと人工呼吸器を使用しており、首のみが動かせる状態です。仕事はフリーランスとして活動し、企業や大学を含む複数の顧客から、システム開発や立ち上げ期のサポート、SNS運用など、さまざまな業務を受託しています。また障がい者に対し、企業から頂いた仕事をマッチングする事業も行っています。
早稲田大学の商学部では、起業に関する科目を中心に学びました。そこで得た知識は、フリーランスとしての活動、事業の運営において役立っています。大学院はアジア太平洋研究科に進み、定量分析を用いた研究に挑戦しました。データを取り扱う力は、デジタル社会のさまざまなシーンで有効です。
在学中は、代筆や移動の支援がなければ、学生生活を送ることは不可能だったので、スタッフの皆さまには大変感謝しています。そしてなによりも大きな意味をもっていたのが、障がい学生支援室(当時)のコミュニティでした。高校まで一般の学校に通っていたこともあり、どこか障がいに関わることを恐れていた私でしたが、自分の障がいを受け入れ成長できたのは、支援室のコミュニティのおかげです。
今私が目指しているのは、「(社会システムが指す意味における)“障がい”のない未来の実現」です。働き、事業を展開することで、社会と接点を持ちながら、障がい者に対するイメージを変えていきたいと考えています。また、今のところ事業としては形にはなっていませんが、少ない労力で大きな成果を出せる生成AIの活用方法を模索しています。実現すれば、障がい者の労働機会を増やせると期待しています。